第6話

 街のスラム通りにあるボロボロの建物‥‥そこに村の生き残りの人達が潜伏しているらしい。

 

「‥‥ここだね。」


 その建物の前に立ち、手にした短剣をぎゅっと握りしめる。

 ここで‥‥僕の過去を断ち切る。そう決意して僕はその建物の扉を三回ノックし、一拍おいてから再び二回ノックした。コレがさっきの男の人に与えられていた合図だった。

 僕を殺し、お父さんやお母さんをも殺し終えた‥‥という作戦完了の合図。そしてもちろんそれはこの中にいる人達が待ちに待っていたものでもある。

 故に‥‥中にいた人がすぐに扉を開けた。


「やったかラミー!?‥‥ッがッ!?」


 意気揚々と扉を開けた男の首を押さえつけ、声を出せないようにする。


「ドレイン。」


 そして男のスキルと記憶だけを奪う。生命力とかを根こそぎ奪ってもよかったんだけど、一日に何人も街から消えたら流石に怪しまれちゃうからね。

 記憶とスキルだけ奪ったら後は放置。僕という存在だけこの人達の頭から消せればそれでいい。


「‥‥残りの人は下か。まず全員動けなくさせてからドレインすればいいかな。」


 ズボンのポケットから小瓶に詰めてある強力な麻痺毒を取り出し、短剣の刃に塗る。コレが少しでも体内に入るとドラゴンでもすぐに痺れて身動きがとれなくなる。とても即効性のある強力な麻痺毒だ。

 その麻痺毒を塗った短剣を片手に地下へと向かう。そして地下にあった扉を勢い良く蹴破り中へと踏み入る。


‥‥右に二人、奥に一人、左に三人。まずは左の三人から。


「ふっ!!」


 叫ばれる前に一人一人短剣で軽く切りつけ、残った人達の方へと蹴り飛ばし一瞬の隙を作る。そこに間髪いれずに踏み込み、残りの人達を全て短剣で切りつけた。

 

「これで良し。もう動けないでしょ?」


 僕の問いかけに答える人は誰一人としていない。もう皆麻痺して口すらも動かないらしい。計画通りだね。


「どうかな、昔蔑んでいた僕に見下されている気分は‥‥最悪?僕が味わったものはこんなもんじゃないよ。何年も洞窟に幽閉されて、ようやく自由を手に入れて平和に暮らしてたら今度は命を狙われる‥‥。もし自分がそういう立場になったらどう?殺したくもなるよねぇ?」


 自分の気持ちを‥‥想いをぶつけるように問いかけつつ、僕は毒で動けなくなっている人達の前でしゃがみにっこりと笑いかける。

 するとまるで壊れたおもちゃのようにガタガタと震え始めた。


「でも安心して?殺しはしないから‥‥その代わり死ぬより辛いかもしれないけどね。あはっ♪ドレイン。」


 殺しはしない‥‥と聞いて少しホッとしたような表情を浮かべた女の人にドレインを使い記憶とスキルを奪う。そして次々にドレインを使い。残ったのは男の人一人と女の人一人になった。


「‥‥ねぇ、もし‥‥もし僕が呪いをもって産まれてこなかったら、二人は僕の事を大切にしてくれた?ねぇ‥‥


 そうこの二人だけを最後に残した理由は、この二人が僕の本当の両親だったから。この二人にはどうしてもこれは聞いておきたかったんだ。

 僕の問いかけに二人は痺れている体で少し首を横に振る。


「そっか‥‥じゃあもういいや。」


 二人の記憶とスキルも奪った。これでもう自分の過去とは完全に決別できた‥‥。

 でも、なんだろう‥‥この気持ち、この人達の答えなんて分かっていたはずなのに、凄く‥‥悲しいな。

 気がつくと僕の眼から熱い涙がポタポタと床に滴っていた。


「‥‥‥さよなら。お父さん、お母さん。」


 二度と僕の事を思い出せなくなった二人に別れを告げ、僕はその建物を後にし家への帰路に着いた。

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