第4話

 テーブルを挟んで僕の真向かいにおじさんが座る。そしてさっそくおじさんは僕に話しかけてきた。


「さて、まずは自己紹介から始めっか。俺はダイ。そんであっちで飯作ってんのが家内のナターシャだ。」


「僕はプラム‥‥こう見えても男‥‥です」


 自己紹介をすると共に女の子という誤解を解くべくわざわざ男です‥‥と告げる。


 するとダンおじさんは凄く驚きつつも、ペコリと頭を下げた。


「すまんプラム、俺にはどっからどう見ても女の子にしか見えなかった。」


「あっ!!うぅん、僕今の自分が女の子みたいなのは自覚してるから謝らなくて大丈夫。」


 勘違いされるような身なりをしてる僕の方が悪いしね。それに誤解も解けたから何も問題はない。


「わりぃな、そんでプラムはどっから来たんだ?」


「あっちのほうにある山から‥‥」


「あっちの山?まさか枯れ山から来たのか!?」


「うん‥‥。僕ずっとそこにある洞窟に閉じ込められてたんだ。」


 そして僕の今まで置かれてきた状況を説明すると、ダンおじさんは絶句し、何もしゃべることができなくなってしまった。

 しばらく沈黙が続き、ようやくダンおじさんが口を開いた。


「‥‥‥すまねぇ、辛いことを話させた。」


「うぅん‥‥大丈夫。辛いのは慣れっこだから。」


「にしてもひでぇ事しやがる。こんな小さい子供にする仕打ちじゃねぇ‥‥」


 やるせなさそうにぎゅっと拳を握り、うつむくダンおじさん。そんな彼の背中を片手に料理を抱えたナターシャさんが豪快に叩く。


「辛気くさい顔してんじゃないよダン。で、この子と何話してたんだい?あたしにも教えてくれよ。」


「あ、あぁ‥‥」


 そして一通りダンおじさんから話を聞いたナターシャさんはふとある疑問を抱いた。


「確かに子供にする仕打ちじゃないけど‥‥洞窟には何で閉じ込められてたんだい?何か村で悪さとか‥‥いや、プラムの目を見る限りそれは無さそうだけど、何か理由があったんじゃないかい?」


 遂に僕が閉じ込められていた理由に疑問を抱かれてしまう。本当はあまり話したくはなかったけど、仕方なく僕は二人に話し始めた。


「‥‥二人は呪いって知ってますか?」


「呪い?呪いっていえばあれだろ?それにかかってる人を蝕んだりする厄介なもんじゃねぇのか?」


「でもそれって何万人に一人ぐらいの確率って聞いてたけど‥‥‥まさかっ!?」


「‥‥はい、僕はその何万分の一を引いてしまった呪い子なんです。だから村の人達から厄介払いとしてあの洞窟に幽閉されてました。」


 あ~あ‥‥言っちゃったなぁ。本当は黙っておきたかったけど、そうもいかなかったし‥‥はぁ、どんな反応をされるかなぁ。

 そして恐る恐る二人の顔色を伺おうとすると、突然僕の頭にダンおじさんが優しく手を置いた。


「プラム‥‥辛かったな。マジで辛かったよな‥‥」


「‥‥ダン‥おじ‥さん?」


 予想外の展開にきょとんとしていると今度はナターシャさんに思いっきり抱きしめられる。


「ったく‥‥呪いだかなんだか知らないけど、こんな小さい子供に酷いことするよ。安心しなプラム、あたしらは呪いとかそんな細かいことは気にしない。なっ?そうだろダン!!」


「おうとも!!」


 初めてこの二人は僕のことを恐れたりせず、受け入れてくれた。そのことを受け止めると目の縁から自然と涙が溢れて止まらなくなってしまう。

 そしてナターシャさんの胸のなかで涙を流していると、優しくナターシャさんが語りかけてくる。


「なぁプラム。実はあたしさ、子供が産めない病気なんだ‥‥ダンはそれを知っててもあたしと結婚する道を選んだ。」


「え‥‥」


「急に言われてビックリしたかい?プラムの秘密だけ教えてもらうのは不公平だろ?だからあたしの秘密も教えてあげようと思ってねぇ‥‥まぁ最後まで聞いておくれ。子供が産めないと余計に子供ってのは欲しくなっちまうもんでさ、何度も癇癪を起こしてダンにその不満をぶつけたりしてたんだ。」


 衝撃の事実だった。あまりにも辛すぎるナターシャさんの境遇に僕は声を出せずにいた。そんな僕にナターシャさんはある質問を投げ掛けてくる。


「‥‥プラムは元いた村の本当の両親の元へ帰りたいと思うかい?」


「‥‥‥」


 無言で僕は首を横に降った。一番最初に僕を捨てたのはその両親だ。戻りたいという気持ちなんてあるわけがない。


「じゃあさ‥‥その‥‥もしあれだったら、プラム‥‥あたしらの子供にならないかい?あ、い、嫌だったら嫌だって言っておくれ。」


 突然のナターシャさんからの提案に僕はすぐに答えを返すことはできなかった。

 確かにこの二人が両親になってくれたら僕は凄く嬉しい。でも僕は呪い子‥‥もしかしたら二人を不幸にしてしまうかもしれない。ということもありなかなか決断できずにいると‥‥。そんな僕の気持ちを察したようにダンおじさんが語りかけてくる。


「プラム、呪いとかそういうのを一旦全部忘れてよ、お前の本心を聞かせてくんねぇか?」


「~~~ッ。ぼ、僕‥‥優しいお父さんとお母さんが欲しい。で、でも‥‥僕は‥‥。」


 呪い子だから‥‥と言おうとしたが、それを遮るようにダンおじさんが言う。


「へっ、それが聞けただけで満足だ。それ以上は言わなくていい。なぁ、プラムこんな俺らが親でよかったらよ‥‥俺のことをお父さんって呼んでくんねぇか?」


 恥ずかしそうにポリポリと頭の後ろを書きながらダンおじさんが言った。

 二人の優しさにさらされた僕は自然と口を開いてしまう。


「お、お父‥‥さん?」


「おう!!今日から俺がプラム、お前の父親だ!!」


「ちょっ‥‥ダン!!抜け駆けはずるいんじゃないかい!?ぷ、プラム、あたしのこともお母さんって呼んでくれないかい?」


「お母‥‥さん」


「~~~ッ!!」


 二人のことをお父さん、お母さんと呼ぶと二人はポロポロと涙を流しながら僕のことを強く‥‥強く抱きしめた。

 初めて感じた優しさというものは、とても‥‥とても暖かくて気持ちよかった。

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