第3話
暗く不気味な森の中を歩いていると遠くの方にようやくたくさんの灯りが灯っているのが見えた。
「あそこが街‥‥かな?意外とまだ距離があるなぁ」
近いとは言っても大人の足からしたら近いには違いないけど、僕みたいな子供じゃそれなりの距離があるように見える。
街まではもう少し時間がかかりそうだ。
「街に行ったら何をすればいいんだろ‥‥まずは宿を探すところからかな?」
ふかふかのベッドで寝られるかな‥‥少なくとも洞窟のごつごつした地面で寝るよりは体も痛くならないだろうし、ぐっすり眠れると思う。だから街まで後ひと踏ん張り頑張ろう。
ふかふかのベッドで寝られるという希望を胸にまるで鉛のように重くなりつつある足を動かして灯りのほうへと歩みを進めた。
◇
森を抜け、整備された道を進み灯りの灯る方へとひたすら向かっているとようやく街の入り口が目前に迫った。
街ということもあり、ある程度人通りもある。それに暗いから僕の姿が目立つなんてことは無さそうだ。安心して歩けそう。
「ふぇ~‥‥街って大きいな~。僕がいた村とは大違いだね。」
遠くから見ていたときはそんなに大きく感じなかったけど改めて街の入り口に立って眺めると、とても大きいのがわかった。あの村と比べちゃ可哀想な位だ。
「えっと‥‥まずは宿を探さないと。ここまで来て野宿はやだもんね。」
辺りをキョロキョロと見渡しながら宿屋らしき建物を探す。とはいっても宿屋がどんな建物なのかわかるはずもないんだけど‥‥看板とか出てればいいな。
上を見上げながら歩いていたら前から歩いてくる人に気が付かずドン!!と派手にぶつかってしまった。
「あぅ‥‥ご、ごめんなさい。」
「おう!!ちゃんと謝れるたぁいい子だ。気ぃつけて歩きな嬢ちゃん。にしても、こんな時間に出歩くのはあぶねぇぞ?」
すぐに謝ったのが幸いしたようで、ぶつかった人はポンポンと僕の頭を撫でて優しく注意してくれた。一つ間違っていることといえば僕は女の子じゃないんだけど‥‥まぁ髪も長くなっちゃってるから仕方ないかな。
「あ、あの僕宿屋を探してて‥‥」
「あ?宿屋?なんでまた‥‥父ちゃん母ちゃんと喧嘩でもしたのか?」
「うぅん、僕一人なんだ。ずっと‥‥ずっとね。」
お父さんもお母さんも僕のことを直ぐに見捨てた。結局呪いを持って産まれてきた僕はあの人達にとって都合の悪い存在だった。
「‥‥なんか訳ありって感じか。それならしゃあねぇ、いい宿屋紹介してやるよ。着いてきな。」
‥‥‥本当に着いていって大丈夫かな。一応警戒はしておかないと、いつ襲ってこられてもいいように‥‥ね。
警戒を緩めず僕は男の人に着いていく、そして案内された先には‥‥。
「ここだ。どうだ?ちいせぇがなかなかいい宿屋だろ?」
「あ‥‥う、うん。」
連れてこられた先には本当に宿屋があった。小さいけど、僕はそんなにお金を持っていないからちょうどいいかも。
そして僕をここまで案内してきたおじさんは、まるで自分の家のなかに入るようにずかずかと宿屋の中に入り誰かの名前を呼んだ。
「おーい!!ナターシャ客連れてきたぞ~?」
「あ゛ぁ゛?ダイ!!あんた今の今まで手伝いもしないでどこ行ってたんだ?ようやく帰ってきたと思えば客を連れてきただぁ?ふざけんのも大概に‥‥ってその子どうしたんだい?」
怒声を響かせながら奥から髪を振り乱した女の人がこっちに向かって歩いてくるが、僕に気がつくと怒声を納め、とても優しい声で問いかけた。
「だから客だって言ってんだろ?」
「はぁっ!?あんたこんな小さい子供が客になるわけ無いだろ!!ったく‥‥なぁお嬢ちゃん?家はどこにあるんだい?お姉さんが連れてってやるよ。」
おじさんの言葉を信じられない様子の女の人は腰を落として僕の頭を撫でながら言った。
「あ、あの‥‥僕ホントに宿を探してて‥‥あっ!!お金‥‥これじゃ足りませんか?」
なんとか信じてもらうためにお金の入った袋を見せると女の人は表情を一気に強張らせた。
「‥‥‥っ」
「ナターシャ、この子はなにやら訳ありらしいんだ。話は飯でも食いながら聞いてやろうじゃねぇか?」
おじさんが女の人に提案すると女の人はコクリと頷いた。
「‥‥わかった。っと!!さてさてじゃあ久しぶりに腕を振るうとしようかねぇ!!お嬢ちゃん、何か好きな食べ物とかないのかい?」
「あ‥‥ご、ごめんなさい。僕‥‥好きな食べ物とかわかんないです。」
「そ、そうかい‥‥じゃああたしのお任せでいいかい?」
「うん。」
そして女の人は腕捲りをして料理を作りに向かった。その料理ができる間僕はおじさんと少し話をすることになった。
ただ、一つ心配なのは僕が呪いを持っているということを話すべきか‥‥それとも話さないでいるべきか‥‥。この人達は僕が呪いを持っていると知ったらどんな反応をするだろう?
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