第3話 オルグ……



 大荒れの海である。台風による影響だろうか。船員を含め五0人程が乗った、遣唐使船の様な帆船が、小舟の様に大波に翻弄されていた。舳先にぶつかる波が白く砕け、その大粒の滴が雨と共に乗員や船客達に降り注いでいた。積み荷が船の甲板を左右に往復し、海に投げ出される者もいる。


「ナーカル様ッ! しっかり捕まっとって下せえよ~ッ!」という叫び声が夜の闇に轟く。「おうッ!」と声を返したのは、ナーカルと呼ばれたその青年である。そして彼は、


「三年振りの私の帰国に、天も騒いでいると見えるな……」と呟きながら、帆柱に縄で自分の体を強く結び付けた。彼の纏っているローブもずぶ濡れになっている。


 激しい雷光、そして雷鳴が轟いた。近いようだ。


「船長! 陸が見えますッ!」という船員の声が、雨風の音を切ってナーカルの耳に届く。ナーカルは、目に入る雨を手で拭い、船の進行方向に目を向けた。


「もうすぐでヒラニプラか……」と、そのナーカルは呟いた。


 ナーカルとは『聖なる導師』という意味であり、世界中に太陽の法を説く伝道師。キリスト教でいう『エヴァンジェリスタ』(福音を宣べる者)である。

 彼の名はラ・ナス。そのナーカルの一人で、今、三年もの伝道の旅の帰路の航海中である。だがその航海ももうすぐ終わる……。そんな安堵感に浸っていた矢先の、この暴風雨だった。


 と、その時である。ラ・ナスは街の灯りを眺望していた瞳を擦った。

「ん? 何だ……」と呟く。ラ・ナスは自分の目が変になったのかと思った。今、大波に揺れる船の上でも、確かにヒラニプラの美しい灯りを見る事が出来たのに、それが次第に歪み始め、蜃気楼の様にブレているのだ。


「フフッ。船酔いでもしたかな。海で育ったこの私が」と言って笑い、片手で目を覆うラ・ナス。その彼が、目を開けた瞬間だ。


「ウオッ!」と、ラ・ナスは叫んだ。いや、この船に乗っている全ての者が我が目を疑った。目の前の空間が歪み、一瞬の閃光が走ったかと思うと、船の鼻先に突如、黒い塊が出現したのだ。龍の様に踊り狂う雷霆の光が、その塊を照らし出す。


「く、鯨だーッ!」と叫ぶ船員に対し、

「馬鹿言えッ! あんな鯨がいるものかッ!」と怒鳴る別の船員。確かに、鯨の様な生き物ではない。無機質的な黒い肌が無気味に光った。

「どっちでもいいッ! 面舵だッ!」と船長が絶叫した。

が、既に遅かった。船はその黒い塊に船首から激突した。船から積み荷も人間も投げ出されたが、帆柱に強く体を縛り付けていたラ・ナスは、破砕されてゆく船と共に、このままでは海の藻屑となってしまう筈だ。

「おい、おい、冗談じゃないぞ~! 愛しいサリナをおいて死んでたまるかッ!」

 ラ・ナスは、沈みゆく船の上で波を被りながら、必死に何重にも縛った綱を解こうとするが、無駄な試みだった。だが、幸いな事に、帆柱の上部が黒い鯨の様な塊にぶつかり、その衝撃で帆柱の根元がバキバキッ! という音を立てて折れたのだ。ラ・ナスはその折れた帆柱ごと海に放り出された。船体の方はあっという間に波に呑み込まれた。

 そして帆柱に縛られたラ・ナスは、自身の重みの為に体は海面下にある。だから、息をする為に必死に体を揺らし、帆柱を回転させ、海面から体を出そうとするが、一度海面に体が出ても直にグルンと帆柱は回り、また海面下へ。体が海面に出る一瞬に息をするのだが、またグルンと海中へ。傍から見れば間抜けな光景だが、当のラ・ナスには命の存続の為に必死の行為である。そんなラ・ナスの脇を、船にぶつかった黒い塊が過ぎる。

 ドザエモンとは水死体。肛門筋肉が硬直した、ガスが体内で発生し、男でも腹が膨れ、太った人間か妊婦のようになる。

 決して死姦されて、妊娠した訳もない。


「ワプッ! 何なんだ、ゴホッ! こ、こいつは? ウワッ!」と言って、再び海面下に潜らされたラ・ナスは、更に驚くべきものを見た。

「ゴボボッ!?」(「何だッ!?」と云っているらしい)

「ウボゴゴゲボボッ!」(「……」訳出不能……)



 ラ・ナスは海中で神秘の光を見た。くらげの様にグニャグニャした大きな半透明の物体が、赤や青の光をその体の内部で発光させながら、海面下五m辺りを漂っていたのだ。

(あ、あれは、まさか『ル・ヴィ・ア・ドゥレ』かッ!)と、ラ・ナスは心で叫んだ。

 その時、ラ・ナスの思考波に反応するかの様に、その半透明の物体が浮上を開始した。その半透明体が浮上してくるにつれ、その半透明体の内部に、白い小型の鯨の様な物体が見えてくる。実際は鯨ではないが、ラ・ナスにすればそれ意外に形容の仕方がなかった。 

 そして、その半透明体が海面に浮上した、その瞬間である。白鯨を包んだ半透明の軟体生物が、鯨の横にある幾つもの目の部分に吸い込まれる様に、見る見る内に小さくなっていき、とうとう白鯨を包む半透明体は完全に消え、白鯨だけが海面に漂っていた。

「……偉大な母なる、『ル・ヴィ・ア・ドゥレ』の伝説は本当だったのか……」

 ラ・ナスは一瞬出た海面でそう呟いたが、悲しいかな、グルリンコと回転し、海中で、「バブベベブベ、ベ、ベ……」と叫んだ。(筆者訳「助けてくれ、れ、れ……」)




 ……光が見える……。何だろう……。赤や青、紫まるで虹の様……。

 一体どうしたんだろう私……。体がフワフワしてるみたい……。ああ……、何だか気持ちいい……。裸で水中を泳いでいる様な感じ……。いや、そう……。宇宙に浮かんだシャボン玉の中のプールで遊泳している様な感じだわ……。

 と、その時、彼女の心象風景の中のシャボン玉が、パチンッと弾けた。


「ううんッ……」という微かな声が、ひなげしの花を揺らす涼やかな風の音の様に、美々の薄い唇から洩れた。美々は目を開けようとしたが、瞼の上からでもきつい日差しが、そうさせなかった。

 「The Madonna's snow」号の中に、左右に並ぶ円窓から朝日が差し込んでいる。船内は水浸しの状態だった。ウッディーはパイロットシートで、前面のコンソールパネルに体を埋め、小次郎を含めレオタード姿の少女達やあの代議士先生親子、サンドラやゴルティエも皆気を失って、体を無造作にシートに投げ出していた。

 美々はゆっくりと目を開け、眩しそうにする目をしばたつかせながら円窓を覗くと、


「キャ~ッ!」と美々は絶叫して目を覆った。美々が覗いた壊れていない円窓の外の海面に水死体らしき男の顔が浮かび、美々の顔を見つめていたのだ。

 水死体の事をドザエモンと言うが、水死体は大体お腹が膨れる。リフレインする。決して死後に凌辱され、死んだ体が妊娠した訳でもない。腸内残存物が発酵しガスが溜まり、肛門筋が硬直して閉じた時に、老若男女問わず、死後にドザエモンのお腹が膨れるのだ。決して死後に凌辱されて妊娠した訳でもない。

 美々の絶叫で他の皆も目を覚ました。

「ど、どうしたんですッ!」と、あのわからず屋先生様の息子の赤城政治が叫び、次いでウッディーもパイロットルームから飛び出してきた。他の皆も美々の方を見た。


「あ、あれ……、死、死んでる人……」と、美々は震える声で答えた。


「逃げ遅れた『サン・ファン・バウティスタ号』の船客か?」とウッディーが答え、美々が指差す方向に、視線を向けると、

「……おい、こいつ死んでないぞ」とウッディーが笑いを堪えながら云った。他の皆もクスクスと笑い始めている。


「エッ!?」と美々は言って、恐る恐る円窓の外を再度覗いた。そこには、柱に縛られた一人の男が泣きべそをかく様な顔で、必死にグルグル回っていた。と、その時、


「……おいおい、ダメだよ、そんなとこ触っちゃ……」と、茫然自失となっている美々の脇小次郎が寝言を云った。カチンとくる美々……。


「このおバカッ!」


と、小次郎の頭を殴る美々の姿と、

「何だ? どうしたの?」と寝惚け眼で呟く小次郎の姿に、皆、あの大先生さえ笑った。


「バブッベバイベバブベベブベボ~ッ!」(「笑ってないで助けてくれよ~ッ!」)

 ラ・ナスは、まだ回っていた。


「おいッ! あそこだ! ナーカル様が海に浮かんでる! 速くお助け申し上げるんだ!」

「あれは何だッ?! 白い鯨みたいなものが浮いているぞ! 船がぶつかったというのはあれかッ?!」と、船の舳先で、甲冑に身を包んだ風貌の良い青年が凛とした声で叫んだ。

「いやッ! あんなもんは見てねえッ! わしらがぶつかったのは、真っ黒でもっとバカでけえ鯨みてえなもんだ!」

 






「ヘイ、キャプテン! あれを見て?! 船がこっちに向かって来るわ。きっと救助船よ!」 

 自分の席の割れた円窓を覗いたアメリカ代表のマリエル=リンゼイが英語で叫んだ。此所にいる中で、英語が話せないのは小次郎とあのお偉いさんだけである。

 マリエルの言葉を聞き、ココや、アイシー、そしてサンドラ達は狂喜乱舞する。


「いや、ちょっと待て。……俺は白昼夢でも見ているのか? 時代錯誤もいいとこだぞ」


 ウッディーはポケットから小型の双眼鏡を取り出し、マリエルの云う方向を覗いたが、この潜水艇に近付く三隻の帆船も、乗っている人間の格好も、とても現代的なものとは言えず、マリエルの云う救助船とは違うようだった。

金属の甲冑に身を包んでいる兵達が、槍を構えて何か叫んでいる。ウッディーは、海軍のものの様な帽子を被り直した。


(映画のロケか)


 とも考えたウッディーの脳裏をそんな思考が交錯する中で、決定的に現代と違う光景をウッディーは見た。


「陸が見える……。島じゃない……。こいつぁ、大陸だ……」


「大陸ですってミスターボールドウィン? 我々は東シナ海の真ん中にいる筈なのですよ?」

 

 ウッディーの呟きを聞いていた赤城政治が、そんな馬鹿なという顔をした。


「そんな堅っ苦しい呼び方は止めにしてくれ。そうさな……。日本流にウッディーさんとでも呼んでくれ。こう見えても俺は日本語だって話せるんだぜ。グランマが日本人だったんでな。まあ、それはいいが、ほれ。こいつで覗いてみろ」

 と、差し出された双眼鏡を、割れた円窓から顔を出す様にして覗いた政治は驚愕した。その双眼鏡に映ったのは、なだらかな山地を背にした広大な陸地の景色だったのだ。

「ハッ? じゃあ、我々は海流に流されて、中国大陸の近くまで来てしまったのでは?」

 それを確かめるべくウッディーは、パイロットシートに戻り、非常用電源に切り替えると、コンソールパネルのキーボードを叩いた。

 そして、モニターの表示を見て愕然とした。

 その時、ウッディーに云わせれば時代錯誤的な船が、『The Madonna's snow』号の側に停船した。そして、甲冑の兵士達が槍を構え、『The Madonna's snow』号の上に飛び降りた。『The Madonna's snow』号がその衝撃で大きく揺れる。


「ナーカル様ッ! 大丈夫ですか!」と、兵士の一人が船上からラ・ナスに声を掛けると、「でーじょぶかどーかは見ればわかるだろうが! ワプッ!」と、またグルリンコ。


「面白いからほっときましょうかダルクス様」と言う言葉に、笑みを閃かす兵士達。


「冗談など云っとらんで速く助けて差し上げろ」

 と、兵士達の背後にいた一段派手な甲冑を着たダルクスという男が云った。そして、ダルクスは海面を覗く様に身を乗り出して、

「お久し振りです。ラ・ナス様。随分と派手なご帰国ですな」と、皮肉混じりに言った。


「何か妙な事になってきたな」と言ったのは小次郎である。


「アンタ今まで寝ていたくせに何がわかるのよ」と、美々がぶっきらぼうに言い放った。 


 潜水艇『The Madonna's snow』号の円窓から、先程美々が水死体と間違えた男が船の上に引き上げられ、その船の指揮官らしき男と二言三言言葉を交わし、抱き合っている光景が見える。

「ダルクス元気そうじゃないか! だが、どうして近衛のお前がこんな所にいるんだ?」 

 船に引き上げられたラ・ナスは、兵に差し出された布で短くした金色の髪を拭いている。「ラ・ルク様の御供です」と云って、ダルクスは羽飾りの付いた兜を外すと、銀色の長い髪がファサリと垂れた。二人共、身長一八0㎝位で、歳は二十五、六といったところだ。

「……戦況が悪いのだな」と、ラ・ナスは声のトーンを下げた。


「はい……。ラ・ヴァルゼ将軍とラ・メムレー将軍の軍勢が首都ヒラニプラの東五0ベブルの所まで侵攻して来ているのです。現在ラ・ルク様は前線視察中であります」


「皇太子自らの出陣という訳か……。戦好きでないあいつが……」


「それも、本当なら皇太子である筈のあなたがナーカルになどなっておしまいになるからですぞ。首都ヒラニプラを死守すべく、ラ・ルク様は意を決して……」


 ダルクスは言葉を詰らせた。そんなダルクスにラ・ナスは、


「……だが、俺はラ・ムーの子じゃない。ラ・ムーがラ・ムーになる前に出来た子だ。元老院は俺を皇太子として認めはしないだろう」

「それは前皇帝派の策謀だという事はあなたも御存じな筈! 前例はいくらでもあるのですぞ! ただ、ラ・ムーを皇帝の座から引き摺り下ろしたいが為のラ・ヴァルゼ将軍らの陰謀だったのです。その為に、文武に優れ、その間の抜けた、いや、誰からも好かれ、人望のあるラ・ナス様の存在が彼等には邪魔だった」

「まあ、いいさ。その話は止めだ。俺はナーカルだ。それ以上でもそれ以下でもない」

「相変わらずですな、あなたは……。ところで、この白鯨みたいなものは何ですか?」

「俺にわかる筈がないさ。だが……」と云ってラ・ナスは言葉を止め、少し思索して、

「……こいつの方は何も知らんがな、俺達の船がぶつかったのは黒い巨大な鯨だ」

 ラ・ナスは、この白鯨を包んでいたあの半透明体の物体の事は言わなかった。

 その言葉を聞き、ダルクスが兵に命じて『The Madonna's snow』号を調べさせ始めた。

 列になって並ぶ円窓の一つ一つに、美々や小次郎、ウッディー、マリエルやココ、アイシーとサンドラ、赤城親子達の顔がある。しかし、ロシア代表ルルシェと、モード界の大御所ジャン・フランコ・ゴルティエだけは、至って冷静にシートに腰掛けていた。


「やばい! 槍を持ってこっちに来るよ! ウッディーさん!」と小次郎が叫ぶ。

「もう訳がわからん。兎に角話をするより仕方あるまい」と、ウッディーは潜水艇の上部ハッチに上がる階段を昇り、手動でハッチを開けた。すると、いきなり甲冑姿の兵士達が、ウッディーに槍を向ける。ウッディーはゆっくりとホールドアップした。

「おい! ジョークはよ、せ……よ。フーッ。……どうやら本気みたいだな」

「中にいる者を全員捕らえろ!」とダルクスが部下に命令した。

「おいダルクス! 彼等をどうするつもりだ!」と、ラ・ナスが叫ぶと、

「彼等を庇う特別な理由があるとは思えませんが。助けられた訳ではないでしょう?」


「確かに……。笑われて、助けて貰えなかったが……。だが!」と、美々を見る。

「彼等が反乱軍側の人間である可能性がある以上、捕縛して尋問しない訳にはいかない」

 ダルクスが、兜を被りながらそう云った時、『The Madonna's snow』号の上部ハッチから連れ出された美々達が、上部甲板に並ばされた。


「ドン タッチ ミーッ!」


 と叫ぶマリエル。マリエルの肩を兵士が掴んでいる。


「止めないか君! 一体何の権利があってー」と、兵士に詰め寄る政治が他の兵士に殴られた。その行為に激怒した議員先生が、「貴様ッ!」と叫び飛び掛かろうとするのをウッディーが制止する。


「ここはおとなしくしていた方がいい」と云うウッディー。そして、辺りを見回す。

 ガレオンタイプの三隻の帆船。その船に乗る兵達は色々の肌をしている。白人らしい者もいるし、東洋人や黒人もいる。甲冑を付けた兵達の中で、白いローブを纏った、金髪で長身の男がやけに目立つ。その男は、柱に縛られ溺れていた男である。

 ウッディーは耳をすます。彼等の会話から自分達の置かれている状況を把握する為だ。

「……。変な言葉だな」とウッディーが呟き、更に「日本語の様な……」と呟く。

 そのウッディーの言葉に議員先生も耳をすまし、彼等の声を聞き取ろうとした。

「大和言葉か?」と呟く議員先生。

「わかるのか?」とウッディーが聞くと、議員先生は、

「日本の古い言葉の様だな。単語を拾っていけば話の大体は分かる。どうやら、わしらは連行されるようだ」と答えた。

「何だって?」とウッディーが叫んだ瞬間、何本ものロープが『The Madonna's snow』号に投げられた。曳航用のロープだろう。


「どうなったんだよおいら逹。映画のロケなんかじゃないよな」と小次郎が言った。


 小次郎のその言葉を聞きがら、美々は自分の記憶を必死に辿った。『サン・ファン・バウティスタ号』から潜水艇で脱出して、浮上。安堵していた時に、彼女は信じられない光景を目の当たりにした。


(ベベルゥさん)

 

青白い光に包まれ、円窓の対水圧の強化ガラスが割れたと思ったら……。そこでもう記憶が途切れている。


「ああ! わからない……」と美々が呟いた時、先程彼女が水死体と間違えた男が、こちらを見てニコッと笑った。美々は、その眩しい笑顔に一瞬ドギマギして、顔を背けた。

「フフッ」と、ラ・ナスは、少女のはにかんだその顔を見つめながら微かに笑った。

「あんな可愛い少女達が反乱軍の訳ないだろう? まあ、中には元老院の古狸みたいな奴もいるが……」と、議員先生の方を見る。

 ラ・ナスが、彼等を庇うような態度を取っているのは、彼が「ル・ヴィ・ア・ドゥレ」と呼んだ半透明体に関係がある事は間違いなかった。

「しかし、彼等の乗っていたこの鯨。この様なカラクリを持つ物を反乱軍が使っているという情報があります。何らかの関係があると見た方が……」

「フーッ。軍隊というのは懐疑的でいけないねえ。この太陽の下では、もっと大らかにならなくちゃ。殊に女性に対してはな」と云って、呵々大笑するラ・ナス。


「ラ・ナス。あなたはそんな事を云っておられるから、女性に遊ばれるのですよ」

「ま、まさか……」

「いつ迄も待っているとあなたに約束したサリナとかいう女性は他の男と逃げましたよ」

「そんな~ッ! おおッ、愛しのサリナよッ! 許したげるから戻ってきておくれ~ッ!」


 ヒラニプラの外港ファロンは、人口三0万を数え、この大陸有数の貿易港である。世界各地からの貿易船が入港し、此所で荷揚げされた商品は中型の別の船に積み替えられ、ファロンで太平洋に注ぐガンダル川を上ると、ガンダル川と繋ぐセルモンド運河を通じて、内陸まで運ばれる。だが、このセルモンド運河とランダスティア運河が、丁度反乱軍の勢力範囲との境になっている為に、現在は使用不能の状態になっていた。


 美々達は全員船に移された。そして、ラ・ナス、美々達を乗せた船は、ファロンに向かい、他の二隻は、黒鯨捜索に向かっている。


「ワーッ! 見ろよ美々! イルカだよ!」


と、小次郎は笑顔で、ベベルゥの事で塞ぎこんでいる美々を励まそうとした。彼女達の乗った船と並走して数匹のイルカが泳いでいる。 小次郎の言葉を聞いたマリエルやココ、アイシーといった美少女軍団も、歓声を上げてそのイルカを眺めている。声は出さないが、ロシア代表のルルシェも、切れ長の瞳を輝かせて、そのイルカを目で追っていた。

 平和な時には貿易船で埋め尽くされるファロンの港には、カルバリン砲やキャノン砲といった大砲を搭載した軍艦が多く停泊し、そうした軍艦の側を摺り抜け、美々達を乗せた船が入港した。港は大勢の人間で溢れかえっていた。皆が船に向かって手を振っている。

「すごいなこれは……」と、ラ・ナスが感心した様に云った。

「あなたの出迎えですよ。ラ・ルク様もあなたのお帰りを心からお待ち申し上げていたのです。この国難に御兄弟力を合わせて頂かないと、遠からずしてこのムーは……」


「おい、美々……」と小次郎が耳打ちした。皆縛られてはいないが、槍を構えた兵の監視付きだ。そして小次郎は更に、


「あの人、今『ムー』って言わなかったか」


「『ムー』って、あのムー大陸の事。一万二千年前、突如海に沈んだっていう……」

「だけど、太平洋にそんな大陸が嘗てなかった事は科学的に証明されているんだよ。だからお父さんは、一週間前の海底調査での海底遺跡の発見で、大昔に沈んだ、沖縄周辺の『琉球古陸』こそが、ムー大陸だったって事を証明したんだよ。それに、何で現代に……」

 美々が小声で云った。


 入港した船、そして潜水艇も桟橋に係留され、美々達は船から下ろされた。

 ラ・ナスは、ナーカルとして、そしてラ・ムーの子として、民衆の歓迎を受けている。美々達……も、何だか歓迎されているようだった。民衆は彼等をラ・ナスが異国から連れてきた者達だと思っているらしい。民衆は美々達を笑顔で取り囲み、手で触れたりしている。美々達はそんな自分達への歓迎ぶりに当惑しているのが本当のところだ。

「一体どういう事なんだ」と、ウッディーが民衆の熱狂ぶりを見ながら呟いた、その時、「トレビアンッ!」と、嗄れた声で叫んだのは、ジャン・フランコ・ゴルティエである。

 ゴルティエは、民衆の中にいた女性の一人の着ている服を触り、その素材の感触を手で楽しみ、次いで、その彼女の体を上から下へと順に撫で始める。ゴルティエのマジックハンドである。例え一回のステージで数百万のギャラを稼ぐスーパーモデルでも、ゴルティエのマジックハンドにかかれば、皆子供みたいに体をクネらせる。正に女性を桃源郷に誘う魔法の手である。今、ゴルティエに体を預けている女性も、案の定……。


「ジャン! あッ! いえ、ムッシュウ・ゴルティエッ! 何を為さっているんです?!」 と、まるで嫉妬に狂った女の金切り声に近い声を出したのは、サンドラである。


「黙ってなさい、サンドラ!」と言いながら、猶もゴルティエは夢中に手を動かしている。

「サンドラ……?」と、ココが呟き、更に


「ハッ! サンドラ=アトキンソン?!」


「サンドラ=アトキンソン、って、もしかして、スーパーモデル第一号の!」

 そうアイシーが叫ぶと、今まで一度も口を開かなかったルルシェが、


「確か誰かさんをめぐって奥さんと法廷で争った事件がきっかけで、モデルを止めたんじゃなかった?」と、刺のある云い方をサンドラにぶつけ、そしてゴルティエを見た。

 キッとした顔でルルシェを睨み付けるサンドラ。


「メルシー、マドモァゼル」


 と言って、ゴルティエは漸く手を止め、その女性に投げキスをして、手を振った。その女性の表情はうっとりとし、目はまどろんでいる。

 何度も振り返り、手を振るゴルティエの尻を抓るサンドラの姿を、後ろから見つめていた美々。ラ・ナス達を先頭にし、軍勢がヒラニプラに向い港から進軍を始める中、美々と小次郎の側にマリエルが歩み寄ってきた。

「ねえ、英語大丈夫だよね。私はマリエル。マリエル=リンゼイ。あなたは?」


「私? 美々。チュチュ=アキオ、十四歳。母が日本人で、父がハーフなの」

「じゃあ、皆同い年ね」と言って、マリエルはやや後方を歩くココ達に目をやった。

「あの子がフランス代表のココ、その隣にいるのがイギリス代表のアイシー。私がコンテストで仲良くなった子達よ」


「あの子は?」と、美々は一人歩くルルシェを見た。

「あの子はロシア代表。マザーが世界的プリマドンナなんだって。プライドが高いんだか知らないけど、こっちから話し掛けても答えてもくれないんだ。正に氷の美少女よ」

「けど、同い年でもマリエル達は私よりずっとグラマーね。流石未来のスーパーモデル」 ちゅちゅ

 美々は、ロングの金髪をポニーテールにした、マリエルの全身を眺める。

「何言っているの。あなただって十分キュートじゃない。こういっちゃ何だけど、コンテストに出ていた日本代表の子より、あなたずっと美人よ」と、マリエルはwink。


「あの~、エク、すきゅーうずみ~」と下手な発音。小次郎である。


「何よ! 小次郎!」とは美々の言葉。

「何だはないだろ~。自分達だけ自己紹介して、俺の事も紹介してくれよ~」

「わかったわよ。え~と、マリエル。こいつは小次郎」と味気ない紹介。

「ハーイ。小次郎」と言ってマリエルはニコッと笑った。そして、ヒノナに二言三言。

「小次郎。マリエルが、日本の少年は、皆そんな格好をしているのかって言っているわ」

 小次郎は、文楽の舞台衣装、袴姿である。


「おーッ! おーッ! 美々! おいらは文楽の人形使いだからって、云ってくれよ!」

「あんたまだなってないでしょ!」と言いつつも、呆れ顔の美々がその通り訳すと、

「ワオッ! 私、あの人形劇見て感動したわ! 小次郎もきっと上手なんでしょうね!」

 感激するマリエルが、小次郎の頬にキスをすると、小次郎はゆでだこ状態になった。そんな小次郎に熱い視線を送る少女が一人……。


「ねぇ、アイシー。あの子、可愛くない?」

「そう? ココも物好きね」


 大船団をもって反乱軍を攻撃しようとしている、皇太子ラ・ルクが入城している城砦ミズルハは、ファロンを一望出来る小高い丘に建てられていた。此所は、反乱軍鎮圧の最前線基地であり、城砦の中は兵達で溢れていた。美々達は、その城砦の中に連れて来られた。

 港からの道程、ウッディーはというと、議員先生に兵達の会話を聞き取らせていた。最初議員先生は、お前の秘書兼通訳になったつもりはないとウッディーに食って掛かったが、あなたの知恵に頼るしかない、と煽てられると、よっしゃ、よっしゃ、と引き受けた。ウッディーは思ったものだ。政治家は煽てるに限ると。



「ダルクス。彼等を粗末には扱うなよ。贅沢な待遇をせよとは言わんが、牢に入れ、拷問に掛けたりする事は止めてくれ」

 城砦ミズルハの一室で、ラ・ナスはダルクスを前に頭を下げた。

「それは、ラ・ムーの御子としての御命令ですか?」

「いや……。お前の親友としての頼みだよ」

「フフフッ……。やはり君は変わってないな」

 ラ・ナスの肩を叩き、優しい笑みを浮かべるダルクス。

 そこに、扉が開かれ、不釣り合いな程重厚な甲冑を身に纏った、あどけない顔の少年が入って来た。

「兄上!」

「ラ・ナク!」

 三年振りの兄弟の対面であった。





 石造りの城砦内の、広い一室である。扉の外では兵が監視していた。美々達はその部屋に軟禁されているのだ。何もない殺風景な部屋。だが、軍事基地たる城砦なのだから、豪奢な装飾、調度品など置かれている筈もない。

 美々達が此所に入れられ三時間が経過。一通りの自己紹介は済んでいる。


「おい。皆聞いてくれ。日本語だと兵達にわかってしまうかもしれん。英語で話すから、議員先生にはセイジ、コジロウ君にはチュチュ、君が訳してあげてくれ」

 そう言って、ウッディーは議員先生が収集した情報を纏めた結論を皆に話し始めた。


 この部屋の中、美々は小次郎やマリエル達と、サンドラはゴルティエの側におり、ルルシェは一人で、石の床に横座りしている。


「どうやら、此所は、……ムー大陸らしい」と、徐にウッディーは語り出した。


「ムー?!」と皆が一斉に声を上げ、小次郎は「やっぱり!」と叫んだ。


「俺は双眼鏡で陸を見つけた後、『The Madonna's snow』号の位置確認をしようとした。これは人工衛星を利用したGPSシステムを使うんだが、精度は誤差数㎝で、現在位置を知る事が出来る。しかし……だ。人工衛星からの電波が受信出来なかった」

「壊れていたのではないのか」と、ゴルティエが云った。議員先生と同じ年代なのだが、そうとは思えない程のギャップがある。長身でスマートなゴルティエは、六0を過ぎても多くのモデルと浮き名を流す程の男である。その穏やかな口調には、気品が感じられた。「いや、システムそのものは不思議な位正常でしたよ。他の電気系回路も破損した形跡は見られなかった。GPSシステムは二四個の人工衛星の内の四個の衛星からの電波を受信、三角測量の要領で位置確認するものです。だから世界中何処の海にいても、現在位置を確認出来るんですよ。しかし、その電波が受信出来ないという事は、今現在の空に人工衛星が飛んでないとしか考えられない……」


「ウッディーさん! 百歩譲って人工衛星が飛んでないとしてもです。何故、それがムー大陸と繋るんですか!」と、政治が吠えた。


「……タイム……トリップだよ」と、ウッディーはポケットから煙草を取り出して火を点けた。皆は、ウッディーの次の言葉を息を呑んで待った。



「……六0年前、フィラデルフィア実験という軍事実験が行われた。これは、艦船がレーダーで捕捉されない様にする為に行われた実験だったが、その実験中にテレポート現象が起きた。そのテレポート現象の理論は、タイムワープの理論でもあったのさ。アメリカ軍は極秘にタイムワープの研究を行い続け、そして四年前の1999年に、あるプロジェクトチームが結成された。原子力潜水艦をタイムマシンに変える為のな……」


「原子力潜水艦をタイムマシンに?! そんな事が可能なのかッ」と、議員先生が言った。


「潜水艦……。ああッ! い、いやッ! 止めてッ!」と、突如ココが泣き喚き始めた。

 扉の外の監視兵が、中を覗く。


「どうしたの!」と、美々は叫び、暴れようとするココの体を押さえようとした。

「きっとココは、コンテスト会場に現れた潜水艦の事を思い出しているのよッ!」

 アイシーがそう云うと、

「何だとッ! それを何でもっと早く云わないんだ!」と、ウッディーが怒鳴った。


 尚も泣きじゃくるココ。美々がココに手を振り解かれ、飛ばされそうになった時、小次郎がスーッとココの前に出て、ココの叫び声を唇で奪った。バタつかせるココの手が、次第に萎えて、ココの体から力がスーッと抜けていくのが他の者にもわかった。

「若い者はいい……」と呟くゴルティエに、サンドラが肘鉄を食らわせる。

「ごめん……。えっと……、アイム ソーリー……。大丈夫? オーライ?」

「ウィ……」

 頬を紅潮させるココの瞳に映る小次郎の姿は、彼女の記憶の中にある日本の男、サムラ ちゅちゅイそのものだった。明かに小次郎を意識しているココの横顔に、複雑な視線を投げる美々を他所に、ウッディーが話を進める。

「セイジ、潜水艦が『サン・ファン・バウティスタ号』の中に現れたのは本当か?」

「ええ、ウッディーさん。信じて貰えないと思ったから皆話さなかったのでしょうが、あれは幻覚などではなかった。半透明化した潜水艦に、人間が埋め込まれていったんです」

「間違いない……。アメリカは、再びフィラデルフィア実験の惨事を引き起こした!」

「しかし、只の潜水艇乗りが何故そんな秘密を知っている?」と、議員先生が云った。

 ウッディーはその言葉を聞くと、まだ吸ってもいない煙草を床で消した。


「……俺が、その『原潜タイムマシン化計画』で新造される予定だった、SSBNの艦長になる筈の男だったからさ……」


「何だって?!」と、皆が驚愕の声を上げた時、木製の扉がギィーッと開いた。現れたのは、純白のナーカルの礼装を纏ったラ・ナスだった。溺れていた時とは比較にならない程のその涼やかな男振りに、マリエル達が思わず感嘆の声を上げた程だ。

「言葉が通じるかどうかわかりませんが」とラ・ナスが言った。議員先生が、

「大体はわかるぞ」と、ウッディーを横目で見ながら得意満面そうな顔で言った。勿論その言葉は、古文調の日本語である。

「訛は強いが、『ムー』の言葉を話されるとはね……。君達は何処から来たんだ?いや申し遅れた。私はラ・ナス。神聖皇帝ラ・ムーを最高神官に戴くナーカルだ」


「ラ・ムー! そうだよ! ムー帝国の皇帝は『ラ・ムー』って言うんだろ! 此所はやっぱりムー大陸なんだよ!」と、興奮して叫ぶ小次郎。


「じゃあ、此所はムー大陸なのか?!」と、些か興奮気味に議員先生が問い質した。


「そうだ。しかし、どうやら君達全員がムーの言葉を話す訳ではないのだな。軍の者は、君達を反乱軍の一味だと思っているようだが、私はそうは思っていない」

「我々は反乱軍などではない。事情があって此所に流れ着いたのです」

 ウッディーのその言葉を議員先生が訳して、ラ・ナスに伝えた。

「なるほど……。だがな、それだけでは軍は納得しない。問題は、君達が乗っていたあの白い鯨なんだ。今『ムー』に反乱を起こしている、ラ・ヴァルゼ将軍とラ・メムレー将軍側に軍事援助をしているのが、西の海に浮かぶ国らしいんだが、前線で戦う兵達が、あの様な鯨をセルモンド運河や海で見たと云っている」

 議員先生の訳を聞いていたウッディーは、


「鯨? 彼等にしてみれば『鯨』と表現するのが一番ピッタリなんだろう」


「あのう……」と、小次郎が口を開く。


「何だい小次郎君」と、政治が言う。


「潜水艇が鯨か……。おいらRPGよくやるから、ゲームの中に出てくるモンスターを調べた事があるんだ。そしたら、豚の顔した『オーク』はオルクとも言って、鯨を意味するラテン語の『オルカ』が語源かもって書いてあった。つまり『オーク』は最初、鯨の化け物だったって事。いい? こっからが大事だよ。何でもキリスト教の『聖書』の中に出てくる悪魔デーモンの一人は、『オグ』って言うんだって。『オーク』と『オグ』似ているだろ? そんで、その『オグ』は鉄の鱗に覆われた化け物なんだってさ」


「!」


ウッディーは驚愕した。


「……つまりだ。小次郎君は、昔の文献に登場する『オーク』とか『オグ』っていう化け物は、鉄の鱗に覆われた鯨、そう表現された潜水艇、もしくは潜水艦だった。と、こう言いたいのかい?」

 政治が、顎に手を当てながら、的確に小次郎の話の要旨を纏めた。

「いや、そこまではわからないけど……」

「いや! コジロウ君! そうかもしれんぞ! 『原潜タイムマシン化計画』コードネームは『プロジェクト・サターン』だ。その計画で新造されたSSBN、即ち弾道ミサイル原潜は、サターン級一番艦『サタネル』! この計画が成功し、『サタネル』が過去に送り込まれ、その核多弾頭ミサイルを発射する姿が、悪魔『オグ』、即ち『鉄で覆われた悪魔の鯨』として伝説に残り、それが『聖書』に描かれたのかもしれん!」

「実際に核爆弾落とされたと思われる廃墟が、世界中には少なくとも二四以上はあるという研究家もいる……」と、政治が呟く。

「アメリカはそんな計画を……。総理に報告せねば! いや! これは安全保障上究めて憂慮すべき問題だぞ! 国連に提訴だ! そいつを使えば、過去の日本に核を打ち込んで、現代の日本を消滅させる事も可能ではないか!」

「いえ、父さん。それはわかりません。タイムマシンにはタイムパラドックス問題が付き物です。過去の一事象を変化させる事で、それが現代の様相をガラリと変えてしまうのかどうか。物理学者は、そんな事は起きない故にタイムマシンはSF世界だけのものだと言っています。それに、そのアメリカの軍事実験が本当で、我々がその実験に巻き込まれたのだとしたら、その原潜が我々と一緒にこの世界にタイムトリップしていなければならないでしょう? まず、その原潜を探すべきでは」

「そうだ! よし! 議員先生! その男に、そう……白鯨よりもっと巨大な『黒い鯨』をあの海域で見なかったかどうか聞いてくれ!」


「よ、よし!」


 議員先生こと、防衛庁長官、赤城政則は、ラ・ナスに問いかける。

「フム。なるほどな……。俺が乗っていた船がその『黒い鯨』にぶつかって沈んだよ。そのおかげで俺は、ほれ! 溺れて、君達に笑われて踏んだり蹴ったりさ!」と言って、ラ・ナスはおどけると、美々を見てウインクした。けど、美々はまたそっぽを向いた。

「フーッ。……今さっき、その『黒い鯨』が発見されたという報告が入った。我々としてもその正体を確かめなければならない……。ダルクスの許可も取った。君達も行くか?」


 その答えはもう既に出ていた。直に美々達は、その部屋をラ・ナスと一緒に出ると、ラ・ナクに、豪奢な食卓を囲んだ昼食に招待され、暫の休息を満喫した後、城砦ミズルハを出発した。

 因みに、その昼食の席で、ゴルティエが給仕のメイドにマジックハンドを使用して、サンドラの蹴りを弁慶の泣きどころに食らったという事を記しておく……。


第三話 了


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