第5話 真実Ⅱ

俺は改札を出てすぐのベンチで項垂れていた。


時計は9時30分を指している。


終わった・・・完璧に終わった。


俺と同じ遅刻仲間だと思っていたアマルは特待生―イタコウでの特待生は全定期考査免除―だった。つまり、テストに遅刻しているのは俺ただ一人だったという訳である。


「大丈夫?タクト君。そんな落ち込まないで・・・」


今、俺はたくたくとくんにしか見えないくらいに落ち込んでるだろ?笑ってくれよアマル・・・


「あ、ああ、大丈夫だ。体はな。」


「精神がやられてるんだね・・・」


まさか・・・このパラゴニストの遅刻している女子高生が、あの特待生だなんて思いもしなかった。


イタコウの特待生制度というのは世間一般の特待生制度と異なっている。恐らく世間一般では金銭面での援助をメインとし、定期考査で常に上位に居続けることが特待生でいるための条件であることが多いだろう。


しかし、このイタコウではそうではない。


特待生というのは頭の良い人間の中でも更に一握り。全国模試にて100位以内に入る学力を持ちながら、課外活動、例えば研究やスポーツで輝かしい功績を残してきた人物にその権利が与えられる。


いってしまえばイタコウの特待生制度は優秀な人材を腐らせないための特待生制度ではなく、優秀な人材を呼び込むための特待生制度なのだ。


そのためイタコウの特待生になれば全定期考査は免除され、その評定は普段の莫大な課題と日常生活に依るものになる。まあ、それはそれで課題の質が違うし、噂では課外活動の成果も基準になるらしく一般人には荷が重いような気もする。研究成果を出す苦労に比べれ、定期考査の勉強頑張ればいい評定貰えるならそっちのほうがよいというのが凡人の俺の考えだ。


アマルは一体、なんの特待生なのだろうか。研究か、スポーツか、はたまたそれ以外か。全く見当がつかない。というか見当がつく要素がない。だって遅刻してんだよ!?朝練の時間はとっくに過ぎてるし、頭良いのか!?これで!?


まあ、超人はそういうもんか、とも思うけど。


「タクト君、こっからどうするの?」


アマルが俺を心配するような目で問いかけてくる。憐れむな・・・俺を憐れまないでくれ・・・


「俺は…ゆっくり学校にいこうかな・・・」


ここからはどう急いだって一時間目には間に合わない。英語のテストは終わり、俺も終わりだ。


「だったらさ、タクト君。」


「アマルは・・・なんの特待生なんだ?」


死に際に冥土の土産を確保することにした。さぞ面白い特待生に違いない。


「え、私?」


「ああ、アマルの特待生区分が知りたい・・・」


「てか私のこといつのまにか呼び捨てに・・・」


「ハンドルネームだろ、さん付けも変だ・・・」


「え、いやそれは」


「とにかく!アマルの特待生区分を知らないと俺は死んでも死にきれない!」


ほとんど人が居ない駅前で叫ぶ高校生が居た。俺だった。


アマルはやれやれと言わんばかりのため息をついた。


「それ答えたら、元気出してくれる?」


「どういう理屈だそれは・・・」


「折角のパラゴニスト友達なんだから、元気出してほしいの。」


パラゴニスト友達てなんだ。新しすぎる造語だろそれ。だめだ、やっぱりアマルが特待生だなんて信じられない。


「とにかく・・・頼む。」


「・・・はあ、私はね。」


健やかな風が二人の間を吹き抜けていく。アマルの肩までくらいの髪がふわりと揺れる。制服も風になびいている。


「社長。」


「シャチョー?」


なにそれ新しい呪文?


「そ、ドクトルバンクの社長なの、私。」


また俺の頭は混乱する。社長の意味が分からないわけではない。ドクトルバンクが分からないわけではない。


それがこのアマルという女子高生だということが信じられないのだ。


ドクトルバンクとは「パラゴン」を作っている会社『シリウス』の総本山にあたり、ゲーム業界の中でパブリッシャーとして三本の指に入るほどの大企業である。


「パラゴン作ってる会社・・・」


「シリウスは確かに傘下にあるわね。でも私は開発には関わってないわ。ほんとよ。」


宣伝だと思われるのは嫌だから身分は隠してたのに、と彼女は言った。


いや、でも・・・


社長ならそれはそれでいってくれても良くない!?


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