第4話 真実
「板橋、板橋、降り口は左側です。足元にお気を付けください。」
電車のアナウンス。
圧縮した空気を吐き出すような音と共にドアが閉まる。
俺とアマル(ハンドルネーム)は目的地である高校最寄りのホームに降り立っていた。
車内の詰まり切った空気ではなく、新鮮な朝のすがすがしい空気を吸い込んで、吐き出す。田舎寄りのこの町では空気が澄んでいることくらいしか良いところはない気もする。
なにはともあれ。
遅刻なんてもうどうでもよくなるような心地よさである。
「いやー語ったね。」
「ああ、語ったな。」
「良い時間だったね、タクトくん。」
「ほんとに、素晴らしかった。アマルさん。」
二人そろって如何にもすべてをやり終えた戦士のような会話を交わす。
俺たちは、テスト初日に遅刻していた。
なのにすがすがしい。
多分二人とも馬鹿なんだと思う。
ホームでまた談笑しながら、車内で初めてこの女子生徒を見た時の衝撃を思い返した。颯爽と駆け込み乗車して、さも間に合ったような平然な顔をしていた気がする。あの時はなんてすかした女だ、とか思っていたきもするが話してみるとその印象はガラリと変わった。
アマル(ハンドルネーム)は俺と同学年の別クラスらしい。パラゴンがなければきっと彼女のことを誤解したまま気まずい学校生活を送っていたに違いない。ありがとう、パラゴン。
「ところで。」
「?」
俺は最初から気になっていたことを彼女に聞いてみることにした。多分、もう俺の中で答えは出ているけれど。
「アマルって頭良いのか?」
良いわけがない。この時間に登校して談笑してしまってる人間は総じて馬鹿に決まっている。
「うーん。どうなんだろ、よくわかんないかな。」
答えづらそうな顔をしている。
「まあ、今日のテストを受けてないのにそんなに落ち着いてるってことは常習犯なんだろ?さすがの俺でもテスト当日に遅刻は焦るからなあ。大したもんだよ。アマルは。」
「え、どういうこと?」
おいおい、ここでバカさを発揮するな、アマルちゃん。
「いやだから、テスト。今日あるじゃん。」
「?」
アマルは尚も何が何だかさっぱりです、みたいな顔をしている。とぼけている様も少しばかり凛々しく見えてしまうのが腹立たしい。とぼけるんじゃない。
「あ。」
アマルが声を漏らした。そして突然全てを理解したような、特殊な力を手に入れた人間のような「閃き」の電球がアマルの頭に灯った気がした。
「なるほど、そういうことか。」
いやまだなにもなるほどしていないぞ俺は。いったいどういうことなんだねワトソンくん。
「え、でもだとしたらタクト君は・・・」
アマルは一人ぶつぶつと何かをしゃべっている。俺そっちのけで閃いた何かについて考えているのだろうが・・・え、なに?遅刻してたの忘れてるの?どゆこと?
「あの・・・タクトくん。」
アマルはコホンと一息ついた。
「はい?」
たくたくとくんと言わないあたり、真面目な話か。
「私、言ってなかったんだけど。」
「うん。」
なんだこの空気、すがすがしい朝の空気の周りになんだか少し甘酸っぱい気配が・・・
「特待生なの。」
「ん?」
「特待生。」
「トクタイセイ?」
頭の中で漢字に変換できない。ん?トクタイセイってなんだ?知らないぞそんな言葉。
「タクト君も知ってるとは思うけど、イタコウの特待生は・・・」
アマルが全てを語るまでもなく、俺は嫌でも理解しなければならなかった。
イタコウの特待生制度。
それは—――――
「全定期考査免除。」
「てっきりタクト君も特待生かとばかり・・・」
高校最寄りの駅にて、定期考査に遅刻するという史上最大の馬鹿さ加減を発揮していたのは俺一人。
ただ、一人だった。
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