第3話 談義インザ・車内

「このダンジョンは最初こそ光属性の攻撃が刺さっているように見えるが、後半の敵の耐性を考慮したら闇属性で固めたパーティーを編成した方が火力がでる。」


「え!?そうなの?・・・ずっと光属性で固めてたし、攻略サイトにもオススメされてたのに・・・」


「確かに光属性なら高ダメージを狙えるが、その分相手からのダメージも増加する。諸刃の剣ってやつだな。」


「きみ、無茶苦茶詳しいじゃん、ウケる。」


ウケられてしまった。というか、何捲し立てるように喋っているんだ俺。

電車に揺られながら俺は同志の遅刻女子高生とパラゴン談義に花を咲かせていた。かくいう俺も実は「パラゴニスト」であり、日々勉強そっちのけでゲームに没頭していたので、やりこみユーザーである彼女とのパラゴン談義は有意義なものに成ってしまっていた。

画面から彼女に視線を移すたびに、見慣れない光景に委縮してしまう。そしてまた自分の領域であるパラゴンの話題になると自分を取り戻す、その繰り返し。


「ねえ、君、名前は?イタコウでしょ?」

「あぁ。それは、そう。」


名乗ってしまっていいものか一瞬悩む。知らない人に名前を教えちゃいけません的な。


「私、アマルって言うの。覚えといて。」


あ、そういう系ね、ゲームの名前とかに使えるペンネーム的な。危うく本名を頭から尻まで口上付きで述べてしまいそうだったよ。


「お、俺はタクト。よろしく。」

「タクトくんかぁ。いい名前だね。」


いや、ゲームの名前に良いも悪いもないだろ。俺の名前なんか名前なしで入力決定したら自動で割り振られた名前だぞ。パラゴンが産みの親ぞ。

彼女はうんうんと分かりやすく頷きながら俺の名前を繰り返し呟く。


「たくと・・・タクト・・・」

「え、どしたの。」

「いや、回文になるあだ名考えてるの。」

「新手の一休さんかよ!!!」


またもや突発的に突っ込んでしまう。半分発作的なツッコミ。別に両親は関西人ではない。ツッコんだりもしない。


「ふふ、面白いね、たくとくたくん。」

「くたくたになった野菜みたいに呼ぶな!」


絶対彼女はわざとやっている。いたずらな笑みとにやつきながらしゃべる様子がその証拠だ。


「まあいいわ、ところであま・・・君も遅刻してるんだろ?」

「え、名前で呼んでいいよ?」

「あ、いや・・・」

いやだからゲームのハンドルネームでしょそれ・・・恥ずかしくて呼べねえわ。


「世間でいうところの遅刻は現在進行形で行われてるみたいだね。」

「なにその出来るだけ他人事にしようという精神。」

「ってお母さんが仕事に行く前に行ってた。」

「親子そろって遅刻してんの!?」

「なんならお父さんも。」

「婚約と一緒に遅刻協定でも結んでんのかよ!」

「おじいちゃんとおばあちゃんは・・・。」

「え、なにその沈黙・・・。」

「もう・・・。」

「・・・・。」


唐突に思い話持ち込んでくるんか―い。


「寝てると思う。」

「どういう昼夜逆転!?朝ですよ!?」

「うちのじいちゃんとばあちゃん、朝寝夜起きなの。」

「全国の子供に絶対進めちゃダメなやつよそれ。」

「私も小さい頃はやらされてたなあ。」

「睡眠の英才教育にしては前衛的すぎないか?学校いけないやつじゃん。」

「試しにイッとく?」

「いや車内でそんなジェスチャーやめて、未成年喫煙にしか見えないからその動き。」


彼女はこちらを上目遣いで流し見しながら口元で煙草を吸うような恰好をした。不謹慎やぞコラー。


「ふふ。」

「え、なに急に。」

「いやおもしろいなって。」

「なにがよ。」

「君の戯言。」

「戯言ちゃうわ!!どう考えても戯言はそっちだろ!」

「そっちじゃないですー、アマルですー。」


彼女はぷくりと膨れて見せる。こういうのは人見知りの俺にはきつい。


「戯言が脳内に余ってるんだろ、アマルだけに。」

渾身のボケで切り返してみる。どうだ。

「・・・え、なにそれ、ふざけてんの?」

冷酷なまなざしが俺を指す。切り返すどころかボケごと切り落とされている。

「・・・ボケです。」

「・・・」

「・・・」

「ボーケ。」

彼女は悪戯っぽい笑顔のまま俺に微笑みかけた。あざ笑うような俺を掌で転がすような、そんな笑み。


電車のアナウンスがまた次の駅を知らせているのが遠くで聞こえた。


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