13 とある研究者、超高難易度緊急ミッション 下

「待て! このメンツが居るという事はアンナは……」


 慌ててより注意深く探りを入れるが、その場に居るのはやはりその五人。

 どうやら一番この場に来て欲しくなかった存在は不在のようだ。


 その事実に安堵しつつも、それはそれとして。


(……本当にどうやってこの場所に来たんだ)


 迎え撃つ為に歩を進め術式を構築しながら考える。

 魔力の流れを逆探知する限り、彼らは文字通り惑星の反対側から転移してきた事になる。

 予めこの場所とのパスを繋ぐなどの入念な準備をしていたなら理解できる。

 ルカ・スパーノという、自分を除けば自分が知る限り最高峰クラスの技量を持っている青年ならばそれは可能だ。


 だがそんな下準備が施されていた気配もなく……それどころかこの転移術式の魔力の出所は彼ではない。


(……なんであの子にそんな真似ができる)


 娘の親友であるシエルという少女がこの転移術式を発動させている。


 ……それは流石におかしい。


 彼女はアンナと共に、というより正確にはアンナを巻き込んでいくつものトラブルを解決し、そしてアンナと離れた後も多くの修羅場を潜ってきた、どう考えても一般人のカテゴリに入れてはならない存在だ。

 だけどこういうタイプのイレギュラーを起こせるタイプではない筈。


 少なくとも今自分が思い付く、この場所を特定し此処に転移してくるやり方は彼女では絶対にできない。


 だから……だからこそ。


(……僕の想定していない力が働いてるのか?)


 何かあの少女を中心に、こちらが想定していない何か大きな力が動いている。

 きっとそういう事になる。


 ……とにかく。


(だとしたら厄介だ……気を引き締めなければ)


 やるべき事は変わらない。


(皆アンナの関係者だ……だとしたら、此処で死なせる訳にはいかない)


 全員を生かしたまま戦闘不能にし、元居た場所へ送り返す。

 それが今自分が行うべき、高難易度の緊急ミッションだ。


 そう考えながら、術式で声と姿を正しく認識されないように隠蔽しながら……気付いた。


(……?)


 こんな状況であるにも関わらず、どこか気分が高揚しているのだ。

 ずっと沈んだ気持ちで十数年戦って来たのに、このタイミングで。


(……そうか、期待してるのか僕は)


 もう未来は読めない。

 何が起きるか分からない。


 そんな状況で今まさに自分の理解の範疇を超えた襲撃が行われている。

 それをやってのけるだけの何かが向こうにはある。


 ……つまり。


(情けないな……娘の友人達に縋り付きたくなってるなんて)


 自分の最悪なやり方以外で全ての問題を解決する為のピースがそこにはあるのかもしれない。


(見定める……正念場だ、気合を入れろ)


 ピースとなり得るとしても、なり得ないとしても。

 突発的に始まったこの戦いは、文字通り世界の命運を左右する戦いだと。



 そう認識して現代最高の魔術師は迎え撃つ。


 歴史上の偉人の魔術師を。

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