14 黒装束の男達、黒幕との会敵

「ふむ、若干座標がズレたの。目の前に飛び出すつもりじゃったが」


 マフィアの事務所から転移した先は殺風景な大部屋だった。

 そこに目的のユアン・ベルナールの姿はない。


(……若干という事は、すぐ違くに居るのか?)


 そんな風に警戒するルカ達とは打って変わって落ち着いた様子のレリアは、静かに手を振るう。


「まあ転移の術式構築で此処までは手が回らんかったからの。備える時間が与えられた事はこちらとしても朗報じゃ」


「……?」


 そんな意味深な言葉にルカが内心首を傾げていると、マルコ達が言う。


「体が軽くなったな……あのシズクとかいう聖女が使っていた奴と同じ、他人に付与できる強化魔術か?」


「ま、そんな所じゃ」


「シズクのと比べりゃ若干出力が落ちてる気はするけど……これはありがてえな」


「感謝してるのか貶してるのかどっちじゃ……」


「誉めてんだよ。シズクみたいに一芸特化みたいなタイプでもねえのに、これだけできりゃすげえだろ」


「しかもいくらシエルさんの体と相性が良いとはいえ自分の体じゃないから万全って訳でも無いんですよね」


「ま、生前のワシならもうちょっと良い感じじゃ」


「あ、あの」


 自慢げにそう言うレリアにルカは言う。


「すみません、俺には掛かってないみたいなんですが……」


「ああ、すまんがお主には無理じゃった」


「無理……?」


「既にお主にはミカの術式が付与されているじゃろう。それに加えてお主の強化魔術。三重は流石に無理じゃ」


「確かシズクは以前ルカ君にも強化魔術を付与していた気が……」


「本当か!? ……つまり悔しいがこの分野ではあの娘に完全に軍配が上がるという訳じゃな……で、どうするのじゃ?」


「……?」


「今お主に付与されているのは、ほぼお主専用と言っても良い術式じゃ。効力もそっちの方が高いじゃろう。それでもというならワシのに切り替えるが」


「……いえ、大丈夫です」


 ……多分どうであろうと大丈夫でないのなら、このままでいい。


「そうか」


 そう言ってレリアは一歩前に出る。


「なら準備完了で決戦開始と行こうかの。来たぞ、ワシらのターゲットが」


 そして通路からゆっくりと部屋に入って来る。

 男なのかも女なのかも年齢さえも認識できない、認識阻害の魔術が施された白衣の人間。


 そんな姿を装った、アンナの父親であり現代最高の魔術の研究者。


 ユアン・ベルナールが。


 そしてレリアではなく、これまで黙っていたシエルが口を開く。


「別にそんな風に隠さなくても誰だか分かってるから。あっちゃんの……アンナ・ベルナールのお父さん」


 声音に静かな怒気を込めて。

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