12 とある研究者、超高難易度緊急ミッション 上
同時刻。
某国某宗教団体支部内、関係者以外立ち入り禁止の地下施設にて。
「……この術はもうこれまでだな。まったく、まさかここに来てこんな事になるとは」
携帯食料とインスタントコーヒーで昼食を済ませながら、白衣の男は小さく溜息を吐く。
研究者、ユアン・ベルナールは予め予定していた必要な動きに加え、その動きを導き出すに至った未来予知の術式の調整をこれまで隙間時間に行ってきた訳だが……それをたった今、完全に断念した。
「頼むから、悪い方向には進んでくれるなよ」
彼の未来予知はいくつもに枝分かれする未来の一つ一つを可視化し手繰り寄せるというものだ。
つまり最初からそこにある物を診ていた。
あらゆるパターンの未来が用意されており、これまで自分はそれを選択してきたにすぎない。
だけど今の現状は、無数に枝分かれしたどの未来とも違う。
言わば何も無い空間を移動しているようなものだ。
故にどれだけ術式を調整した所で、この術式では今の地点からの未来を観る事はできない。
だから彼にも何も分からない。
予め設定していたルートにおけるやるべき事を熟し、可能な限り元の未来通りに事を動かす努力はする。
だがどうしたって同じようにはもうならないだろう。
自分が思っていたよりも良い未来になるか。
それともこれまで自分がしてきた事は一体何だったのかと頭を抱えたくなるような最悪の未来になるか。
今の彼には、もう予測できない。
そんなもう少し先の事も。
そして。
「……ッ!?」
目と鼻の先で起きる事も。
(なんだ……ッ!?)
基本的に自分以外を此処に立ち入らせないように周囲に張っていた、侵入者が現れた事を通達する結界。
そのアラートが脳裏に響き渡った。
「誰だ……教団の人間か!? あの頭がおかしい連中の動向までコントロールできなくなったのか!?」
言いながら慌てて地面に手を置き、術式を展開。
この地下施設のラボへと到達するまでのフロアの様子を脳裏に流し込む。
当然、そこに居るのは教団の人間だろうと、そう思っていた。
それ以外の可能性は、普通に考えてあり得ない筈だった。
「……おいおい。おいおいおい、どうなっているんだこれは」
思わず冷や汗が頬を伝った。
立入禁止区間内。
上層の教団施設とラボの中間の言わば緊急時の緩衝材となる通路のフロア。
そこに立っていたのは……此処にいる筈の無い者達。
自分達の計画の過程で追放された聖女が二名。
その従者が一名に、惑星の反対側に拠点を置くマフィアの幹部。
そして……先日の一件にも関わっていた、娘の友人。
以上、五名。
どう考えてもこの場にこのタイミングで現れる筈が無い。
現れる手段すら無い筈の五人が、明らかに臨戦態勢で自分の目と鼻の先まで迫っていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます