12 聖女さん達、敵の影を掴む 上

「ていうかアンタは私の件、自分達が悪いって思ってたんだ」


 軽い雰囲気でシルヴィ達に自己紹介するカーチェスに思わず嫌味ったらしくそう言う。

 ロイは言ってしまえばただの腰巾着ってイメージだったけど、コイツを初め他の連中は皆ノリノリで馬鹿の言う事に同調しているような感じだったからね。


 なんというか、物凄い勢いで掌返しされている気分だ。

 そしてカーチェスは相変わらず軽い様子で答える。


「そりゃそうでしょうよ。あの話を本気で真っ当だと思ってる連中が各省庁の頭張ってたら世も末だ」


「滅茶苦茶同調してるように見えてたけど?」


 物凄く世の末に見えたけど?


「まあ持ち上げるって決めてる神輿はとりあえず持ち上げとくさ」


 そしてカーチェスは不敵な笑みを浮かべて続ける。


「それで持ち上げてるだけ持ち上げて、裏でその話をできるだけ組み替えたり妥協したりして現実的な話に落とし込む。それが俺ら下のもんの仕事でしょうよ」


「えっと、俺が言える立場じゃ無いですけど、聖女追放している時点で落とし込めて無くないですかね?」


「やれるだけの事はやりましたぜロイ君。もし城下町で元聖女様を見掛けても穏便にご出国をお願いするように整えたりなぁ」


「あ、そうなんだ」


「さっきも言ったが、こちらの過失100%案件でしょっぴけないでしょうよ。アンタもそうだがやらされる現場の連中が可愛そうだ」


 てっきりバチバチに喧嘩になる状況だと思ってた。

 いやまあだとしても、今日みたいな理由が無かったら戻って来る理由なんて無いから関係ない話な訳だけれど。

 ……まあ毎日戻ってきてはいる訳だけども。


「でもそうは言っても結界はどうするつもりだったの? その件をどう現実的な話に落とし込むつもりだったのかな?」


「わりぃがそこは俺の管轄じゃねえんでね。いい加減な事は言えねえ。だけど防衛省は防衛省でちゃんと考えている筈……というより何かしらの形で結界が機能しなくなった場合の対策も考えているだろうさ。少なくとも今の防衛大臣ならな。前のと違って無能じゃねえ」


 そしてカーチェスは真面目な表情で言う。


「大体科学も魔術も発展していないような大昔ならともかく……いや、大昔だとしても、たった一人のマンパワーに国防の要を握らせている事自体が歪な事なんだからよ。そういう意味じゃあの一件は強引ではあるけど、転換期って捉えりゃそれらしいのかもしれねえ。元聖女様にはたまったもんじゃねえだろうけど」


「「「……」」」


 私と、あとシルヴィとシズクも声にならない声を漏らして黙り込む。

 いや一般常識をひっくり返されるような発言ではあるんだけど、なんか滅茶苦茶真っ当な事を言われてる気がする!


「……すみません、俺皆さんの事誤解してたかもしれません。てっきり何も考えてないヤバい人達かと……!」


 占いをやり始めながら謝罪するロイに、カーチェスは苦笑いを浮かべて言う。


「まあ確かに皆で顔揃えてる時は基本馬鹿な事しか言ってねえからなぁ、個人的に会う事もほぼねえし……そう思われても仕方がねえや。でも面と向かってそのカミングアウトできるロイ君も大概ですぜ?」


「あのお前ほんと、国外の偉い奴と話す時とかはマジで気を付けろよな、な?」


「大将にそう言われるのは相当ですぜ……で、何も考えてないヤバい人だと思われたままなのもアレだからよ、近々飯いきやせんか? 良い店知ってますぜ」


「っというとあの店か?」


「そう、大将が王子様だった頃に背中合わせでチンピラと殴り合ったスラム近くの焼肉屋でさぁ」


 何やってんだこの馬鹿。

 いや昔から馬鹿なのは知ってたけど、城抜け出して何やってんだこの馬鹿。


「ああ、私の実家ですわね」


 ……馴れ初めそこかぁ。


「日程が決まりましたら私が席を押さえておきますわ。最近雑誌で紹介されたみたいでありがたい事に繁盛しているみたいですから……あ、クーポン券いります?」


「いやいや、ちゃんと正規の金額で金落として来ますよ」


 と、そこでカーチェスは軽く咳払いをして言う。


「で、そろそろ本題の方に移ってよろしいですかい? 少し話が脱線し過ぎたし、多分ロイ君の占いの邪魔になってる」


「いや俺は大丈夫ですよ。ただ多分ですけどあなたも忙しいんじゃないですか?」


「ああ。早いところ仕事を進めるとしますか」


「っとそうだ。今更になっちまうが何かあったのか?」


 馬鹿がそう問いかけるとカーチェスがハッとした表情を一瞬浮かべてから言う。


「大将、一応これ例の件の話なんですが、元聖女様達の前で話しても?」


「あの件ならコイツらも関係者だったから大丈夫だ。同じ件を追ってる」


「……なるほど、何となく元聖女様がこの国に足運んだ理由が分かりましたぜ。あと、ロイ君の例の占いがマジで当たってたんだろうなって事も」


 ……って事はコイツは、私達が知りたい情報を握って此処に来たって事になるのかな?

 だとしたら馬鹿殴って占ってもらう以外に実績が無かった私からしたらありがたいけど……でもちょっと待った。

 コイツ憲兵庁の長官だったよね?

 外務省の奴ならともかく……コイツが?


 そしてなんか凄い嬉しくないんだけど馬鹿も同じことを考えたようだった。


「つーかあの件をお前が話に来るって……外務省には指示出してるけどよ。一体どうした?」


 そしてカーチェスは私達の疑問に答える。


「ロイ君の占いが正しけりゃ元聖女様を追放しなかった場合、占ってたその日の内に世界規模でえげつない事になってた訳ですよね。そして当然の事ながらウチの国も世界の一部。つまり世界規模で展開している団体の支部なんかに探りを入れれば何かしら掴めるもんがあるんじゃねえかって思った訳です。だから公安部の皆さんに頑張ってもらいました」


 そしてカーチェスはにやりと笑みを浮かべる。


「そしたらビンゴでさぁ。あの日、大規模な集会をしていた団体の情報が転がってきた」


 そして一拍空けてからカーチェスは言う。


「指定宗教法人、魔正教。おとぎ話にしか出て来ねえような魔王を神として信仰しているカルト宗教でさぁ」

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