11 聖女さん達、未来を捻じ曲げる意気込み

「なるほど、じゃあマジで大変な事になってんだなこの世界。おいおいまたお前の占い大当たりじゃねえかよ」


 流れでざっくり起きている事を馬鹿に伝えると、馬鹿は大変な事が起きていると言いながらも上機嫌そうにロイを肘で突付く。

 そうしながら馬鹿は私達に言う。


「で、お前らはウチの外務省経由で情報を仕入れようとしていたわけだ」


「そうなるね」


「……だが既に俺達は動いてるし、その気になれば後日その情報をミーシャ経由で仕入れられていた。で、動き出したばかりだからまだ情報がねえ以上、実質的に大して状況変わらずの無駄足ってところか?」


「そうみたいだね」


「つまり実質的にお前は俺の事殴りに来ただけって事になるわけだ」


「結果的にそういう事になる……かな」


 まあミーシャ経由とかじゃなく公式にこの国から情報引っ張ってこれそうなパイプが作れたってのは、実際のところ大きな進展なのかもしれないけど、非公式か公式位の違いしか無いから、本当にこの馬鹿ぶん殴った事位しかやった事というか進展が無いと言っても過言じゃ無い気がする。


 だからつまりそういう事になる……のかな?

 嫌だなぁ、まるで私がヤバい奴みたいじゃん。


 ただこれに関してはもうなるようにしかならないんだよね……うーん。


「で、皆どうする? こんな感じでやる事終わっちゃったし、さっき軽く話してた通り帰って皆の手伝いする?」


「ああ、そういえば同時進行で色々と調べているんでしたね」


「うん。だから私達だけのんびりしてるわけにもって感じ」


 ロイの言葉にそう返したところで、ミーシャが言う。


「ならその手土産に、一つ成果らしい成果を作りましょう」


「というと?」


「百パーセント当たるとは限りませんが、ロイに今後どう動くのが一番良いか占ってもらうというのはどうでしょう。戻って他の皆さんの手伝いをする際のヒントになるかもしれませんわ」


「あー確かにそれ良いっすね」


「正直ロイさんの占いは怖いくらいの精度なんで、一気に核心まで辿り付けたり、なんて事も有るかもしれませんし。良いんじゃないですか、アンナさん」


「まあ、確かにそれはアリかも」


 というか大した的中率じゃなくても、馬鹿ぶん殴っただけという実績だけで帰るのだけは避けたい。それだけはなんとしても避けたい。

 ……ていうかちょっと待った。


「あの、そもそもなんだけど、アンタの占いで今起きてる事自体の詳細とか占えたりしないの?」


「残念ながら、そこまで高性能じゃないんですよ」


 ロイは苦笑いを浮かべながら言う。


「あくまで俺の占いのメインとなる対象は人です。占った誰かがどうなるか、どうするべきか。いったいどんな人なのか。あくまで対象を定めた上で、そこから紐づく何かを導き出すだけなんです」


 だから、とロイは言う。


「漠然と起きている事そのものについて占う事だってできますが、漠然とすればする程見えて来るものもそれ相応なものになります。アンナさんを追放する方が良い結果になると占った上で世界そのものも占ってみましたが、見えたのは世界がえげつない事になるという未来と、アンナさんを追放していなかった場合、例のアンナさん達が地下で戦っていたというあの日に既にそういう何かが起きていたという事位です」


 それでも十分すぎる精度なんだよね。

 うん、シルヴィの言う通り怖いわコイツ普通に。

 とはいえ怖いくらいには凄いと私も思っている訳で。


「じゃあスケールの大きな話は良いから、私の事占える?」


「良いですよ。ただ外れても責任は持てませんからね」


「まあ外れたら自力で未来捻じ曲げるから大丈夫」


「そう言ってくれると助かります。じゃあちょっと準備を」


 そう言ってさっきシルヴィ達にやったように色々と道具を取り出し始めるロイ。

 そんなロイを見ながらシルヴィが言う。


「なんかさっきの言葉良いですね。未来捻じ曲げるって。かっこいいですアンナさん」


「そうかな? ありがと」


 そこは素直に受け取りつつ。


「じゃあ既に出ている占いの結果は、皆で捻じ曲げて行こう」


「そうっすね僕らでうまいこと捻じ曲げるっすよ」


「……そう言ってくれると心強いですよ」


 ロイは言う。


「さっきの馬車でそこまで具体的に話す事はできませんでしたが、こうして俺の占いで外務省が現在進行形で動いているように、問題は先延ばしになっただけです。俺の占いがこのまま当たってしまえば、遅かれ早かれ大変な事になる訳ですから。俺の占いの結果を知った上でぶち壊して貰わないといけないんです」


「だね」


 問題が残ったままだから馬鹿の指揮の元この国が既に動いている訳で。

 あの地下で私達が敵を取り逃がした以上、その占いが的中している可能性はより高くなっているように思えて。

 だから私達は、私が追放された上で先延ばしになっただけの危機を捻じ曲げなければならない訳だ。


 ……ほんと、私個人への占いが外れた場合の事なんてスケールが小さい問題位簡単にぶち壊していけないと解決できる気がしないよね。

 だからその位は捻じ曲げる位の強い意思は持っていこう。

 もっと面倒な未来を捻じ曲げる為に。


 と、そんなやり取りをしていた所で、私達が居た客間の扉が開いた。


「お、居た居た。こんな所にいたんですかい大将」


 部屋に入って来たのは黒いスーツを着崩した二十代半ば程の軽い雰囲気の男。

 ……なんか見覚えがあるけど、えーっと……だれだっけ。


 ああ、思い出した。コイツアレだ。

 馬鹿の取り巻きその2。


「ん、誰かと思えば元聖女様、なんで此処に……」


 言いながら私と、鼻にティッシュを詰めたままの馬鹿を交互に見て静かに呟く。


「これぁ……因果応報って奴ですね。これで元聖女様しょっぴけって言われても俺ぁ嫌ですよ。完全に俺らが悪いし」


「いや、いい。これは俺が殴れって言ったんだ」


「大将そんな趣味ありましたっけ」


「いやそういうのじゃねえからな!?」


「というか元聖女様も態々ウチの大将殴る為に帰ってきたんですかい? 正当性があるとはいえなんというか暇なんですか?」


「暇じゃ無いしその為に戻ってきたんじゃない!」


 その為みたいになり掛けたけど!


「あの、アンナさん。この人は?」


「僕らアウェイなんで教えて欲しいんすけど」


 いやまあ私も今はアウェイなんだけど。

 それでも答えようとする私よりも先にそんな問いに答えたのはミーシャだ。


「カーチェス・ボンド。この国の現憲兵庁長官ですわ」


「どもども、お嬢さん方。憲兵のお偉いさんでーす。以後お見知りおきを」


 そう、ミーシャの言う通り確かそんな感じの奴である。

 馬鹿のお友達人事でこの国の憲兵のトップに立っている男だ。

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