13 聖女さん達、敵の影を掴む 下

「魔正教?」


 聞いた事無いなぁ。

 世界規模って言ってるけど結構薄く広くというか、マイナーな感じなのかな?


 と、そんな事を考えているとシズクが言う。


「うーん、別にあんな事件起こされてる時点でどこが相手でも厄介っすけど、魔正教っすかぁ……もし本当に犯人グループがそこだったら嫌っすねぇ」


「ん? シズクは知ってるの? その魔正教って宗教団体」


「ええ、まあ新聞目ぇ通してたら偶に良くない形で名前出てきますし。正直ちょっとした社会問題っすよ。ね、シルヴィさん」


「そうですね。私も軽く耳にする位には……ま、まあでもほら、別に知らない事が変って程の情報じゃないですよ」


「そ、そうだよね。ははは……」


 雰囲気的にこの場で知らないのが私だけっぽい事にフォローを入れるようにシルヴィがそう言ってくれる中、馬鹿は鼻で笑うように小さく声を上げ、煽るように人差し指で自分の側頭部を突く。

 ……コイツマジでもう一回ぶん殴りたいな。

 殴って良いかな?

 ぶん殴って留置所半日なら安い気がしてきたんだけど。


 ……まあ向こうで皆が頑張ってる中で、半日何もしないのは罪悪感があるからやらないけども。


「で、そこそんなにヤバい団体なの? いやまあ訳分からない奴信仰してるカルト宗教ってだけでヤバいのは分かるんだけど」


「単純に新聞で度々名前が上がる位には問題起こしまくってるんすよ。暴力事件やテロ紛いの行為とか……定期的に集団で逮捕者とか出てるんすよね」


「実際ウチの国でも問題のある団体として指定宗教法人って括りで公安がマークしてまさぁ。そこの嬢ちゃんの言う通りこれまでも不定期に問題起こしてきてますからねぇ……ああ、今更ながらフォロー入れとくと、元聖女様が知らないってのはそれ程不思議な事じゃあありませんぜ」


「というと?」


「前の長官が違法な献金受け取って公安のマーク外させたり小規模な問題を揉み消したりしてたからなぁ。だから国内の問題としては新聞なんかにも滅多に上がって来ねえ時期が続いていた。そういう時期が長かったもんだから、ウチの国じゃ他国と比べりゃ認知度は低いと言えるでしょうよ」


「ま、そんな訳だから知らなくても仕方がねえよな」


 言いながら再び側頭部を指先で突く馬鹿。

 半日留置所……半日かぁ……。


 と、そこでシルヴィが言う。


「……そういえば私とステラさんがあの地下でボコボコにした人達って、なんかこう……戦闘のプロって感じの雰囲気って感じしてましたけど、なんかあの団体ってそういう人達抱えてるって噂ありませんでしたっけ?」


「あーあったっすね。って事はあの時ボクらが戦ってた相手ってやっぱり……」


「魔正教って事になるんですかね」


「えっと、すみません。ボコボコにしたってのはどういう事で?」


「ああ、それなんだけどよ」


 そして馬鹿がカーチェスに軽く説明をおこない、それを聞いた上でカーチェスは言う。


「そういう事なら本当に魔正教の連中が諸悪の根源かもしれませんぜ。事実その大規模の集会は、他国で行われた復活の儀式とやらが失敗に終わった事で解散している。そして同時刻、生贄まで用意して何かしらの術式を発動しようとしていたテロリストを、元聖女様達は撃退している訳でしょう」


「確かに。って事はマジでその宗教団体が私達の敵なのかな?」


 でも、だとしたら。


「だとしたら、ソイツらの崇めている神様……というか魔王? みたいなのがマジでいるかもしれないって事になる」


 だってそうだ。


「あれだけの精巧な術式を運用していた相手が、なんの根拠も無いプランを実行するとは思えないし……そもそも明確な目的なしに術式を構築する為の理論建てはできない。いるかどうかも分からないふわふわした何かの為に術式は組めないよ」


 そしてそれこそ神様と崇められているような化物をどうこうするって術式なら、各国の聖女を追放云々なんて滅茶苦茶なプロセスも納得できる……気がする。

 うん、気がするだけかもしれないけど。

 寧ろ気がするだけであって欲しいんだけど。


「まあそれもこれも、あくまで魔正教が俺達が追ってる一件と関わっていたらの場合の話でさぁ。実際の所は完全に別件の可能性もある。それこそ外務省経由の情報や、色々と調査中の元聖女様のお仲間からの情報も効かねえことにはまだ仮説どまりだ……実際事が事な以上、的外れな可能性も高いでしょうよ」


「まあ魔王云々言われても現実味無いっすからね。全然関係ない一件って説の方が可能性高いかもしれねえっす」


「じゃないと一気にファンタジーみたいな話になりますからね……全然現実味無いです」


「うん……まあ確かにそう」


 相手があれだけの魔術師だったからこそ、そんなファンタジーファンタジーした魔王云々の話は一切関係なくて、現実的な事をしようとしていた可能性が高い気もするし。


 いやだって魔王は無いでしょ魔王は。

 勇者だとか魔王だとかそんな現実味の無い話、18歳にもなって馬鹿正直に受け止められないって。


 と、そうこう話している内にそれなりに時間が経過した訳で。


「あの、丁度話が一段落ついてそうなタイミングなんで、占い結果の方だけお伝えしても良いですかね?」


 ロイが私にそう問いかけてくる。


「まあ良いんじゃない……ってどうしたの、複雑そうな表情浮かべて」


 ロイの表情はどこか気まずそうなものだった。


「もしかしてヤバい占い結果出たんじゃないっすか?」


「早速占いを捻じ曲げる為に頑張らないといけない感じかもしれませんよ」


「うへぇ、気が重いなぁ……で、占い結果の方は? 私はこれからどう動いたらいい感じ?」


「……それなんですけど」


 ロイが言いにくそうに間を空けてから、それれも言葉を紡ぐ。


「ひとまず今日の所はこの国から出ない方が良い。正確には、今日は他の皆さんと合流してはいけないって感じです」


「……へ?」


 どういう事かなそれ。

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