39 聖女さん達、そして焼肉屋へ

「で、何食べます?」


「あ、ボク肉! とにかく肉が食べたいっす!」


 マフィアさん達のアジトを出てからそんな話をしていると、シズクが元気良く手を上げてそう言う。


「ん? シズクお肉が好きなの?」


「いや違うんすよミカ。勿論お肉は滅茶苦茶好きっすけど、そういう事じゃないんす」


「?」


「シンプルに最近金欠であまりガッツリお肉なんて食べられなかったからっすよ! ガッツリと……ガッツリした物を食べたいんす!」


 だけど、とシズクは懐から封筒を取り出す。


「此処に今日の依頼の報酬があるっす! 今なら食えるんすよ、ボクにもお肉が! さよなら貧困生活!」


 滅茶苦茶嬉しそうにそう言うシズク……いや、うん。分かるよ。分かるんだけどさ。


「ほんと、ヤバくなったら言えよ。少し位なら全然貸すから」


「消費者金融とかから借りる前に私達頼ってくださいね」


「というか困ったら一食二食位なら全然作るから! 一人分も二人分も変わんないから!」


「大丈夫っすよ! 焼肉一回位じゃ今日の報酬は消し飛ばないっすから! しばらくは大丈夫っすよ!」


「皆、そのしばらくの後の話をしているんじゃないかな……?」


「そうですわね……知り合って間もないですが、私も心配ですわ」


 ミカとミーシャが苦笑いを浮かべながらそう言う。

 うん、一応定期的にギルドの仕事をしている内に謹慎も空けて職場復帰できるだろうから基本的に大丈夫だとは思うんだけど……なんだろう、シズクからはあまりお金が寄り付く匂いがしない。

 ちょっと不安だ。


「と、とにかく、とにかく今日は大丈夫なんで肉! 焼肉行かないっすか!」


「焼肉か……確かに良いな。俺も肉ガッツり食いたい気がする」


「ステラさんの場合、なんというか、血が足りてないんじゃないですかね?」


「治癒魔術で血液量も戻ってると思うんだけど……うん、確かに元気出る物食べた方が良い気がするよステラは」


「じゃあもう焼肉で決定で良いんじゃないですかね。なんとなく今日の打ち上げだったり今後の決起集会みたいな雰囲気もでますし」


「よっしゃぁ! てなわけで二人もそれでいいっすか?」


「勿論! 私あんまりそういうお店入った事無いから楽しみ」


「た、楽しみの方向性がお姫様っすね……ミーシャさんはどうっすか?」


「なんというか、ミーシャは喋り方もどこか気品があってさ、焼肉屋とか入るイメージないよな」


「確かにそうだね」


「おしゃれなお店に主に良そうです」


「いやいや、皆様、それはちょっと誤解ですわ」


 ミーシャは軽く咳払いしてから言う。


「私の実家、焼肉屋でしてよ」


「「「「「え!?」」」」」


「そ、そんなに驚く事でしょうか……?」


 いや、普通に今日色々有った中で比較しても中々上位の衝撃だけど!?

 というか……なんというかさ。


「「「「……聖女感全然ない」」」」


 私、シルヴィ、ステラ、シズクと元聖女四人で同時に呟いた。

 そんな私達の隣でボソりとミカが言う。


「それ皆さんも結構なブーメラン発言じゃ……あ」


 ついうっかり言ってしまったとばかりに、お上品に口元に手を当てるミカ。


「す、すみません。その……ごめんなさい」


「いいよ、事実だし」


「つーか、色々有ったけどさ、そうやって遠慮なく言ってくれた方が俺達もやりやすいし気にすんな」


「私も同感です。そんな事でキレたりしないですよ」


「軽く行くっすよ、軽く」


「……うん!」


 そんな感じに、一度殺し合いをした仲とは思えない位に徐々に距離感を詰めながら、私達は移動を始める。


 メンバー構成、元聖女五人+現役聖女一人。系女六名。

 目指すは良い感じの焼肉屋。


 これより肉を焼きに行く!

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