ex 黒装束の男、次元の違いを目の当たりにする
シエルがその場を離れた後、ルカはマルコと共に静かに動き出した。
シエルから預かった指輪を手にしたマルコの先導で向かうのは、事務所の地下だ。
「しっかしお主ら、先程までの空気が変わったの。特にワシのファンボーイ。空気が別人じゃ。となると……先のは場の空気を読んだ演技か?」
「いえ、どちらも俺ですよ。先程はサインありがとうございます。大切にします」
「つーか、場の空気読んでたらあんな事言わねえだろ。ぶち壊しだぶち壊し」
「すまん」
「謝んな、俺も推しのアーティストがいきなり目の前に現れでもしたらおかしくなるかもしれねえからな」
「つまり皆変な奴という事じゃの」
「あ?」
「あーストップストップ怖い怖い。お主が大した事無い奴だと分かってはおっても、成人男性にドスの効いた声を向けられるのは普通に怖いからの」
「なんだてめぇ、煽ってんのか」
「まあまあ落ち着けマルコ」
マルコを宥めながらルカは思う。
(大した事が無い……か)
ルカはマルコという男の事をよく知らない。
先日の一件以降少し関わりあいを持った程度。なんとなく仲良くやれそうな気はするが、それもこの先の話であって彼のこれまでを知っている訳ではない。
それでも彼の強さがどの程度の物なのかは理解しているつもりだ。
軽く見積もって……ミカの加護を受けていない時の自分と同程度。
自身と……同格の男。
その男が大した事が無いという評価を下された。
勿論レリアはマルコの戦いを直接見ていない訳だが……それでも彼女が根拠の無い事を言うとは思えない。
それでも……言葉は重く突き刺さる。
『だから僕達の敗因は世界に選ばれなかった事だ。僕もキミも、持って生まれた力が無かったから敗北者なんだ』
突き刺さった言葉が、先日戦った敵の言葉をフラッシュバックさせてくる。
世界に選ばれていない。
身に付けられるだけの技量を身に付け、詰め込めるだけの知識を詰め込めても、ミカやアンナを初めとした、あの敵が言う所の世界に選ばれた人間には到底及ばない。
目の前で起きる事になんの影響も与えられない敗北者でしかない。
その事実は、深く重く突き刺さってくる。
何度も何度も、執拗に。
そして身に付けた技量や知識ですらも、何かを変えるには到底足りたものではない。
その象徴がこの先に眠っている。
「着いたぞ。此処にお前に見て貰いてえ物がある」
事務所の地下の奥の奥。
決して表に出る事が無い、アットホームなこの組織の闇の部分。
「この先に何があるのじゃ」
「情報がたっぷり詰まった人の脳だ。俺達の敵のな」
その扉の先にあるのは、先日の影の魔術を使う男の脳。
ルカが挑み手も足も出なかった魔術によるプロテクトが掛けられた情報の塊だ。
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