ex 聖女の親友、仲介役に徹する
「……さてと」
アンナ達聖女六人を見送った後、シエルは軽く深呼吸した後に静かにそう呟く。
「予定とやらが何かは知らんが、何やら真面目モードな雰囲気じゃの」
「まあね。真面目にやんなきゃって時は真面目にやんないと」
そう言いながらシエルは入り口から踵を返して事務所の中へと戻っていく。
向かう先は先程の部屋。
先程までアンナ達聖女六人を交えて今後の話をしていた部屋だ。
そして部屋で深々とソファに座るマルコにシエルは言う。
「行ったよ、皆。これで良かった?」
「なんの話だ?」
「レリアさんがどういう人なのかって事を聞いた時、マコっちゃん心の中で色々と考えを巡らせてたでしょ。例えば……どうやってあの聖女達に悟られずにレリア・オルフィルの力を借りるか、とかね」
「何でそう思った」
「いや顔見れば分かるでしょ」
「……その察しの良さをもっと自分の危機管理に使え馬鹿」
不機嫌そうにそう呟くマルコに対して、レリアが言う。
「ほう、ワシの力を借りたいとな。ワシの事知らんかった癖に良く言うの」
「直接言ってねえだろ!? ったく知らなかったからこそ、どうやって頼むか考えてた段階だってのこっちはよぉ!」
そう言って軽くシエルを睨むマルコ。
そんなマルコをまあまあと宥めながら、今度は視線をルカに向ける。
「ルカさんだってそうだよね。予定があると言いながらも此処に残っているのはつまりそういう事じゃない?」
「……そういう事になるな」
「ほう、どうしたワシのファンボーイ。お主は一体ワシに何を望んでおる」
「それは……」
少々言いにくそうに顔を俯かせるルカ。
それを見たシエルはマルコの元へと歩み寄り、レリアの依り代となっている指輪を手渡す。
「どうした? お前が預かったんだろ」
「うん、だから一、二時間したら返して貰いに来るよ。だって正直ウチがこのまま此処に居たら都合悪いでしょ。あっちゃん達に伝えるのが表向きの情報ってだけは教えといて、裏側の情報は教えようとはしない。それがウチへの意地悪じゃなく配慮だって事位は分かってるからさ。だから今回ウチは仲介役に徹するよ」
先日の地下での一件で、マルコ達が得た情報をアンナ達に伝える役目をシエルが担った。
その際、ルカ以外の相手には表向きの情報しか伝えなかった。
つまりは表と裏がある事位は理解している。
理解していても、態々分かりやすく隠されたその裏側に踏み込むつもりは今回は無い。
信頼できる相手が分かりやすくその裏側を話そうとしなかったのは、きっと純粋な配慮だ。
そうして引かれた線引きを超えて良いのか悪いのかという判断はその都度するのだけれど、やはりそうした配慮を踏み躙りたいとは思わない。
不可抗力で問題が目の前に転がり込んできたりだとか、自然な流れで関わったりだとか、助けを求められた時だとか、そういう時に全力で走り出しはするけれど。
今回は。
アンナ達が知らないこの裏側の出来事に限りは。
あくまで繋ぐ役割に徹する事に決めた。
「……お主の予定とはこれの事かの?」
「それ以外無いでしょ。あ、レリアさんが嫌だったらこの話は無理矢理にでも無しにするけど」
「まだ具体的に何をするか聞いてはおらぬが……まあ良いじゃろう。どのみち此処にいるメンツはこの先しばらくの仲間みたいな物じゃからの。此処は一つ一緒に問題にぶつかってコミュニケーションを取るのもありかもしれん」
「ありがと。じゃあまあそんな訳でウチは一旦席を外すよ」
此処から先に行われる事に自分が足を踏み入れてしまわないように、シエルは踵を返して部屋から出ていこうとする。
そんなシエルをマルコが呼び止める。
「おい、シエル」
「どしたのマコっちゃん」
「その……なんだ。分かった事が有ったら……話せる範囲で話す」
「うん、じゃあそれでよろしく」
そう言って今度こそ部屋から出ていくシエル。
(さて……これで少しでも事態が良い方向に転がってくれると良いな)
レリアをマルコに託す。
その行為に不安を感じたりはしない。
彼がこの国で絶対に敵に回してはならない人間の一人みたいなポジションの男である事は知っている。
だけど色々な事に巻き込まれて、色々な交友関係を気付いたシエルから見ても、彼程に信用できる人間は片手で数えられる程しかいない。
だから大丈夫だ。
きっとこれから行われる事が綺麗な事では無い事は分かっていても。
それでも。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます