第54話 決闘
ブラッドとフェニアの戦いは苛烈を極めていた。
お互いが実力者同士。
持久戦になるのは必至だった。
ブラッドは「コヨーテ&ベイロウ」の掃射でフェニアを追いつめる。
だが、フェニアも負けてはいない。
「サワード・カスタム」を正確にブラッドに叩きこんで戦況を拮抗させていた。
「楽しいなぁ! やっぱり、ブラッドと戦うのが一番、楽しいなぁ!」
「全く楽しくもない! さっさと逝きやがれ!」
ブラッドは悪態を吐くと同時に側転をしながら、回避と同時に拳銃での射撃を行った。
ブラッドが回避を行うのを見切って、先にフェニアは「サワード・カスタム」を掃射した。
フェニアの勘は魔物じみていた。
ブラッドが何処に逃げようとも、圧倒的な戦闘センスで見切ると猛追撃を仕掛けて来た。
ブラッドは不死の身体だ。
だが、痛みを感じる心はあった。
対してフェニアは異常だった。
プラーナ弾の直撃を受けて血しぶきが上がっても、平然としていた。
寧ろ、「心地が良い」といった表情をしてはプラーナ弾の中を真正面から追撃して来た。
ブラッドはフェニアの異常さの意味を考えた。
その末に一つの答えに行きついた。
「お前、自身の身体を錬金術で弄り回したな! 狂気の沙汰とは思えない行いだ!」
「悪いかぁ? お前だって似たような存在だろぉ!」
「違う! 俺は望んでこんな身体になってない!」
ブラッドは回避と射撃を同時に行う。
対して、フェニアは回避行動を採ろうとはしない。
真正面からプラーナ弾を受け止め、ケタケタと笑っていた。
そんな不死の存在でも異質な存在に変貌したフェニアにブラッドは「どうしたら勝ち残れるか?」を必死で考えた。
相討ちでは話しにならない。
フェニアだけを屠る算段を必死に考えた。
思案の先に行きついた答えはフェニアの「不死」に対するありかたの違いについてだ。
ブラッドの場合、不死鳥の呪いで身体が勝手に再生する。手首を切って死のうとしても勝手に再生するから死ねない。首を胴体から切り離したとしても答えは変わらなかった。
だが、フェニアの不死のありかたは少し違っていた。
ブラッドがプラーナ弾をフェニアに叩きこむ。
身体に穴は開き、出血するが即座に治療されて、死なない。
ブラッドのような超再生力があるが、何かが違うとブラッドは感じていた。
ブラッドの身体を研究して不死を得たのは解った。
だが、「フェニアの場合、不死について完璧とは違るのでは?」とブラッドは仮説を立てた。
ブラッドがつけ入る点を考えればその一点しかないと考えた。
ブラッドは「コヨーテ&ベイロウ」を消すと近接格闘を挑んだ。
その際、上級血液魔法を展開できるように左腕の紋様に血を記憶させておいた。
ブラッドの目にも止まらない鮮やかな体捌きをフェニアも圧倒的な動体視力で見切って回避した。
「ブラッドはどの距離でも俺様をドキドキさせてくれるなぁ! 俺様をこうも興奮させる奴に初めて出会ったぜぇ!」
「気持ち悪いんだよ! 一発殴られやがれ!」
「そうだ、良い話をしてやろうぅ! ある類稀な才能を持った青年の話だぁ!」
ブラッドはフェニアの顔面に左右掌底を全力で放ちながら吐き捨てた。
「興味ないんだよ! お前の良く解らねぇ話しなんてよ!」
フェニアは上体を柔軟に反らすことでブラッドの掌底をかわすと、楽しそうに話を続けた。
「聞けよ。その青年はある国の王子と旅を共にしていました。だが、運命は青年に微笑みます。王子は実は王女だったのです。王子は青年に自分が王女である内容を秘密にして欲しいと訴えます。青年はお人好しにも受け入れ旅を続けます。旅の果て、二人は運命的に惹かれ合う。なんて素敵な話だろうねぇ!」
「……、テメェ!」
ブラッドが怒りで大振りになったところを、フェニアは見切って鳩尾に強烈な肘打ちを叩きこんだ。
ブラッドは口から吐血して大地に転がった。
フェニアは傷をO型特有の回復血液魔法で傷を治しながら身振り手振りを付けて話した。
「ドラマティックな話だと思わないかい? 惹かれ合った二人は当然結ばれる。俺様としてはここで王女がいなくなったらどれだけストーリーが悲劇になるか心がゾクリッとするんだよなぁ! ブラッドはどう思う? どうも思えないだろうなぁ! 貴様の話だからねぇ!」
フェニアは腹を抱えてカラカラと大笑いした。
ブラッドは起き上がると果敢にフェニアに殴りかかった。
だが、話の内容からブラッドはフェニアがアガーテとブラッド自身の関係を全て知っていると憶測し、恐怖感にかられてしまった。
ブラッドの攻撃に恐怖が乗ると、真面な攻撃ですら通用しないフェニアには完全に見切られる。
フェニアはブラッドの攻撃を完全に見切ると身体を開くだけで攻撃をかわし、右拳の強烈な叩きおろしでブラッドを地面に叩きつけた。
その上で頭を踏みつけながら愉快そうに話した。
「怖いねぇ。恋とは真面な青年をこうも変えてしまうかい? こんなひ弱になったブラッドを俺様は見たくないんだよなぁ。なら、弱くなった元を切ってしまえば俺様をもっともっと楽しませてくれるかい? そうだ、そうしよう。王女を殺そう」
「お前、そんなことしてみろ……。楽には殺さないぞ」
「そうそう! その調子だぁ! やっぱり相手に殺意剥き出しのブラッドが一番格好いいよぉ! 痺れるなぁ!」
フェニアは歓喜に満ちた声ではしゃいだ。
ブラッドは頭を押さえつけられた状態で、フェニアに対して怒りをぶつけたかった。
だが、情けない格好ではどうしようもない。
ブラッドは自分自身が五年前から全く成長していないことを痛感させられた。
セティンを救えず、泣いた十二歳の子供の時から脱するために血反吐を吐くどころか全てをなげうって走り抜けて来た。
だが、現実は無情だ。
セティンがいなくなり、悲しみに暮れる日々に新しい生き甲斐、「恋人」ができたと感じたらその人すら守れない弱い存在。それが今のブラッドだった。
『ダメダメじゃねぇか……。俺は全く成長出来て無い。このままアガーテを失い、失望の日々を送る暗闇の中に落ちるのか――?』
ブラッドは自分自身を信じられなくなっていた。
「こんなにも頑張ったって無駄だ」
「俺は守る者も守れない弱い存在だ」
そんな暗い声が胸を支配していた。
そんな中、フェニアに対して水鉄砲がかけられた。
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