第50話 思惑
ブラッドとヴァンがお互い心に温もりを覚え、再会した時には二人共、一歩前進した男前な表情で微笑み合った。
ヴァンはブラッドに対して隠し事を絶対にしたくない性格だった。
アナルタシアに向かう道中にアイナに想いを告げられた話を正直にヴァンはブラッドに話した。ヴァンはブラッドが絶対に悲しむと心の中で怯えていた。
ヴァンもブラッドと相棒歴が長い公私共に過ごす家族だ。
ブラッドが不死の身体になった理由を知っているし、どれだけブラッドが妹セティンに対して情をかけていたかも話で聞いていた。
そんなセティンの生き写しをヴァンが取ってしまう結果になってブラッドがどんな態度を示すかヴァンは想像もできなかった。
だが、ブラッドはヴァンの話を聞いて「お前にアイナが懐いて正解だ」と冷静に話した。
ヴァンは妙に大人びたブラッドの態度に困惑した。
ブラッドはアガーテとの関係を公にしない秘密の関係にしていた。
流石に、アガーテが「男装している女性だ」と話すと、物覚えが悪いヴァンは馬鹿正直に街中に聞き回り話を拡散するとブラッドは察しが付いていた。
だから、ブラッドは「ヴァンには申し訳ないが、今は詳細は話せない」と告げた後、「俺にも運が回って来た」とだけ伝えた。
ヴァンはブラッドの晴々とした表情を見て、自身の考えが杞憂だったと考えると元気に話した。
「お互い、運が回って来ているならタオ老師にお願いしてサハギン族にも手伝ってもらおうよ!」
「そいつはいいな。いつも俺たちばかり雑用させられているんだ。こんな時こそ、サハギン族の名言『友の敵は同族の敵』を活用してもらおうか」
ブラッドとヴァンは駆ける足を速めた。
時刻はブラッドの時計で午後二時を指していた。
アイサット王国側は王宮騎士団の準備が出来次第、迎撃態勢に入る打ち合わせだった。
サウザント渓谷から首都ジュノまで重装兵の足で三時間かかる。
たったの三時間後には首都へファイント帝国軍は総攻撃を仕掛けることが可能な位置に陣取っていた。
ブラッドとヴァンは草木を慣れた動きで器用にかわしながら、タオ老師が普段からグータラしている広場へと駆けた。
広場に到着すると、予想通り、タオ老師が樹の根に寄りかかって昼寝をしていた。
ブラッドは昼寝をしているタオ老師を蹴り飛ばすと無理矢理叩き起こした。
「クソジジイ、起きろ。これから人間世界で二つの国が衝突する。俺は自分の国を守りたい。力を貸せ」
「タオ老師、僕からもお願いします! やっと慣れて来た国が放っておいたら侵略されちゃうんだ! この秘境も、もしかしたら焼かれてしまう! そんなの望んでいないよね! だから、力を貸して!」
ブラッドとヴァンの言葉にタオ老師はムクリッと起き上がると流石はブラッドと同じ運命を辿る先輩だけあって非協力的だった。
「儂はブー君とヴァンは好きじゃ。だが、他の人間が戦って死のうがどうだって良い! 寧ろ数が減って大助かりじゃ! 残った雑兵をサハギン族と一緒に狩ってのんべんだらりと過ごすのも一興よなぁ!」
腹を抱えてケタケタと笑う、タオ老師にブラッドが真面目に話した。
「クソジジイ。この俺に今以上、辛い想いを背負えとでもいうのか?」
「そうは言わぬ。唯、ブー君はお人好しなんじゃ。妹の時もそうじゃ。『自分で動いて自分の首を絞める』のがブー君の悪い点なんじゃ。ヴァンも同じ傾向が見られる。お主らは同類じゃ。大切な者のために自身が傷を負うのをいとわぬ。それは美徳じゃ。だが、傷が深くなっても退かぬ。阿呆よなぁ」
ブラッドは頭の中で過去を回想しながらタオ老師に話した。
「そうだ……、な。俺だって自分自身が阿呆だと思うぜ。国だの仲間だの関係ないんだ。本当は唯一人の笑顔を守りたいだけに必死になっている。今も昔も変わらない。成長しない阿呆だよ。だから、今度こそ道を踏み外さないようにクソジジイとヴァンがいる! 仲間がいるんだ! 一人では解らない道でも三人なら意見出し合って殴り合って仲直りして進める! 俺はそう信じている――」
ブラッドの吐いた想いにヴァンとタオ老師は言葉を失った。
大切な者の笑顔のためだけに命を張る覚悟をする。
その意味が解らないほどブラッドと浅い付き合いをしていない二人からしたら、
「凄く頼みにされた」というのが実感だった。
特にタオ老師の場合は全てを目の前で視て来た。
ブラッドの成長も、嘆きも、笑いも共に過ごして来た。
そんなブラッドが初めてタオ老師を頼りにしてお願いしてきたのは今日が初めてだった。
タオ老師はブラッドが成長したのを心底「嬉しい」と感じると同時に「寂しさ」を覚えていた。
「雛が飛び立つ時は意外と早いものじゃ。ブラッドがそこまで儂を頼るなら仕方がない。相応に考えと作戦は纏まっておるんじゃろう? 話してみよ」
ヴァンが拳を打ち鳴らしては「ブー君やったね!」と微笑んだ。
ブラッドは作戦内容を話し、ワイバーン族とサハギン族の助力を得ようと考えている胸中を簡単に話した。
タオ老師は白髭を撫でながら愉快そうに語った。
「阿呆な王国だ! ブー君の妄言を真に受けたか! だが、そうでなくては戦を楽しめぬ! 儂に着いて来い! 相応の戦力とワイバーン族への道を付けてやろう!」
ブラッドは「流石、クソジジイだ!」と褒め称えた。
だが、タオ老師は振り向く前に一言話した。
「儂も当然、戦には参加させてもらうぞ? 相応に遊ばぬと楽しくないのでな――」
振り向いたタオ老師の表情は何とも言えない悪党の表情をしていた。
ブラッドとヴァンはタオ老師の表情を見て、「とんでもない奴を誘い込んだ」と内心気が引けていた。
そんな二人の気持ちはつゆ知らず、タオ老師は盛大に笑い飛ばす。
この得体の知れない化け物が何を考え、何を成そうとしているのか二人には見当もつかなかった。
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