第45話 幾何かの休息

 ブラッドとヴァンがレジスタンスのアイサット王国へ亡命の殿を務めて一週間が経過した。


 ブラッドとヴァンは無事に首都ジュノへと帰還を果たしていた。


 レジスタンスも誰一人欠けることなく、アイサット王国に入国でき、今ではアガーテの元、対ファイント帝国侵攻に対して打ち合わせを行っていた。


 ブラッドとヴァンはアイナとアガーテの護衛任務を達成した。


 だから、高額な報酬がもらえると思い逸る気持ちを抑えてイフマールの元を訪れた。


 イフマールは二人のお助け屋の実力を評価すると同時に称賛した。


 だが、結果からいうと報酬はもらえなかった。


 理由はファイント帝国の侵攻が近く、ブラッドとヴァンにも戦力として働いてもらいたいとイフマールの願いでがあったからだ。


 当然、二人共、全力で断った。


 だが、「国の命運をかけた戦いで、実力者が何もしないで傍観するのは罪だ」とまで言われたたら、流石の二人も何も言い返せなかった。


 結局、報酬は上がったが、ファイント帝国との戦いが収束してからの支払いとなった。


 ブラッドとヴァンはいたたまれない気持ちで王宮を後にした。


 その日以来、二人へのお助け屋としての依頼はゼロ。


 結局、二人は戦争に参加して、報酬を受け取る以外の道はなかった。


 気怠い雰囲気の中、二人は普段通り、喫茶店「サニーデイ」で朝食を摂りながら話をしていた。

                    〇


「ヴァン、お前は本当に悩み事が無さそうで良いよな。俺の悩みを半分取ってくれ」


「ブー君が考え過ぎなんだよ! 普段から筋トレと頭ばっかり使うから老けて見られるのさ! 僕なんて三歳は若く見られるよ!」


「それは唯、能天気なだけだ」とブラッドはヴァンに吐くと、焼き立てのパンをかじった。


 ヴァンは元気にプレートごと持って一気に食べていた。


 ブラッドは食欲だとヴァンには勝てる気がしなかった。


「ここにいたのですね。普段通りのお二人で安心しました……」


 鈴の音がなったような可憐な声が朝の喫茶店に響いた。


 二人の前にアイナが姿を現した。表情は何処か思い詰めた感じを受けた。


「お二人に相談があったので来たのです。話を聞いてもらえませんか?」


「「お断り」」と二人は声を揃えてアイナに話した。


 二人の非協力的な言動にアイナは「えぇ!」と素っ頓狂な声を出した。


 ブラッドが文句をアイナに話した。


「護衛だけでゼニがもらえると考えていたら、結局は全部に関与する必要があるなんて聞いてないぜ。今回も戦争絡みと思うからパス」


「アイナさんには悪いと思う。でも、僕は本当に戦うのは好きとは違うんだ。相応に力はあるけど、気持ちは平和主義なんだよ。だから、あんまり血生臭い話は――」


 ブラッドはお金の面で――。


 ヴァンは心の優しさから――。


 お互いが戦争を相応に拒んでいた。


 だが、アイナは二人の態度を見ても行動を変えなかった。

「私には、絶対に、兄を止める使命があります! その為には圧倒的な力を持つお

二人に助力をしてもらう必要があるのです! お願いします、私に力を貸して下さい!」


 アイナは二人に首(こうべ)を垂れた。


 ブラッドは頭の後ろで両手を組んだまま、緩く話をした。


「そんなに意気込んで大丈夫か? 強い芯は必要だ。だが、芯が叶わない、どうにもならない時は凄い苦痛を伴うぜ? だから、もっと気楽に行こうぜ。『帝国の姫』だ『兄の暴虐』だ考えても仕方がないとは思わないか?」


「そうですけど……。居ても立っても居られない状況ですから、私はアガーテ王子から許可をもらってここまで来ました。『何かを掴まないといけない』と考えるだけで心が焦るのです」


「朝ご飯食べられた? 僕たちは今、食べてる最中なんだ! 良かったらアイナさんもどう?」


 ヴァンが口の周りも食べカスを付けたままニンマリと微笑んだ。


 アイナはブラッドを意識しつつ「どうしましょうか?」と答えた。


 ブラッドはレジスタンスの基地内でアイナから受けた話をあえて触れずに話した。


「食べていけよ。どうせ、王宮の食事なんて高級だけど、シルフ族の涙もないほどの小食なんだ。サニーデイの朝食は栄養バランス最高で腹持ちが良い。その上、財布も痛まないから最高だ」


 ブラッドの話を受けてアイナは「では――」とブラッドの左側に腰かけた。


 ヴァンが元気良く「お代わりと朝定一人追加だよ!」と厨房のおばさんに注文した。


 ブラッドは「ここまで付き合ったなら相応に話を聞くか」と気分を変えてはアイナへぶっきらぼうに語り掛けた。


「それで、俺たちお助け屋にどんな依頼だ?」


 ブラッドの言葉を受けてアイナが俯いていた顔を素早く上げた。


「話しても……、良いのですか?」


「そんな辛気臭い表情だと食事が不味くなる。とりあえず、話を聞こう」


「はい、……、はい! ありがとうございます!」とアイナはやっと微笑んだ。


 アイナが話した内容によると、ファイント帝国は皇帝自らが指揮を執り、国境を

超えて進軍して来ていた。プシャーン大河を越えサウザント渓谷まで軍は侵攻していると王宮内は大慌ての状態だった。


 イフマールも慌てていたが体調が優れない。


 結局は次期王に就任するアガーテが指揮を執ってサウザント渓谷を渡った後に王宮騎士団を中心に軍を組んでファイント帝国を迎え撃つ作戦でいた。


 だが、アガーテ自身、作戦の立案から実行、指揮まで全てが初めての事――。


 アイナは教養こそあるが、兄、ホライゾンほど巧みに戦術を練る力はないと自覚していた。


 結果、戦場を駆け抜けた経験があり、素晴らしく強いお助け屋二人に相談してみようと王宮内でも話がまとまった。


 ブラッドはアイナの話を聞いて「迷惑この上ない」と感じてしまった。


 お客様の要望に応えるのがお助け屋の使命だ。


 だが、最近は戦争の話ばかりで嫌になっていたところだった。


 そこに「戦略を立てる手助けをして欲しい」と依頼があるとげんなりするのも仕方がない。


 だが、ブラッドも立派な青年だ。


 アイナの言葉を受けて、断る理由はなかった。


 個人的には凄く断りたかった内容だが――。


「解った。話の内容とお前の意図はだいたい感じ取った。あとはヴァン(馬鹿)がどう答えるかによるな」


「僕? 構わないよ! どうせ、僕、学はないし、ブー君頼みだしね! 宜しくね、ブー君!」


「この阿呆が……。アイナ、そういう話だ。お前の依頼は受けよう。ただし、報酬の上乗せは頼むぜ」


「解りました! 是非、お願いします!」


 結局は受ける流れになる。


 ブラッドは髪をかきむしると、気を入れ直した。


『今度こそ、決着をつけてやるぞ!』と腹を据えては三人で朝食を楽しんだ。

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