第44話 死闘
逃走しようとするヴァンに対して敵兵が追撃をしかけようとした。
だが、そこを止めに入ったのはブラッドだった。
素早く上級血液魔法の「コヨーテ&ベイロウ」を展開すると追撃しようとする敵兵めがけて発砲した。
「ここから先は行き止まりだ。どうしても通りたかったら俺が話を聞いてやるぜ?」
ブラッドの言葉と圧力に敵兵は退いていった。
ブラッドの圧力に屈しないのはフェニアだけだった。
フェニアはブラッドに対して、喜々とした声で話した。
「仲間同士での話し合いは終わったかぁ? こんな独活(うど)の大木で俺様を止められるとでも考えないほうがいいぜぇ!」
「独活の大木だと? 立派な『属性神』の存在を知らないとはお前も大概、阿呆の類だな。さて、ここまでの腐れ縁になった仲だ。相応に相手をしてやる。かかって来い」
ブラッドは「コヨーテ&ベイロウ」の照準をフェニアに絞った。
フェニアは狂ったように笑うと腰のポシェットから注射器と血が入ったアンプルを取り出した。
「これが何か解るかぁ? 貴様たちを捕らえた時に採取した血から改良を加え培養した『俺様専用の強化血液』だぁ! コイツを打つとどうなるか……、楽しみだなぁ!」
フェニアはアンプルから血を注射器に吸い上げると容赦なく自身に打ち込んだ。
フェニアは快楽を得た表情をすると同時に、自身の身体に変調をきたすのを実感していた。
ブラッドはフェニアの様子が「異常」だと即座に解った。
解った瞬間、二丁拳銃をフェニアに向かって容赦なく発砲していた。
轟音と同時に掃射されたプラーナ弾がフェニアの身体を貫通した。
だが、フェニアの身体を貫通した部分から身体が再生を始めた。
ブラッドはフェニアの異変を目の当たりにして、自分自身の身体にかけられた呪い、「不死」を即座に考えた。
ブラッドは「フェニアが不死の存在に昇華した」と最低の事態を考えながらも、プラーナ弾の掃射を止めなかった。
フェニアはプラーナ弾の嵐をその身に受けながらも尚、存命していた。
眉間を撃ち抜かれようが、心臓を撃ち抜かれようが、フェニアが絶命する結果だけはなかった。
「コイツはいい身体だぁ! 痛みも快楽に変わるぅ! 全てを破壊できそうだぁ!」
フェニアは肌色から灰色に変わった皮膚を撫でまわした。
ブラッドはフェニアを見て即座に感じ取った。ブラッドの不死の力とヴァンの半魔の血を併せ持った怪物が目の前にいる――。
「圧倒的な化け物相手に手加減や情をかけている場合は一瞬たりともない」と考えたブラッドはコヨーテ&ベイロウを掃射しながら近接戦に持ち込もうと考えた。
だが、フェニアの異常さは常軌を逸していた。
プラーナ弾の掃射を受けながら、自らブラッドに対して真正面から突貫して来た。
フェニアの瞳の色は元の黒色とは違い、今は鮮血の如き赤色に染まっていた。
「近くで遊んで欲しかったら俺様は大歓迎だぁ! 自分から進んで行くよぉ!」
轟と野生の獣が目の前に姿を現し、ブラッドに襲い掛かって来た。
ブラッドは不死の身体でも、相応に効果がある首の骨を叩き折る狙いでフェニアの首の強烈な右ハイキックを放った。
フェニアは今、「自分の身体にはどんな攻撃も通用しない」と考えている。
ブラッドはそこに目をつけた。
真正面から突っ込んで来たフェニアの首を叩き折ると、半壊状態の機械王に修復用のプラーナを送り込む。
ブラッドのプラーナは莫大な量、体内に蓄積されていた。
そのほとんどを使って、機械王の修復に費やした。
機械王が咆哮をあげて、修復の完了に歓喜あまっていた。
ブラッドは首の骨が折れて少しの間だけ、行動不能に陥っているフェニアに対して「裁きの閃光」を放つよう機械王に命令を下した。
機械王は重鈍そうな身体を器用に動かして、目標を捉えると口から光の線を発射した。
光の線は行動不能に陥っていたフェニアに直撃した。
業火をあげて燃え上がる中、フェニアの身体が脂肪が焼ける嫌な臭いと共に蒸発していく。
ブラッドは「勝ったか?」と半信半疑で状況を眺めていた。
だが、ブラッドが半信半疑になるのも当たり前だった。
不死の身体がそう簡単に逝くはずもなかった。
首の骨が修復されると業火の中、フェニアが立ち上がって一歩、また一歩とブラッドに向かって歩み寄って来た。
同時に、フェニアは右腕を振り払った。
すると、業火が薙ぎ払われ、消え去った。
「強烈な歓迎、ありがたく思うよぉ。でも、貴様だって解っているんだろう? 自分自身がこの程度では死ねないってことをさぁ! 俺様は貴様の血を元に昇華した人間の上位種だ。炎で焼かれようが、すぐさま治る。最高の戦闘生命体に生まれ変わったのさぁ!」
「俺は自分自身の不死を快く思った経験は一度足りともないがね。俺の存在を人間の上位存在というお前の考えを俺は全面否定する! 命は限りがあるから輝く! 懺悔だって出来る! 不死の身体は永遠を生きて懺悔すらできない! そんな命に価値はない!」
「貴様が『価値がない』と吐き捨てた生命体は、これから貴様を叩き伏せられると考えるだけで心が躍るんだよぉ! 殺戮って最高だねぇ!」
「価値観が違い過ぎる! 俺は何が何でもお前をこの世から抹消する必要がある!」
ブラッドは「コヨーテ&ベイロウ」をフェニアに向かって構えた。
フェニアは自らの右手親指を噛み切ると左腕の紋様に擦りつけた。
「俺様は貴様たち化け物を研究してアンプルを託された! この力は化け物の貴様ったちを滅する力だぁ! 来やがれ、『サワード・カスタム』!」
フェニアが右腕を前に突き出した。
異空間が現れたと思うと真っ赤な拳銃のグリップが姿を見せた。
フェニアが拳銃を抜き放つとブラッドに対して構えた。フェニアが構えた拳銃は「サワード・カスタム」と呼ばれる「コヨーテ&ベイロウ」と同じ血液魔法決戦兵器だった。二丁拳銃とは違い、拳銃一丁だけのスタイルだが、破壊力は折り紙つきで「コヨーテ&ベイロウ」を上回る威力を誇っていた。
唯、連射速度では「コヨーテ&ベイロウ」に劣り、取り回しも悪かった。
フェニアは口を嫌な形に歪めるとサワード・カスタムをブラッドに向けて発射した。
強烈なプラーナ弾の発射の衝撃でサワード・カスタムの銃身が跳ね上がる。
ブラッドの優れた動体視力を持ってしても、サワード・カスタムの弾道を見切れなかった。
ブラッドは腹を撃ち抜かれて後方に転んだ。
だが、ブラッドも不死身の身体だ。
痛みはあれど、即死するわけではない。
激痛に耐えながら、ブラッドは必死に起き上がり、フェニアに向かって吐き捨てた。
「お前みたいな奴がAB型特有の古代魔法を使うとは……。どういったカラクリだ?」
「確かに俺様はO型だぁ。だが、アンプルの中には貴様ともう一人の血を混合した血液型を変異させる血が培養されていたぁ。今の俺様はO型でありながらAB型固有の古代魔法も限定的ながら使える特異体質なわけだぁ。解るかぁ? 解らねぇよなぁ! 簡単に言えばイレギュラーな存在だってことだぁ!」
「イレギュラーにもほどがあるだろう……」
ブラッドは口から鮮血を吐き出すと、機械王に命令した。
「イレギュラーに潰すのはイレギュラーの役割だ! お前、そこを動くな! グチャグチャの肉団子にしてやる!」
機械王が歯車音を鳴らしながら右腕部でフェニアを圧し潰そうと動いた。
だが、フェニアの動きは素早かった。
機械王の攻撃範囲から簡単に逃れる。すると、機械王の腕にしがみ付いた。
ブラッドはフェニアが「機械王の頭を吹き飛ばす気だ!」と即座に感づいた。
「させるか!」とブラッドも機械王の右腕からフェニアの後を追った。
機械王の肩上で、ブラッドとフェニアの死闘が始まった。
フェニアはサワード・カスタムをブラッドに向けて精確に発砲した。
ブラッドはプラーナ弾をギリギリの所で回避しながら、「コヨーテ&ベイロウ」の掃射でフェニアに圧力をかける。
フェニアはブラッドの闘志が全く衰えない所から「嫌になるねぇ!」と言葉とは裏腹に歓喜に満ちた表情を見せた。
ブラッドはこのままだと自身が敗北すると考えた。
お互い不死身同士――。
決定打が無ければ戦う意味が全くない。
ブラッドはアルデバラン大陸に復刻した銃撃戦を披露しながら思案した。
思案の結果、一つの答えに辿り着いた。
ブラッドは「コヨーテ&ベイロウ」をフェニアに向かって掃射した後、吐き捨てた。
「俺はお前の顔なんて二度と見たくもない! 悪いがここは退かせてもらうぜ!」
「俺様が簡単に貴様を逃がすと思うかぁ! こんな楽しい殺し合いを手放す阿呆はこのアルデバラン大陸にいないぜぇ!」
「俺は全く楽しくないのでね! 機械王(アレキサンダー)!」
ブラッドの命令に機械王が反応した。
ブラッドは機械王の右掌に飛び乗ると、そのまま命じた。
「放て!」
機械王はブラッドをアイサット王国国境方面に向かって大きく振りかぶっては投擲した。
ブラッドを投げて使命を終えた機械王はプラーナ体に姿を戻し、天に還っていった。
強引な逃げかたをされたフェニアは舌打ちをして、ブラッドが遠くに投げられた曇天を見上げては大声で吐いた。
「ド畜生がぁ!」
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