第40話 動く準備

 ブラッドとヴァンが助けられた正午。


 レジスタンスキャンプ地で二人はホライゾンと話した内容を全員に話した。


 ブラッドとヴァンの話を基にレックスが深刻な表情で語った。


「皇帝はいよいよ、侵攻の動きを強めるみたいだ。俺たちも草の根運動を行って来たがもう、そんな猶予はない。このキャンプ地が見つかるのも時間の問題だと考える。だから、俺たちはアイサット王国に亡命しようと考える」


 レックスの意志の強い言葉を受けてアガーテが話に参加した。


「亡命は一向に構わない。アイサット王国としても内部事情に詳しいレジスタンスが加わるのは歓迎だ。だが、これだけの大人数、無事に国境を越えて騎士団と合流出来るか……。そこが問題だ」


 アイナがイフマールから受けた騎士団指揮権受領証を見せて話した。


「誰か足の速い者が先にアイサット王国に戻り、部隊を率いて合流はどうですか? それなら移動のリスクも少なくて済みます」


「姫様の意見も最もだ。だが、王宮騎士団が動いたとなれば、帝国軍本隊が動き、それこそ全面戦争が勃発する。俺たちは全面戦争を回避できるなら回避したい。今以上に帝国民を苦しめるわけにはいかないのだ」


 レックスが真剣な面持ちで話した。


 話を聞いていたブラッドとヴァンはこの話の内容に簡単に発言は出来ないと感じていた。


 内容は激しく重要で、今後のアイサット王国とファイント帝国のありかたについて左右する話だ。


 政について知識は明るいブラッドだが、悩ましい部分だった。


 先に軍を動かしたほうがこの場合、「負け」だ。大儀を立てるに当たり、断頭台の上でフェニアが話した通り、「どちらの国が侵略者で、自国は正義の国だ!」と言い切る主張が必要だ。


 それがなければ民は動かない。


 指導者がお互いどんな思想を持って統治しているか?


 どんな信念を持って他国に侵攻するか?


 二つの点を試される部分だった。


 ブラッドは客観的に考えて、レジスタンスがアイサット王国に亡命すると、ファイント帝国側は「裏切り者に粛清を!」と軍を派遣出来ると考えた。


 だが、そんな身勝手な意志で動くのはホライゾンの息がかかった兵士だけだ。


 民は動かない。


 逆に反発を受け、足元をすくわれる可能性が非常に高い。


「捕まった俺が言うのもなんだが、レジスタンスを囮に使うことが出来るかもしれない」


 ブラッドの発言にレックスが話を確認して来た。


「俺たちを囮にする? どういう意味だい?」


「そのままだ。レジスタンスをホライゾンは快く思っていない。そのレジスタンスが

アイサット王国に亡命するとなれば、一網打尽を狙って軍を派遣するに違いない。だが、動く兵士は限られる。少なくてもレジスタンスを支持する兵士の士気は低い。そこをつけ込む」


「民は動かない。私たちの動きを追って来る兵士だけを討つ。兄の執念だけを討つとなれば――、レジスタンスの行動で何かが変わる可能性があります」


「ヴァン、お前は俺の相棒だ。迷惑をかけたお詫びをするなら今、ここだ。殿を務めて帝国兵を蹴散らすぞ」


「ブー君はそう言うと思っていたよ! 僕も皆が無事に王国に行けるお手伝いさせて欲しいな!」


 ヴァンが拳を打ち鳴らしてブラッドの言葉に答えた。


 そんな二人にレックスが異議を唱えた。


「君たちの実力を疑うのとは違う。だが、本当に頼んで大丈夫なのか? 生きて帰られる保証はどこにもない。他国の情勢にそこまでお節介を焼く意味はなんだ?」


 ブラッドはレックスの言葉を受けて簡単に答えた。


「俺たちはお助け屋だ。お前たちのお姫様から契約金をもらっている身でね。アフターサービスも充実しているのが売りなんだ。仕事をするのにこれ以上の理由はない」


 ヴァンもブラッドの話に首肯した。


 レックスは二人の表情を見ては語った。


「お助け屋の二人には今後のレジスタンスの全てを懸けさせてもらおうか。殿を頼む」


 短く言い放ったレックスの言葉には強い意志と信頼の意が込められていた。


 ブラッドとヴァンは「毎度あり」」と答えた。

  

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