第36話 お仕置き
時刻は一八時半――。
まだ闇が完全に支配しきっていない空は薄っすら紅の色が残っていた夏空が幻想的だった。アイサット王国で見る空もファイント帝国で見る空も変わらず綺麗で心のうやむやを晴らそうと視る者を楽しませてくれた。だが、ファイント帝国の場合、街の光が眩し過ぎて星が見えないとブラッドは感じていた。
ブラッドとヴァンは人道に外れた行為を行い、レジスタンスの人々に悲しみを広げた皇帝に「説教」をするため、帝国城城門前まで来ていた。
帝国城城門は硬く閉ざされており、来訪者どころか民にまで心を閉ざしているように見えた。
ブラッドは全てを含めて気に喰わなかった。
ヴァンもブラッドから事情を聞いて心底腹が立っていた。
ヴァンは自身に学がないのも腹が立ったが以上に、帝国が人を人として扱わない部分に、自身の過去を照らし合わせ怒っていた。
ブラッドとヴァンはどちらからという訳でもなかった。
お互いが同じタイミングで鉄製の大門に対して利き手の右掌底を全力で叩きこんだ。
規格外の力を受けた鉄製の大門は留め具を捻じ曲げられ、鈍い音をたてながらゆっくりと後ろに轟音を立てて倒れた。
たった一撃で二十フィッツからあった鉄製の大門を破壊した二人に対して城内を警備していた衛兵たちが慌てた。
「侵入者だ! 正面から来るぞ!」
「増援を呼べ! コイツ等、何者だ!」
「ば、化け物!」
二人は全方位から押し寄せる衛兵たちを体術だけで次々と鎮圧して行く。
二人の力量は圧倒的だった。
特にヴァンの近接格闘能力は群を抜いて馬鹿げた能力をしていた。蹴り一つ取ってもヴァンの蹴りは強靭な脚から放たれるギロチンと同意義だった。当たった者の首を容赦なく叩き折り、そのまま後方まで吹き飛ばす。そんな馬鹿げた力を複数人相手に発揮していた。
ブラッドも負けてはいない。
ヴァンほどの馬鹿らしさはなかった。だが、衛兵からしたら同じ化け物だった。四方八方から放たれる攻撃を一瞬で見切って蹴りと掌底で的確に反撃し確実に戦力を削っていた。
二人の暴君の出現に帝国城は荒れにあれていた。
城門前の衛兵をあらかた叩きのめした二人は城内に侵入した。
城の中は複雑な構造をしており、どこに何があるか二人はさっぱり解らなかった。
だが、ブラッドはヴァンに楽しそうに語った。
「こうして手加減なしで大暴れできるのは本当に嬉しいものだぜ! 久々の全力、遺憾なく発揮させてもらうか!」
「本当にブー君は暴れん坊なんだよねぇ! でも、僕は人の事を責められないや!」
ブラッドとヴァンは城内を徹底的に探りながら、皇帝とフェニアを探した。
ヴァンはフェニアを知らない。
だから、ブラッドが一緒に着いて行かねばならないと考えた。
二階、三階と階を重ねる毎に衛兵の数は対応しきれないほど追って来ていた。
ブラッドたちは衛兵を振りほどきながら、最上階にある未踏破の部屋に辿り着いた。
そこは二人が探し求めていた謁見の間だった。
灯りの消された謁見の間に二人が入った途端、急に照明が点けられた。
そこには二人の男が立っていた。
一人は皇帝ホライゾン。
もう一人はフェニアだった。
「下れ」とホライゾンは衛兵たちに命令した。
「陛下、危険です! この者たちは二人で百からの兵を戦闘不能に追い込んでいます! 人ではありません!」
一人の衛兵が必死に叫んだ。
だが、ホライゾンの意見は変わらない。
冷淡な哀の表情を浮かべたまま、衛兵を見るとホライゾンは「無能は嫌いだ」と吐き捨てて語った。
「私は下がれと『命令』した。兵士は私の命令に従っておればよい。こんな子鼠に私を殺すことは出来ない。それとも、貴様等がこの二人を殺せるか?」
衛兵たちは敬礼をすると、謁見の間から急いで消えて行った。
残されたブラッドとヴァンはホライゾンに向き合った。
ブラッドが唸るように低くドスの利いた声で吠えた。
「お前たちが行った行為! どういうことかわかってんのか! 人の命をなんだと思っている!」
ヴァンもブラッドに続いて叫んだ。
「君たちの行いは絶対に許される行為とは違う! 特に、皇帝さん、君は国の代表だよね! 人を大切にしなかったら絶対に駄目な立場にいる筈だ! なんで酷い行為を普通に出来るの!」
二人の叫びを受けてホライゾンは右手を払ってゆっくり話した。
「私の考えは貴様等のような下等な人間に遠く及ばないところまで考えている。下民は私の言う事を黙って聞いていれば良い。そうすれば完全なる統治された世界で安住させてやれる」
「その割には下衆な奴を仲間に引き込んだな。そこの男は変態的な考えの持ち主な上、頭の中が狂っていやがるぜ?」
「この男は私の良き理解者でね。ブラッド・エル・ブロード君。相棒のヴァン・ウィズ・フォレスター君も私は非常に興味がある。だから、君たちを私の城に招待しようと話し合った上、考えたのさ」
「その割に、兵士さんたちは何も知らないみたいだったよ。僕は本気で戦わせてもらったけどね」
「兵士に伝える必要はない。そのほうがスリルあって楽しかっただろう? 人間快楽的に生きるのが筋だ」
「俺たちは人間を殴って快楽を得る低俗な奴等とは違うぜ。随分と下衆な考えかたをする皇帝様だな」
「私は私なりに考えを持っている。フェニア君も私の考えに賛同してくれている。賛同者がいる限り私の考えは間違っていないのだ。さて、無駄話もここまでにして、本題に入ろう。お二人共私の帝国の発展のために力を貸す気はないか? 悪いようにはしない。貴様たちの力を私は相応に評価している」
「誰が、人道を踏み外した皇帝の下に行くかよ! 今晩、俺たちがこの場に来たのは皇帝に懺悔をさせるために来た! お前の行いを百叩きではなく、千叩きしてやるから考え直しやがれってんだ!」
ブラッドが威勢良く話した言葉に話を終始傍観していたフェニアが大声でゲラゲラと笑って話した。
「皇帝さんよ、コイツ等が大人しく従うはずがないって助言した通りだったろう? さっさと、使えるモノは使ったほうがマシだぜ?」
「貴様の考えは苛立つほど当たるな。仕方がない。貴重なサンプルだ、丁寧に扱いたかったが、ここは強引に行かせてもらおう」
ホライゾンが右腕を横に払った。
その行為を合図にフェニアが腰に付けていたガン・ホルダーから拳銃を引き抜くと瞬間的にブラッドとヴァンめがけて発砲した。
パッ パッ と光が二回点滅したかと思うと、動体視力、反射神経がずば抜けて高い二人でも回避出来ない速度の弾丸が身体に撃ち込まれた。
ブラッドは左脚太腿、ヴァンは右腕に弾丸を撃ち込まれた。
二人は一瞬の出来事に驚きと痛みで叫んだ。
「何で帝国に拳銃があるんだ! 拳銃は俺の古代魔法しかこのアルデバラン大陸に存在しないはずだ!」
「バーカ。貴様が阿呆みたいに見せびらかすから帝国側の協力を経て試作段階だが、拳銃は完成間近まで開発が進んでいる。最後の協力に貴様の血液魔法が必要だがねぇ」
フェニアは長い舌を出してはヘラヘラと笑いながら拳銃を舐めあげた。
ブラッドは拳銃を装備した帝国兵がどんなに脅威か頭の中で想像して背筋が凍った。
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