第35話 借り

 ブラッドとヴァンは休憩を兼ねてキャンプ地で休んでいた。すると、急にキャンプ地が喧噪に包まれた。


 ブラッドとヴァンは喧噪の元が何か気になり、人だかりの元に駆け寄った。


 そこにはレジスタンス構成員の二人が瀕死の重傷を負ってキャンプ地に帰還していた。


 レックスが大声で「医療班、直ぐに来てくれ!」と叫んだ。


 だが、構成員二人の意識は途絶えつつあった。


 ブラッドは構成員の背中に血で書かれた文字を見て瞼を大きく見開いた。


『ブラッドちゃん、ようこそ帝国へ。今日の二十時に帝国城で待っているよ――。フェニア』


 ブラッドは「フェニア」の名前を見てアイサット王宮に侵入した際に対決した男の名前を思い出した。


「あの狂気に満ちた男がまだ生きている?」とブラッドは驚くと同時に、嫌な汗が背中を流れた。


 ヴァンは文字が読めない。だが、ブラッドの様子が変なのに気付いた。


「ブー君、どうしたの? 何か異変があった?」


「どうやら、俺が相手の目当てみたいだ。だが、積極的にあんな馬鹿にかかわる理由はない」


 ブラッドは自身に言い聞かせるように言葉を吐いた。


 レックスが重傷を負った兵士の傷の手当をするために、キャンプ地に常駐していた医療班を呼んで来た。


 だが、ヴァンの人間離れした嗅覚が異変を嗅ぎ取った。


「この焦げるような臭い……。全員、この二人から直ぐに離れて!」


 ヴァンの鬼気迫る声で全員が一斉に二人から身を離した。


 同時に二人の身体が爆音をたてて弾けた。


 凄まじい爆風で鍾乳洞の壁が崩れた。


 一瞬の出来事だった。


 ヴァンが気付かなかったら全員が爆発に巻き込まれてあの世に逝っていた。


 それほどの火力を二人の身体に仕込んだ用意周到で人道を外れた行為だった。


 煙が収まり、視界が開け始めた。


 ブラッドは全員に「無事か!」と声をかけた。


 ヴァンは「大丈夫」と身を起こしてブラッドに返した。


 だが、他のレジスタンス構成員が危機的状況だった。


 爆風で飛び散った石が身体にめり込んで重体になった者。爆風で足が吹き飛ばされた者。


 多くの負傷者を出していた。


 ブラッドは咆えた。


「これが今の帝国のやり口かよ! 汚いにも程があるぜ!」


 ブラッドの無念の咆哮に作戦会議を行っていたアイナとアガーテも姿を見せた。


 二人とも事の重大さを見て口を塞ぐと「酷い」と目を逸らした。


 ブラッドはフェニアの誘いに乗るつもりは一切なかった。


 だが、この惨劇を見て腹の底から煮えくり返る思いを感じた。


「――、ヴァン、お前は今晩、ここでレジスタンスの護衛を頼む。俺は用事が出来た」


「ブー君、まさか……。駄目だよ! 一人で行かせるなんて僕には出来ない!」


「だが、お前には戦う理由がない。危険に巻き込むわけにもいかない」


「ブー君、僕たちはいつだって相棒だよ! ブー君に戦う理由が出来たなら、それが僕の戦う理由だ!」


 ブラッドはヴァンの言葉が純粋に嬉しかった。


 一人で行くよりも二人で行ったほうが何十倍も力が倍増する。


 それがブラッドとヴァンの関係だった。


「二人共、これからどこに行く気ですか! 勝手な行動をされたら困ります!」


 アイナが必死な形相でブラッドとヴァンに語り掛けた。


 ブラッドは一言、アイナに向かって話した。


「借りを返しに行って来るだけだ。大した用事とは違う」


「でも……」と引き留めようとするアイナにアガーテが優しく左肩に右手を置いて話した。


「アイナさん、二人を信じてみたらどう? 男性にはどうしても退けない時があるんだよ」


 アガーテの言葉にアイナは渋々「解りました」と答えた。


 こうしてお助け屋二人の「借り返し」が始まった。

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