第34話 レジスタンス
コンクリート製階段は三十フィッツの深さがあった。
階段を下り終えると、そこは自然が作った鍾乳洞だった。
鍾乳洞への入口を整備してコーメルのあらゆる場所から出入りできるように整理してあった。
アイナが歩きながら説明をしてくれた。
「ここが私たちレジスタンスの本拠地です。基本的には先ほどのパン屋さんから店長と暗号のやり取りを行って入るのが礼儀としています。ですが、急務の際にはコーメル内の様々な場所からこの鍾乳洞に入れるように入口を整備しています」
ブラッドは冷静に鍾乳洞を観察してアイナに質問した。
「この鍾乳洞は下水道よりも下にあるってわけか。アルデバラン大陸の地下はまだ未開の地と聞いていたが、鍾乳洞になっていたとは驚きだ」
アガーテがブラッドの言葉を受けて話した。
「ブラッドはかなり洞察眼に優れているね。僕も考えたのだけど、この鍾乳洞は何百年もかけて作られた自然の恵みだ。ここまで巨大な鍾乳洞は資料にも載ってなかった気がするよ」
物珍しそうに見ていたヴァンが一言、気になる内容を話した。
「地上は『デンキ』って文化を使っているのに、鍾乳洞内はアイサット王国と同じ松明で火を点けて灯りの代わりにしているんだ! なんでだろう?」
「私たちレジスタンスは非人道的な方法で作り出された文化、エネルギーを良しとしません。確かに電気は素晴らしい画期的な文化です。でも、アイサット王国の人々を酷使してまで作り出された恵を私たちが享受していいはずがないのです」
アイナは真剣な声で語った。
その声には確かな信念が宿っていた。
五分間ほど鍾乳洞内を歩くと、開けた場所に出た。
直径三フィールドある広々とした空間だった。天井は暗くて見えないほど高く、開けた空間がどれだけ広大であるかを示していた。
そこには百人からのレジスタンス構成員が物資を搬入したり、キャンプを張った中で鉄製のテーブルの上に地図を広げ入念に打ち合わせを行っていた。
アイナがキャンプの仲間たちの元へ駆け寄ると、ブラッドたちの紹介をしてくれた。
一人の青年がブラッドたちの前に駆けて寄って来ると自己紹介を始めた。青年はブラッドたちと一歳違いの一八際だった。見た目はボディ・アーマーと青色のジャケットに身を包み、頭には青色のバンダナを巻いていた。丹精な顔立ちの青年で清潔感が漂っていた。
「遠路遥々、レジスタンスまで足を運んでもらい感謝する。俺はレジスタンスサブ・リーダーのレックス・ケイ・フィーダーだ。護衛のかたまで付けて下さるなんてアイサット国王には感謝をせねばならないな。それで、王子は誰だ?」
王子と呼ばれてアガーテが「場違いでは?」と言いたげな表情で挙手して小声で話した。
「僕が王子のアガーテ・フォン・アイサットだよ。こんな組織に与することになるとは、実際、肌身で感じてみると大事(おおごと)だね」
レックスがアガーテの姿を確認して顎をさすりながら無礼に言葉を発した。
「あなたが王子ですか。なんだか女性と間違いそうな見た目だな」
レックスの言葉を受け手アガーテとブラッドが動揺した。
アガーテが女性なのは本人とブラッドだけの秘密だった。
ブラッドが困惑するアガーテの代わりにレックスに話しかけた。
「コイツは男だよ。俺の名前はブラッド・エル・ブロード。こっちは相棒のヴァン・ウィズ・フォレスターだ。王子相手に性別を疑うとはレジスタンスのサブ・リーダーは余程女に飢えているみたいだな」
レックスはブラッドの話を受けて盛大に笑うと、「失敬」と話を切り替えた。
「姫様と王子には今後の動きとアイサット王国の協力態勢について打ち合わせを早速行いたい。護衛の二人はキャンプ地でゆっくり休んでくれ。大したもてなしは出来ないが、客人としてもてなそう」
ブラッドとヴァンは「恩にきる」と答えるとレックスたちと別行動になった。
ブラッドはヴァンと二人で話しながら、キャンプ地を遠目で眺めていた。
ヴァンは少し考える所があった。
だから、ブラッドに素直に話した。
「ブー君、この光景を見ているとアイサット王国とファイント帝国は本当に戦争を始めるのかな?」
「違いないな。ここまで周到に反旗を翻す準備をしているんだ。争いの道は避けられないと見て間違いない」
「僕はね、魔物と人の間に生まれた子だから不思議なんだ。魔物と人間の愛の結晶が僕なら、人間同士が争うことなんて何一つないんだよ。魔物と人間が愛を育めたように、人間同士が愛を育めない道理はどこにだってない。壁なんてないんだって考えるんだ」
「お前の言う事は正しい。だが、世の中はそんなに簡単に出来てはいないのさ。単純に解り合うことだけでも、ここまで大事に発展する。それは人間が不完全な証だ」
「ブー君が語る話は時々難しくて解らないよ」
「お前にもいつか解る時が来るさ。俺たちの人生は普通の人間の比べたら圧倒的に長い。ゆっくり話ながら進もうぜ」
ブラッドの話を聞いたヴァンは「ブー君、お年寄りみたい!」とカラカラと腹を抱えて笑った。
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