第31話 偵察

 ブラッドとアガーテはその後、運良くヴァンとアイナと合流が出来た。


 ヴァン曰く、「あれだけ派手なことが出来るのはブー君だけだよ! おおかたの予想は出来るけど、ブー君らしいや!」と能天気に言い放った。


 アイナはブラッドとアガーテが手を繋いでいる光景の元をブラッドから聞いて予備の護符をブラッドに渡した。


 ブラッドは「ありがとう!」とアイナにお礼を述べるとアガーテに「迷惑をかけた」と謝罪した。


 アガーテはブラッドに「気にしないでくれ」と普段通りに接した。


 アガーテが「男性ではなく女性だ」いう真実は隠さねばならないとブラッドはしっかり考えていた。


 本人が自分の口から真実を口にするまで、ブラッドが面白がって話す内容とは違うとブラッドは自覚していた。それに、男性と女性の違いでは話しの内容と受け手の印象も大きく変わってくる。「その時にフォローすれば問題がない」とブラッドは考えていた。


 時刻は昼の十三時――。


 ブラッドたちはサウザント渓谷を踏破するために前に進んでいた。


 サウザント渓谷の火山岩はかつて渓谷が活火山だった名残だ。今では活動を停止していた。だが、何千年も前、サウザント渓谷は大型活火山で形成された連峰だった。火山活動が余りに激しく、噴火で山の頂上が吹き飛び、流れ出したマグマが河となり海に向かって流れだした。その途中に冷やされ硬化した岩がサウザント渓谷の基だった。


 大自然の神秘を前にブラッドとヴァンは「こんな経験も悪くない」と二人微笑み合って、楽しく話しを始めた。


 体力が無駄にある二人だから火山岩で出来た激しい高低差を昇り降りしても平気だった。


 だが、一般人のアイナとアガーテは息が上がっていた。


 そんな二人を見てヴァンが提案した。


「ブー君、僕たちは平気だけど、アイナさんとアガーテ王子が苦しそうだよ。少し休憩しないかい?」


「本当に根性がない奴等だ。お前がそう言うなら休もうか。もう少しで渓谷を踏破出来そうだったんだがな」


「全てを急いでもいいことはないよ。『ことは慎重に運べ』ってタオ老師が良く語っていたよね! 僕も同意見なんだ! これからこんな大切な時間を取れる時があるかどうか解らないからね!」


 ヴァンの明るい声を聞いて、ブラッドは「あの人嫌いがここまで他人を想える奴に変われたのが嬉しい」と感じた。


 アイナとアガーテが休憩している間にブラッドとヴァンが先に偵察することになった。


 サウザント渓谷を抜けるとプシャーン大河までしばらく平地を進む。


 その間、アイナとアガーテを狙って刺客が現れる可能性がゼロとは言えない。


 もし、刺客が現れたらブラッドとヴァンが対応する。


 その時のために、二人が先を見ておくのは地理を把握するために大切なことだった。


 ブラッドが火山岩の天辺に立って双眼鏡で先を見渡す。


「この先はずっと平野だ。敵からしたら、こうも襲撃にうってつけの場所はない。ヴァンお前の鼻には何か異臭はするか?」


 ブラッドはヴァンの鼻を頼った。


 ヴァンの鼻は半人半魔の血もあり非常に良く利いた。


 ヴァンは臭いをかぐとブラッドに肩をすくめて話した。


「サウザント渓谷の臭いが強過ぎて、先の臭いまでは解らないよ。僕の勘だと平和にプシャーン大河まで進めると思うけどね」


「お前の勘は本当に必要な時にあてにならないからな。とにかく、先の平野で接敵したら二人の安全を第一に考えよう。敵を撃破する等、その次でじゅうぶんだ」


「ブー君、今朝、派手に暴れたよね。精霊に魅せられたって言うけど、やっぱり過去が引っかかるの?」


「……、悪いか?」


「僕はブー君が思い出を大切にしているところが凄く素敵だと思うよ。でも、暴れるまでのまれるのは良くないよ。アガーテ王子が必死に止めてくれたから無事でいられた。だけど、もし、ブー君が本気を出したサウザント渓谷が跡形もなく消し飛ぶから……。僕はそこだけが心配なんだ」


「お前だって、戦いになれば半分暴走状態になる。お互い様だ」


 ヴァンは「そうだったね」と後ろ頭を照れながら掻いた。


「でも――」とヴァンは話しを続けた。


「ブー君はずっと冷静なブー君でいて欲しいと僕は願う。いつ来るか解らないけど、過去の束縛からブー君が解き放たれる時が来るのを僕は待っているよ」


「余計なお世話だ。お前みたいに簡単に行かないから俺だって悩んでいるんだよ」


「それはそうか」とヴァンは笑みを零すとケタケタと笑った。


 ブラッドとヴァンは久しぶりの相棒同士の時間を過ごした。


 かけがえの無い大切な者同士の時間――。


 お互いがお互いを想い合える大切なパートナー。


「お互いがしっかり会話を重ねられればこの先だって問題はない」


 二人はお互いの腹の中の心配事をぶちまけ合った。


 それはお助け屋を営む中で常に意識していた二人の約束事だった。


 お互い、嘘を吐かず話しをし合えば百を千、万にだって変えられる。

 

 それがお助け屋の本懐であり、ありかただと二人は夏の日差しの中、語り合った。


 お互いを想いながら――。

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