第24話 阿呆王子
ブラッドたち三人は王宮を後にした後、一度、ジュノに戻っていた。
後継者の顔を見たことがない三人はイフマールの従者に人相を補助魔法で洋紙に転写してもらい、似た人物を探す所から始めた。
後継者は凛とした顔立ちに高く尖った鼻。金髪ショートカットから男性だと推測出来た。
ブラッドは転写された洋紙を見ながら「ジュノの街中でこんな目立つ奴が歩いていたら一発で解る」と内心、事を簡単に捉えていた。
ヴァンがブラッドの持つ洋紙を見ながら素っ頓狂な声をあげた。
「ブー君、もしかしてなんだけどさ……。後継者さんってお馬鹿さんなのかな?」
「何、急に言い出しているんだよ? まだ、見つかってもいない内にこのクソ王子が馬鹿だって言い切れるのか?」
ヴァンと話をしていると、アイナも顔面蒼白にしてブラッドに声をかけた。
「ブラッドさん、私、見間違いかもしれませんが……、後継者様が駆け回っていますよ」
ブラッドが洋紙から目を上げて二人の指指した方角を見た。
そこには非常に顔立ちの良い二枚目がジュノの大通りで歳若い女の子を追いかけ回していた。
「キラリンちゃ~ん! 僕と一緒にランチしない! 勿論、楽しませてあげるからさぁ!」
元気一杯に走り回る阿呆丸出しの二枚目は女性をとっかえひっかしながら追い回しては、顔面を叩かれたり、蹴られたりしてこっぴどく振られていた。
だが、不屈の精神で立ち上がるとまた女の子に対して猛烈なアプローチを開始していた。
そのとんでもない邪(よこしま)ぶりを見てブラッドは自身が持つ洋紙と見比べた。
「間違いない。あの阿呆が次期王様だ」
「ごめんなさい、私、王族という身分でありながらあのような態度を採られる王子に生理的嫌悪感を覚えます」
ブラッドはアイナの言葉に「そりゃそうだ」と肯定した。
ここでアイナが阿呆王子を止めに入ればその場で押し倒すで済まない可能性がある。
だから、ヴァンとブラッドの二人が馬鹿王子を捉える役割を担った。
「キラリンちゃ~ん! おっと、こっちににもキラリちゃんがいるぞ~! 僕の王国にはこんなにも星で輝いているなんて幸せだなぁ~!」
「こら、馬鹿王子。少しはたぎる性欲を抑えやがれ」
ブラッドが王子の首根っこを片手で掴んだ。
ヴァンは周囲の女の子たちに対して「近寄ったら駄目だよ! 妊娠するからね!」と警告を発していた。
首根っこを掴まれた王子はブラッドの顔を見て表情を輝かせた。
「わぁ! 君もキラリンちゃんではないか! 美男子というのも悪くないなぁ!」
「気持ち悪い言葉を吐くんじゃねぇよ」
ブラッドは馬鹿王子の頭に拳骨を容赦なく叩きこんだ。
拳骨を叩きこまれた王子は本当に痛そうに頭を押さえると涙目でブラッドを見て抗議した。
「キラリンちゃん、何をするのさ! 僕は唯、民と親睦をはかろうとしていただけなんだよ!」
「どこが親睦だ。どう見ても乱交だ。阿呆王子め。さっさと旅の支度を整えてから、ファイント帝国に旅立つぞ」
「僕は阿呆王子とは違う! 『アガーデ・フォン・アイサット』だ! 旅の支度とはファイント帝国に向けての旅かい? 断固拒否させて貰おうか! ファイント帝国と僕たちの国は何十年も敵対関係にあった。そんな国に僕が行ってなんになる? 死に行くようなものさ! 断固拒否だ!」
アガーテはブラッドに対して「行きたくない」と断言した。
後ろ向きなアガーテに対してアイナが必死に声をかけた。
「王子様、あなたの行動次第で国で待つ仲間たちの命が左右されるのです! 私は軽薄なあなたは好きにはなれません。でも、私たちと一緒に来てファイント帝国の現状を知ってもらわない限り、話は先に進まないのです! お願いします!」
アイナはアガーテに対して頭を下げた。
アガーテはアイナが頭を下げる姿を見て、ニヤリッと嫌な笑みを浮かべると話しを切り出した。
「そこまで僕に来て欲しいなら誠意を表してほしなぁ。君も立派なキラリンちゃんだ。この先の宿屋で僕を喜ばせることが出来たなら考えてやっても良いよ」
最低の考えかたをするアガーテに対してヴァンが話に割って入った。
「王子! 調子に乗らないでよ! 僕たちがお願いする立場だからってそんな卑怯な交換条件はアイナさんが可哀想だよ!」
必死にアガーテの考えを否定するヴァンの訴えに対して、アガーテ本人は何処吹く風だった。
「さて、どうする?」とアイナに問い詰める。
そんなアガーテに対して首根っこを引っつかまえていたブラッドが再度、拳骨を叩きこんだ。
ブラッドの強烈な拳骨を二回も受けたアガーテは頭を押さえて目尻に涙を浮かべながら訴えた。
「キラリンちゃん、そんなに嫉妬しないでよ! 君も僕の相手がしたいんだね! 順番だよ! まずは可愛らしいお客様が一番だよ!」
「阿呆が。性欲ばかり前に出やがって……。阿呆の相手をアイナにさせる義理は全くない。さっさと行くぞ」
ブラッドが強引にアガーテを引きずる形で大通りを闊歩した。
ヴァンとアイナも一安心して、ブラッドの後に続いた。
ヴァンがブラッドの横に並ぶと提案した。
「ブー君、アイナさんにも血液魔法を買ってあげたらどうかな? この先、危険なことが起きたら僕たちでも対応しきれない時があるかもしれないよ。だから、護身用として下級血液魔法くらいは体得してもらうなんてどうかな?」
「考えは良いぜ。それに、この阿呆にも血液魔法を叩きこんでおけば、道中でもしもの時に自分でなんとかする。金は丁度、この阿呆王子がいるから王宮払いで済まそうか」
なんとも卑劣な考えかたをするブラッドは行き付けの血液魔法販売店へと足を運んだ。
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