第19話 思惑

 ブラッドとアイナは国王の寝室に辿り着いた。


 五フィッツあり重厚感がある木製の扉をブラッドが無礼にも蹴り破ると中は国王がキングサイズベッドに横になっていた。


 国王の寝室は何もかもが豪華だった。光を灯す機材も蝋燭で火を灯す方式を採っていた。それも、色鮮やかなステンドグラスを使っており色とりどりの鮮やかな色彩が部屋を彩っていた。入口に対して右側には執務用の木製机が備え付けられており、寝室でも執務ができるようになっていた。左側には本棚がズラリと所せましと並んでおり、国王が本好きで知識に明るいことが一目で解った。


 中央にキングサイズのベッドが足を向ける形で備付けられており、国王はかなり体調が悪いと見えた。頬は朱色に染まっており、高熱でうなされじゅうぶんに睡眠時間が採れていないのが解った。目の下には隈が色濃く出ていた。


 そんな満身創痍な国王だが、不審者のブラッドとアイナに対しても国王たる風格で接した。


「こんな時間に余輩に何用ぞ。緊急の用事か?」


 ブラッドは何を言えば良いのか解らなかった。


 こんな形式ばった所がブラッドは苦手だった。


 言葉に迷っていると、アイナが率先して動いた。


 右膝を突いて、首を垂れると先ほどまで見せた頼りない十七歳の少女とは思えない凛とした声で話した。


「イフマール・フォン・アイサット国王陛下、わたくしは東のファイント帝国第一王女、アイナ・ミル・ファイントです。この度は失礼な謁見をして申し訳ありません。緊急事態のため、強行策を採らせていただきました。用件を申しますと、ファイント帝国がアイサット王国に攻め込む日が近い。今、ファイント帝国は軍備増強路線を進み、富国強兵の理念の元、アイサット王国を陥落させアルデバラン大陸に覇を唱えようとしています」


「何だって! おい、聞いてねぇぞ!」


「ブラッドさん、隠していてすみません。二人を騙す形になりますが、こうでもしないとファイント帝国の情報を陛下に伝えるのは不可能だと考えた結果です」


 アイナの話を受けてイフマールは困ったように声をあげた。


「余輩の治世でそのような大混乱が起きるのは仕方がないと言えよう。余輩自身、老いとプラーナ減少で血液魔法は使えぬ。結果、疫病にかかり床に伏しておる。余輩の血族は『完全治癒』と呼ばれる希少な血統血液魔法が使える。だから国王たる立場を任されておる。余輩に最早その責務は無理じゃ」


「そう弱気にならないで下さい! ファイント帝国全員が同じ気持ちではありません! わたくしを筆頭にレジスタンスを結成しています! 陛下の助力があれば内部から攻めることが可能になるのです! 是非、お力添えをお願いします!」


 イフマールは数秒考えた後、一つの答えを提案した。


「余輩の後継者として既に次期王として決定しておる者がおる。まだまだ、思慮が足らず、修練不足で頭を悩ませていたところじゃ。次期王を余輩の代わりにファイント帝国レジスタンスの助力者代表に任命しておく。詳しい話しは明日にでも正式に訪問するでどうじゃ?」


「身に余る光栄です! では、今宵は下がりましょう。お身体を大切にして下さい――」


「そこの青年、お前に次期王の護衛を頼めんか?」


 ブラッドはいきなり自身に白羽の矢が立ったことに驚き、「何でだよ!」と返してしまった。


 イフマールは病で苦しいにも関わらず柔和な笑顔を作っては優しく話した。


「お主たちがこの場にいるならあの狂犬を退けた結果を余輩でも簡単に想像できる。そこまでの力を持つ者が護衛に着いてくれたら余輩の辛労は軽くなる。報酬はじゅうぶんに用意しよう。どうじゃ?」


 ブラッドはイフマールに背を向けると皮肉交じりに話した。


「全く、無能な国王の治める国の民としては面倒事に首を突っ込みたくないんだがな。報酬があるなら俺たちの出番でもある。その代わり、契約書を明日、書いてもらうからな! 絶対にじゅうぶんな報酬をもらう! それが条件だ!」


 ブラッドは他人に高く見られるのに慣れていなかった。


 照れ隠しに強く言い放つと寝室から出て行った。


 残されたアイナも寝室を出ようとした時、イフマールに呼び止められた。


「王女よ。ファイント帝国が余輩の治める国に攻め込もうとしているなら父親のイーリスは?」


「……、誰かに暗殺されました。今では兄のホライゾンが皇帝を務めています。その結果が軍備増強路線です」


「子が親を殺す……。考えたくもない世界よな」


「私が兄を止める番です。陛下の心を継ぐ者は必ず現れます。まずはご自愛を――」


 イフマールは弱々しく首肯すると、瞼をそっと閉じた。


 アイナはそんな疫病により末期にあるイフマールを見てやりきれない気持ちになりイフマールの寝室を出た。

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