第14話 出会い(2)
残されたブラッドたちと小柄な子は改めて平和な時を過ごせるようになった。
ヴァンがブラッドの身体を気にして話しかけた。
「ブー君! 無茶をしたら駄目だよ! その身体は本当に不死身みたいだけど、痛みはあるでしょう? 相当痛かったのと違う?」
ヴァンの言葉を受けてブラッドは首の骨を鳴らしながら陽気に答えた。
「良い目覚ましにはなったな。あの程度の痛み、クソジジイとの訓練で毎日と言っていい程、受ける傷だ。それよりも――」
ブラッドは小柄な子に対して視線を向けた上で話した。
「お前、何者だ? 助けた代わりに教えてくれてもいいだろう?」
小柄な子はフードを下ろして姿を見せた。
ブラッドは小柄な子の姿を見て過去と現在が混合してしまった。
「セティン……、お前、セティンか?」
小柄な子は女の子だった。金髪碧眼で瞳には強い意志が宿っていた。髪型は黒髪ショートヘアで元気の良さそうな印象を受けた。ロープでスタイルこそ解らないが相応に育ちが良いことは察することが出来た。ブラッドが何よりも驚いたのがその女子が亡くした妹、セティンに非常に似ていることだった。髪型と瞳の色は違うが、セティンの生き写しと取れる美少女だった。「セティンが十七歳に成長したらこうなるだろう」と考えられる姿をしていた。
「セティン? 私の名前はアイナです。助けていただきありがとうございました。あなたがたが『お助け屋』を営むお二人、ブラッドさんとヴァンさんですね? 私が噂を聞いて依頼を張らせてもらいました。近くの民宿に寝泊まりしていたのですが、今日は運悪くアイサット王国騎士団に捕まりあのような失態を晒すことになりました」
凛とした物言いのアイナに対してヴァンは興味深そうに話した。
「ブー君、凄い美人さんだよ! こんな娘を『絶世の美女』って評するんだろうなぁ! って話を聞いている? ブー君、ブー君ってば!」
「……、あぁ」
心ここにあらずのブラッドに対してヴァンが「仕方ないなぁ」と後頭部を掻くと話を切り出した。
「初めまして! 僕たちがお助け屋の二人さ。僕はヴァン・ウィズ・フォレスター! 気軽にヴァンって呼んでね。それで、こっちの固まっているのがブー君ことブラッド・エル・ブロード。僕はブー君って呼んでいるんだ。見た目少し怖いかもしれないけど、本当は優しい人情家だから怖がる必要はないよ。ここで話すのもなんだし、喫茶店内に入ろうか!」
アイナは「そのほうが助かります」とヴァンの提案を肯定した。
ブラッドは頭の中を整理するのが精一杯だった。
いきなり目の前に大切にしていた妹の生き写しが姿を現わしたら、誰だって思考が固まる。
ヴァンを先頭にアイナを連れてブラッドは喫茶店「サニーデイ」の中に戻った。
〇
「理由は言えません。唯、私をアイサット国王の元に連れて行っていただけませんか?」
静かな店内でアイナがいきなり内容をぶちまけた。
内容が内容なだけに、ブラッドとヴァンは顔を見合わせて、「どうしたものか?」と考えた。
現状を何とか平常心を取り戻したブラッドがかいつまんで話した。
「アイサット国王は今、疫病の対応と国の政が多忙を極め本人が体調を崩して療養中だと聞く。アイサット国王の血筋には代々、魔を払う『血統血液魔法』が宿されている。その血液魔法を使って疫病から選ばれた貴族だけ治していたと聞く。本当は民まで治したいが国王の血族は非常に少なくプラーナが絶対的に足らないのが現状だ。そんな可哀想な国王に面会してどうするつもりだ?」
ブラッドの質門にアイナは頑なに「理由を今は言えません」と口を閉ざした。
ヴァンが訳ありのアイナに対して明るく話しかけた。
「人には色々と理由があるからね! 言えないことがあって当然だよ! ブー君もそんなに理由を追求したら駄目だよ! 僕たちでできることがあれば手伝えばいいよね!」
アイナは明るいヴァンに「そう言っていただけると助かります」と一礼した。
ブラッドは冷静に話を聞きながら、アイナが何を隠しているのかを気になっていた。
だが、アイナが話そうとしないなら無理に聞き出すのは無粋というものだとブラッドは考えた。
「ヴァンがそういうのだ。俺に異論はない。それで今回の報酬は?」
ブラッドの真っ直ぐすぎる性格にヴァンが苦笑いを浮かべて「ごめんね」と話した。
アイナはブラッドの顔を見ながら申し訳なさそうに答えた。
「具体的な報酬は用意出来ていないのです。ゼニは宿屋のお金でほとんど使ってしまいました。残ったのはこの百ゼニだけなのです。事が成したら必ず相応の報酬を用意すると約束します! だから、ここは無償で受けていただけませんか!」
アイナは必死な声で訴えた。
ヴァンは「無償はねぇ……」と言葉を濁してブラッドを見た。
ブラッドは少し考えた後、アイナに声をかけた。
「お前、百ゼニを持っているんだろう? それを貸しな」
「こんな子供のお小遣いみたいなお金をどうするつもりですか?」
ブラッドが口にした言葉に驚いたアイナはポケットから革製の財布を取り出すと百ゼニ硬貨を取り出してブラッドに渡した。
「毎度あり。これで契約は成立した。お前を必ずアイサット国王の前まで連れて行ってやる。ヴァン、文句はないよな?」
「ブー君はいつもいつも……。文句を言っても意見を変えない石頭なのは良く知っているよ。よし! こうなれば、アイナさんをアイサット国王の前に絶対に連れて行くからね! 安心して!」
ヴァンは右腕で立派な力こぶを作ると叩いて元気に話した。
二人の力強い話にアイナは心からお礼を述べた。
この後、三人で話し合った結果、国王も気を許す夜に王宮に侵入しようと話しは纏まった。
ブラッドたちはアイナに夜まで時間があるのでしたい事はないか確認をした。
アイナは「街を見て回りたいです」とお願いしてきたので三人で王都ジュノを散策することにした。
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