第13話 出会い
ブラッドとヴァンが喫茶店「サニーデイ」に到着した時には日は高く昇っていた。
時刻は九時になろうとしていた。
ブラッドとヴァンは遅めの朝食を喫茶店「サニーデイ」で注文すると依頼主のアイナの到着を待っていた。
ブラッドたちが注文した朝食は千日鳥の目玉焼きと神牛のミルク付きおトーストセットだった。新鮮な野菜がたっぷり付いており、トーストの上に乗せて食べると歯応え抜群で最高の朝食となる王都ジュノの定番料理だった。爆裂オニオンドレッシングの隠し味を忘れてはいけない。
ブラッドが野菜サンドを作って頬張りながら喫茶店の外を眺めた。
王都ジュノは今日も平穏そうで、商人たちが多くの品を持ち込んでは露店で売っていた。また、そんな商品を子連れの主婦が見て回ったりして賑やかな大通りの喧噪がブラッドは大好きだった。
「ブー君、また大通りを見てにやけている! そんなに大通りを見て楽しいかな?」
「賑やかなのはいいもんだ。俺も昔は大通りで働いていたからな。少し懐かしいって思いも入っているんだ。いいもんだぜ、懐かしいと思える場所があるってもんはよ」
ヴァンは口の周りを野菜まみれにしながらブラッドの話を聞いては「そんなもんなのかな?」と呟いた。
ブラッドは朝食を食べ終えると、依頼主の登場を待った。
ヴァンとの話では十時にこの喫茶店に姿を見せると聞いていた。
だが、十時になっても依頼主が姿を現すような様子はなかった。
ブラッドはヴァンの頭を軽く小突いて話した。
「ヴァン、お前ガセネタを掴まされたな! 本当にアイナちゃんは姿を見せるのかよ!」
「見せる! ……、はずなんだけどなぁ……。自信がなくなってきたよ……」
ヴァンがしょんぼりと肩をおとしていると大通りが騒がしくなっていた。
ブラッドたちが異変に気付いて喫茶店から外を見ると、屈強な騎士が一人の紺色ロープを被った小柄な子を掴んでは揉めていた。
屈強な戦士は大剣を背中に担いでいた。漆黒の甲冑に身を包んでおり、相当の手練れだとブラッドたちは一目で解った。
肩を掴まれて困っていた子は小柄で性別はフードを被っていたので解らなかった。だが、必死に訴えていた。
「放して下さい! 私にはいくべき場所があるのです!」
「貴様、この地の者ではないな。このアイサット王国の者であれば首に血液型のナンバープレートをかけている筈だ。見せろ!」
「見せられません! 許して下さい! 私には大切な使命があります! ここまで来て……」
小柄な子は屈強な戦士に必死に抵抗していた。
だが、このままだと屈強な戦士の思うがままだった。
そこにブラッドとヴァンが割って入った。
「王国騎士様よ、その子は俺の妹だ。文句があるなら俺が聞くぜ。弱い者にだけ強く出るのがアイサット王国騎士団のやりかたなら俺が徹底的に根性を叩き直してやる」
「ブー君の言いかたは酷いけど、その子は嫌がっているよ! 無理矢理従わせるなんて絶対に間違っている! 僕たちはそんな行動しか採れない騎士団なら従う価値はないと思う!」
ブラッドとヴァンの言葉に屈強な戦士が小柄な子から二人に視線を移した。
「ほう……。ゴロツキがこの王国一の剣使い、『八双のジュウゴ』様にたてつくか。この大剣を見て恐れぬ心は褒めてやろう。だが、この俺様に指図することはアイサット王国騎士団を敵に回すことだ。抵抗すれば万からの兵が貴様を殺しに来るぞ!」
「そんな言いかたは卑怯だよ!」とヴァンがジュウゴに叫んだ。
だが、ブラッドは違った。
前に出るとジュウゴに対して挑戦的な言葉を吐いた。
「別に騎士団が怖くて逃げる気はない。お前のその大剣を見ても全く怖くもないぜ。俺は抵抗しない。殺せるものなら殺してみな。出来れば……の話だがな。王国一のジュウゴちゃんよ」
ブラッドの物言いにジュウゴは眉間にしわを寄せては大剣を抜き放った。
「貴様! この俺様を侮辱したな! その罪は万死に値する! この場で叩き斬ってくれる!」
ジュウゴは縦の斬撃を容赦なくブラッドに振り下ろした。
ブラッドは抵抗しなかった。
右肩から腰にかけて大剣の重量を活かした強烈な一撃でブラッドの身体は激しく傷付けられた。
普通の人間なら即死だ。
だが、ブラッドは違った。
過去、不死鳥の血を飲み、血液魔法に不適合だったため永遠を生きる呪いをかけられたはぐれ者だ。ブラッドは意地悪そうに口を半月にニヤリと歪めると左腕で大剣の刃を持つと自力で持ち上げ始めた。
「良い太刀筋だ。普通の人間を斬るにしたら優秀だと思うぜ。だが、俺を殺そうとしたら、全然足らない。もしかしたらと、考えたがやはり無理か……」
ブラッドは左手一本で大剣を自分の身体から持ち上げるとジュウゴに力強く押し返した。
ブラッドの重傷を負った傷口が燃え上がると元の形に復元された。
その光景を見せた後、ブラッドは敵意を込めた圧迫をジュウゴに「これでもか」というぐらいかけた。
「こんな俺と王国一の剣技を持つお前。どちらが先に死ぬか殺し合いをするか? 俺は構わないぜ。その代わり貴様が死のうが後悔だけはするなよ――」
ブラッドの三白眼を見てジュウゴは恐怖に駆られた。
初めて目の前に姿を現した異形の存在。自分の力ではどうしようもない圧倒的な力の差を思い知ったジュウゴは「ば、化け物だ!」と言い残して尻尾を巻いて逃げて行った。
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