第1章 困ったお助け屋2人

第11話 五年後――

※聖歴110年、7月10日、秘境アナルタシア、サハギン族領内、午前7時――。


 ブラッドが取り返しのつかない過ちを犯してから五年の月日が流れた――。


 ブラッドはサハギン領内で早朝のタオ老師との訓練を五年間続けていた。


 訓練場所は二人が初めて「遊び」をした樹々の間にできた広場だった。


 ブラッドは身長が一八〇フィットまで伸びて筋肉質な身体に成長していた。スラリとした身体に必要な筋肉が無駄なく着いていたので筋肉ダルマではなかった。だが、ブラッドの相棒からは「筋肉馬鹿」と評されていた。


 ブラッドは白色Tシャツに黒色のズボン、白色スニーカーと動き易さを重視した姿でタオ老師と訓練をしていた。


 二人の死を超越した者の訓練は最早、人間にとっては「苦痛」の練習でしかなかった。だが、五年間絶え間なく自分の身体に負荷をかけ続行けたブラッドの身体は拷問の苦痛を受けても耐えられる屈強な肉体と精神力を手に入れていた。


「隙ありじゃ!」


 タオ老師が杖に血液魔術を展開して殴りかかって来た。


 タオ老師はAB型。ブラッドと同じ血液型をしていた。だから、自然と伝える血液魔法も同じ系統の血液魔法を教えることになった。


 タオ老師が常に持っている木製の杖は血液魔法で具現化した古代魔法兵器だった。


 AB型が使える血液魔法で古代魔法に分類されるのは「エクラ人」たちが使用していた古代の血液魔法を指していた。タオ老師の持つ木製の杖もその血液魔法の中の一つだった。


 古代魔法を体得するには、エクラ人が残した機械文明の破片を喰らったAB型魔物を退治してその血を飲むしか現代では手段がなかった。


 結果、AB型は古代魔法を体得出来る特別な体質だが、非常に危険が伴う上、古代魔法を体得しずらい血液型として有名だった。人類の間では「呪われた血液型」と忌み嫌う人もいた。


 そんな古代魔法を発現させたタオ老師の強烈な一撃がブラッドに迫る。


 ブラッドは受けると確実に腕を叩き折られるのを知っていた。


 タオ老師の杖には特殊な力が宿っていた。力は「重力操作」だ。杖の重さを羽根ほど軽くすることから超大型魔物の体重以上に重くするまで可能としていた。


 そんなとんでもない杖の一撃を真正面から受けるのは良策とは言えない。


 ブラッドは杖が振り下ろされる場所を瞬間的に見切って、素早くバク転で回避した。


 ブラッドが立っていた場所に杖が轟音と同時に叩きつけられる。


 大地に網目状の切れ目が入り、凄まじい振動がブラッドの腹の底まで響いた。


「この化け物ジジイめ!」


「貴様も同類じゃ!」


 ブラッドは強烈な一撃を叩きこみ隙が出来たタオ老師に対して華麗な体捌きで格闘術を連続で叩きこんだ。


 掌底を使っての右フックを叩きこむだけで終わらない。流れるような身体の動きを利用しての左ハイキック、右回し蹴り、そこからの双掌打とブラッドの体術は芸術品と言える完成度を見せていた。


 その全ての攻撃を見切り、杖で防ぐタオ老師も相応に達人だった。


 身体が小柄なタオ老師のほうが素早さはブラッドよりも上を行っていた。


 双掌打で流れが止まったところで跳躍しての、杖での横薙ぎの一撃をタオ老師は躊躇なく放った。


 その杖には凄まじい重力操作の血液魔法が込められていた。


 ブラッドは身を当たる寸前の所で屈んでかわすとタオ老師に文句を言いつつも反撃に出た。


「『訓練』とか言いながら本気で殺しにかかって来るな! クソジジイ!」


「弱っちいブー君が悪いんじゃ! 儂はまだまだ朝飯前の運動にもなっとらんぞ!」


 ブラッドは立ち上がる勢いを乗せてのアッパーカットを放った。


 だが、当然、そんな解り切った攻撃がタオ老師に通用するはずがないことをブラッド自身が一番知っていた。


 アッパーカットは唯の誘い。


 捨てた攻撃だった。


 ブラッドの本命は次手にあった。


 タオ老師はバク転をして宙で華麗に三回転をして着地すると、右親指を噛み切って流れ出た鮮血を左腕に浮き出ていた紋様に擦りつけた。

「ブー君を今日も吹き飛ばすんじゃ! 上半身を失くしてしまえ!」


 タオ老師が左手に鮮血を擦りつけて放とうとしているのは上級古代魔術だった。


 タオ老師は二百五歳とアルデバラン大陸に住む人間の三倍以上長生きしていた。


 その人生で多くの古代魔法を体得していた。


 中でも上級古代魔法は「強力過ぎる」とアイサット王国では使用を禁じられていた。


 不用心に使うところを発見されれば、牢獄行き。その後は危険因子として断頭台に乗せられる。


 だから、二人は魔法を放ち放題のアナルタシアで訓練をしていた。


 タオ老師が左腕を前に突き出した。


 左腕が暁時の太陽の如く真っ赤に染まったと思うと、五つの巨大な歯車が異空間から姿を現した。歯車は高速で回転しながら、タオ老師の指示をまっていた。


「喰らうんじゃ! 五頭(ファイブ)龍(・ヘッズ)の(・)顎(ギア)!」


 タオ老師が古代魔法の名前を叫んだ瞬間、五つの歯車は高速回転しながらブラッドめがけて飛んだ。一直線の軌道を描かず、不規則な軌道を描きながらブラッドに高速で接近する五つの歯車に対してブラッドも対抗した。


 右手親指を噛み切ると流れ出した鮮血を左腕に浮き上がった紋様に擦りつけた。


 ブラッドの左腕がタオ老師と同じように昼間の陽の如く光を発するとブラッドは毒を吐いた。


「いつもいつも、ご丁寧に俺の身体を吹き飛ばす強力な上級古代魔法ばかり使いやがって! 今日はクソジジイが上半身を失くしてしまえ!」


 ブラッドが光り輝く左腕と右腕を身体の前で交差させた。


 すると空中に異空間が発生して、拳銃のグリップが二丁姿を見せた。


 ブラッドは二丁の拳銃を引き抜くと不規則な軌道を描く歯車に対して、銃口を向けた。

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