第9話 プロローグ(9) 不死鳥

 ブラッドはタオ老師と別れて三日三晩寝ずに歩を西南西へと進めた。


 幾多もの山を越え、河を渡り、敵対種族に追われながらも命からがら、不死鳥が眠ると言われている洞窟をブラッドは血が滲むような強行軍の果てに辿り着いた。

ブラッドは洞窟に入る前に周囲を確認した。


 敵対種族は存在しない。


 時刻は月の高さから二十時頃だと推測が着いた。


 ブラッドはこの地に着くまでに数多の道を通り落ちていた装備品で武装を整えていた。きっと先人が残した装備であるとブラッドは考えていた。背中には両手剣のグレート・ソードに鋼の鎧を解体して要所に軽装として装着したライト・アーマー。ゼニも多少なりに拾えたので、帰ったらセティンにご飯を振る舞えるぐらい懐は温かくなっていた。


 寝ていないので体力が今にも底を突きそうだった。体力とプラーナは密接な関係にある。だから血液魔法は使えなかった。使うと一瞬でプラーナ切れて意識が吹き飛ぶ。


 そんなギリギリの状態でブラッドは不死鳥を狩ろうと考えていた。


「やるしか……、ない」


 ブラッドは洞窟の中に意を決してゆっくり足を踏み入れた。


 今晩は熱帯夜で汗が滲む暑さだった。だが、洞窟の中は、更に暑い。まるで昼間の気温のような錯覚を覚えた。


 洞窟の奥に進むに連れて、暑さはドンドン上がっていった。


 ブラッドが洞窟の開けた場所に出たと思うと、中はマグマが流れる危険な場所だった。


 マグマが暴れ回る鉱石で構成された大地の中心部分に主のように眠る、一羽の煌

びやかな鳥がいた。嘴(くちばし)は鋭利で獲物を啄む為に尖っていた。体毛は金色色でマグマの光を受けて夜街の光の如く光って見えた。尾は長く赤色と金色色の両方の綺麗なコントラストで構成されていた。


 ブラッドは一目見て煌びやかな鳥が不死鳥だと確信した。


 不死鳥の全長は三フィッツ(一メートル=一フィッツ以下略)あり巨鳥だった。


 ブラッドは眠っている不死鳥を起こさないようにゆっくり近づいた。


 背中に背負ったグレート・ソードを抜き放って、その太く、屈強な首めがけて全力の一振りを振り下ろした。


 ブラッドの腰を降ろした渾身の一撃が見事に決まって不死鳥の首が刎ね飛ばされた。


「やった……。やったぞ! 後は僕がこの血を自分の身体に宿せば良いんだ!」


 ブラッドは刎ね飛ばした首の根元から滴り落ちる鮮血を両手をお椀の形にして溜めると飲み干した。


 ブラッドはこれで不死鳥の「蘇生」魔法が使えるようになったと考えた。


 だが、ブラッドの頭に大人で凛とした美しい女性の声が響いた。


『わたしの血を欲する罪深き薄汚れた人間よ。なぜ、自然の摂理から脱しようと考える。愚か者め』


 ブラッドは激しい頭痛に襲われたと思うと、気分が悪くなり、胃に溜まった物を全て吐き出してしまった。


 そのまま、膝から崩れ落ちると、身体中の血が自分の物ではなくなった感覚に襲われた。


 心臓が激しく鼓動し動脈を流れる血液の流れが加速していくのが解った。


 熱い。


 唯、身体中が熱かった。


 ブラッドが苦悶に耐え兼ねて絶叫すると、全身の毛穴から血が噴き出した。


 ブラッドは意識が遠くなる中、不死鳥が復活し、ブラッドを見下ろす姿を確かに見た。


 首を完全に刎ねたはずだ。


 だが、不死鳥は名が示す通り、不死身だった。


 首を刎ねた程度では死ななかった。


 力無く倒れたブラッドの頭の中に大人の女性の声が最後に響いた。


『強欲な少年には相応の報いを――。サヨウナラ』

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