第4話 プロローグ(4) 接敵

 ブラッドは秘境アナルタシアを甘く見ていた。

 

 一週間で帰って来られるのは何もトラブルがなく、安全に過ごせたら――、の話だった。


 ブラッドは今、目の前に立ち塞がる外敵と向き合っていた。


 外敵は敵意を剥き出しに十二歳の子供に対しても容赦なく鋭く睨みつけていた。身体の表面は硬く水色の鱗で覆われていた。黄色く三白眼の目にはブラッドをどう仕留めてやろうかと考える悪意しか浮かんでいなかった。身長は二百フィット(一フィット=一センチメートル以下略)あり、ブラッドの身長一四〇フィットからしたら物凄く大柄に見えた。手には二百五十フィットの銛が持たれており、大型武具を扱う知能があるのが解った。


 このアナルタシア東側を縄張りとする魔物、サハギン族だ。その中でも屈強な戦士サハギン・ロードが立ち塞がっていた。


 サハギン・ロードはブラッドと接敵して即座に奇声を発した。


 サハギン・ロードの奇声を聞いたサハギン族たちが青々しく自由に手足を伸ばした森林の中から軽快に姿を現すとブラッドを「今晩の宴の餌」と認識して大はしゃぎを始めた。


 ブラッドは腰に備えた短剣を引き抜くと、ゆっくり回りを見渡した。


 ブラッドの周りを取り囲んだサハギン族たちは総勢で六体。


 話し合いをして「戦いを止めよう」と提案しても、聞き入れてくれる寛大な心を持っていない人間とは敵対関係にある種族だった。


 ブラッドは歳若くして戦闘技能に長けていた。セティンを守るためにジュノで忙しく働く合間をぬって自己鍛錬を行っていた。明確な師はいなかったが王都の人、皆が師と言えるほど大切にブラッドを見ては鍛え上げてくれた。


 そのお陰もあり、ブラッドは十二歳にして同年代の子と比べて頭一つ抜け出た非凡な戦闘技術を身に付けていた。


 ブラッドは説得が無理なサハギン族との接敵でも冷静だった。


 周囲を見回し、敵と自己の戦力差を頭の中で整理した。


『サハギン・ロードが二体、サハギン・ウィザードが四体。魔法合戦になれば僕が圧倒的に不利だ。ならば、身のこなしで翻弄する!』


 若さが手伝ってブラッドの行動に戸惑いはなかった。


 サハギン族の意表を突く俊敏さで動きながら近接格闘能力が低いサハギン・ウィザード四体をどうにかしようとブラッドは考えていた。


 このアルデバラン大陸では血液を媒体に魔法が宿されていた。それはアルデバラン大陸に住む全ての生命に共通する法則(ルール)だった。


 中でも人類が秘境アナルタシアを切り開いて領土を持つまでに発展を可能にしたのは、他種族の血液を体内に取り込んで、自らの魔法として使役する血液(ブラッド)魔法(・イン・)取得(ブラッド)法則(・ルール)を発見したからだ。


 血液魔法取得法則はまず、術者と同じ血液型の血を体内に取り込む。すると、体内を流れる生命の源「プラーナ」と血が共鳴する。人間はプラーナと共鳴した血に宿っていた魔法を遺伝子レベルで読み取り術者の血液に記憶させることが出来た。この一連の流れを血液魔法取得法則と称していた。森羅万象の中でプラーナと血を共鳴させられる種は人類だけだった。


 血液魔法取得法則の基本となる血液型はA型、B型、O型、AB型の四種類に大きく分類されていた。


 人類の大多数を占めるA型は魔法を多く体得できる血液型だった。日常生活でも血液魔法の豊富さから多くの場所で活躍していた。戦闘では多くの血液魔法を扱えるA型は様々な職業に合う強力な存在だった。


 B型は体得できる魔法が補助魔法に精通していた。補助魔法も大きく分けて「強化魔法」と「弱体化魔法」に分けられた。この二つは強力な敵や部隊強化をする際、非常に効果が高く、B型の存在は縁の下の力持ちと称される場合が多かった。日常生活でもB型は影で支えるありがたい存在としてA型と一緒に生活基盤を支えていた。


 O型は回復魔法を多く体得できるのが特徴だった。だから、戦場では「O型の数が戦局を左右する」と言われていた。日常生活では医師や獣医として病と闘うのはO型が多いのは回復魔法が柄えるからだった。


 AB型は特殊な血液型だった。古より伝わる人類が現れる前にアルデバラン大陸を超高度機械文明で支配していたエクラ人が使っていた秘術が体得できる特異体質といわれていた。余りに変わった体質のため現代でも謎が多い血液型だった。日常生活では研究者や考古学者が多くAB型をしていた。


 このアルデバラン大陸の血液型総人口の割合はA型が四割、B型が三割、O型が二割、AB型が一割と論文で発表されていた。


 ブラッドの血液型はAB型だった。


 だからといってブラッドが強力な秘術を使えるかといえば違った。ブラッドが使える血液魔法は下級血液魔法「炎の球」だけだった。


「炎の球」以外の魔法を体得するには血液型判別用目薬「ミステーク」をさして自分と同じ血液型の魔物を狩るのが一般的な体得方法だった。


 魔物にも人間の血液型分類法則が当てはまり、人間と同じ真っ赤な血が流れていた。

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