第3話 プロローグ(3) 現実
ブラッドは土砂降りの雨の中、洞窟の中で右手に汎用血液魔法「炎の球」を灯しながら、地図を確認していた。
この世界、平面大陸アルデバランは人間が支配する土地アイサット王国が大陸東側に位置していた。そのアイサット王国の首都ジュノから西側に進路を採れば、魔物たちが未だに支配する秘境アナルタシアが広大な土地を占めていた。
また人間の支配する土地だけでも問題が発生していた。
アイサット王国の更に東側にはファイント帝国が支配する領地があり、アイサット王国と国境を境に小競り合いが長年続いていた。
つまり、平和そうに見えるアイサット王国は西から秘境アナルタシアと領土を接しているため、魔物たちからの侵略に対する人員を整えると同時に、東からファイント帝国からの敵対行動に対して、自国を防衛する必要があった。
その上で五年間も疫病がアルデバラン大陸を襲うと国力は疲弊するいっぽうだった。
そんな情勢下にあるにもかかわらず、ブラッドはセティンの為だけに、秘境アナルタシアに一人足を踏み込んでいた。
ブラッドはかつて貿易港の運搬作業を稼ぎ口としていた時があった。その時、貿易を生業とする商人からある魔物の噂話を聞いていた。
その魔物の名前は「不死鳥(フェニックス)」。存在自体が伝説の魔物だった。だが、その魔物の血には万物の法則を覆す「蘇生」の魔法が秘められているとブラッドは商人から話を聞いた。
最初は「そんな話、嘘に決まっている」と信じもしなかったブラッドだが、今は信じる以外の考えはなかった。
不死鳥の血があれば、死んでしまった者を生き返らせる万物の法則を無視した偉大な魔法を得ることが出来る。
その魔法があれば、セティンが逝ってしまおうとも、蘇生させることが可能だとブラッドは考えていた。
商人の話からすれば、不死鳥は秘境アナルタシアの最深部で静かに羽を休めていると聞いた。
「不死鳥に出会ったことがある」とその時、数少ない貿易商人たちが口を揃えて話をしていた。
「目撃者がいたなら、不死鳥は必ずいる」とブラッドは確信して洞窟の中で秘境アナルタシアの地図に筆でマークをしていた。
秘境アナルタシアは人間の方向感覚を狂わせる霧によって全貌が隠されていた。
だから、どんな偉大な冒険家でも、自分の方向感覚をアナルタシアでは頼りにしない。地図の上でマークしていくものだと話で聞いていてブラッドだからこそ用意周到に地図を持ち出しては筆でマークを書き込んで、自分の位置を確認していた。
今、ブラッドがいるのはアナルタシア入口の洞窟内だ。
この場所から不死鳥が住むと言われる、最深部まで向かうには正確に西側に進路を採る必要があった。ブラッドの計算で三日は不眠不休で歩く必要な距離だと考えた。
最深部まで到達して即座に不死鳥を狩る。
その後に、セティンの待つ家まで帰るのに合わせて一週間はかかるとみて間違いなさそうだった。
「やるしかない! 僕がセティンを救うんだ!」
土砂降りの豪雨の中、地図をポシェットの中にしまったブラッドは西側に進路を採ると全速力で駆け出した。
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