第2話 プロローグ(2) 現実
超高額な血液魔法を買うことが出来ず、ブラッドは収穫なしで力なく自身の家へと足を向けた。
ブラッドの家は王都ジュノから離れた森の中にあった。
木製の家で両親が生きていた時に父親が手塩に掛けて作ったお手製で自慢の家だった。
「ただいま……」
元気なく、家に帰ったブラッドは部屋の中を確認した。入口から入ってすぐ左手に大型木製テーブルが一台あり、椅子が二脚ずつ計四脚向かい合って並べてあった。テーブルのある場所はキッチンで近くの河から引いた水を家庭用水として使用していた。火は血液魔法で体得した汎用魔法「炎(フレイム)の(・)球(ボール)」の火力を調整して木材に火を点火して使っていた。
アイサット王国は四季のある国だ。今の季節は夏。最高気温は三十五度に達し、何もしていなくても汗がにじみ出る暑さだ。ブラッドは風通しの良い場所の窓を押し開けると支え木で窓を支えた。
窓から吹き込む風に雨の臭いを嗅ぎ取ることが出来た。ブラッドは「近い内に雨が降る」と感じていた。
キッチン兼ダイニングの更に西側奥が寝室、北側がリビングになっていた。
ブラッドはセティンの様子を見に奥の寝室を覗いた。
セティンは薄手のタオルを額に乗せて、苦しそうにベッドの上で薄手のピンクの掛布団をかけて寝ていた。身体は赤みを帯びており、「相当苦しいんだな」というのが遠目でも見て取れた。
セティンの頬は真っ赤に染まっており、呼吸は荒く、疫病が進行しているのがうかがえた。
ブラッドはセティンと話がしたかった。
だが、今のセティンは話をするのもままならない状態だと見た目から判断してブラッドは遠慮して寝室から立ち去ろうとした。
「お兄ちゃん……。そこに、いるんでしょう?」
セティンの意外な言葉を受けて、ブラッドはその場に立ち止まった。
「セティン、お前は病気なんだ。大人しく寝ていろ。後のことはお兄ちゃんに任せていれば大丈夫だ」
「でも……、お兄ちゃんはいつも私の責任まで背負ってくれる。私がいないほうがお兄ちゃんは楽になると思うの」
「セティン! そんな自分をお荷物扱いするような話をしては駄目だ! 僕たちは二人だけの家族なんだぞ! お前がいないと、お兄ちゃんはどうしていいのか解らなくなる!」
「ごめんね……。でも、お兄ちゃんには私の病気を治せないから、一層のこと山の中に捨ててくれれば楽かなって考えたの――」
ブラッドは七歳のセティンにそこまで辛い言葉を吐かせるまで思い詰めさせたと考えるだけで、自分自身が情けなくて消えてしまいたかった。
ブラッドはセティンの考えを聞いてなるべく明るく、陽気に話した。
「馬鹿だなぁ。お兄ちゃんを信じていない証拠だぞ! お兄ちゃんはこれからセティンの病を治す血を魔物から手に入れてこようと考えていたところなんだ! お兄ちゃんがセティンを治したら、国中の人たちを片っ端から治して回ろう! そうしたら、晩御飯が少なくて悲しい思いをすることも、玩具がなくて友達と遊べないことも全部解決する!」
「お兄ちゃん、そんな危険なこと――、駄目だよ」
「駄目であるものか! 俺は決めたんだ! 絶対にお前を救って見せる! だから、少し、あと少しだけ頑張れるな?」
烈火の如く自身の行動を否定したセティンに対してブラッドは熱の籠った言葉を吐いた。
少しの沈黙の後、セティンの明るい声が聞こえた。
「待てる。私、お兄ちゃんが頑張るなら、私、いつまでも待てるよ。だから、心配しないで行って来て――」
セティンの明るい声を聞いて、ブラッドは自分の行動に間違いはないと判断した。
「よし、じゃあ、少しだけ行ってくる! セティン、必ず助けてやる! だから、待っているんだぞ!」
「解った」と優しい声で返したセティンに送り出されるように、ブラッドは装備を整えると木製の家を後にした。
天候は曇りから雨に変わった。
土砂降りの雨の中、ブラッドが向かった先は、魔物が住む秘境アナルタシアだった。
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