第69話『演舞集団・北大街』

銀河太平記・057


『演舞集団・北大街』 児玉元帥   






 先祖は神戸の華僑でしてな……



 孫大人は問わず語りをし始めた。


「従兄が残って貿易会社をやっておったのですが、息子を残して亡くなってしまったので、しばらく神戸に住んで面倒をみてやることになって、あなたたちと同様、地球に向かうところです」


「それは奇遇ですね(^口^)」


 調子を合わせておくが、見え透いた嘘だ。


 真っ当な商売なら、ラスベガスの船などには乗らない。私達同様、ウソで塗り固めた経歴と旅行目的だ。


 だいいち、孫大人の先祖が神戸の華僑だったなんて、聞いたこともない。


 孫の先祖は、満州馬賊だ。


 袁世凱のブレーンを振り出しに、国民党、中共時代には台湾に足場を置きながらも、深圳で財を成し、香港、上海、瀋陽に拠点を分散、どこがこけても、実質を失わないように立ちまわっていた。


 瀋陽が奉天と改称したのは孫大人の父親の功績だと言われている。名は体を表すで、その後満州が独立したのは、この改名が大きかったと言われている。


 北大街が奉天一の歓楽街になり、満州戦争直前まで発展を遂げられたのも、孫一族の力だ。


「神戸では、なにを扱っておられるんですか?」


「いろいろです、餃子の皮からパルス兵器まで、その時その時儲かりそうなものを薄く広く」


 コスモスの質問に大きく応える。


 この答えに嘘は無い。孫大人というのは、そう言う人だ。


 こだわったのは北大街の流行り廃りのことだけで、肝心の商売にこだわりは無い。


 一つの分野で程よく儲けると、さっさと違う分野に鞍替えして、人の恨みを買わないようにしている。


 もっとも、孫大人の『程よく』は、並みの貿易商の『大儲け』のスケールなんだがな。


「それで、今は、なにを手掛けておられるんですか?」


 水を向けると、孫大人は少年のように頬を赤らめた。


「演舞集団『北大街』です」


「プロモーションですか?」


「ハハハ、芸術の事は分かりませんが、良し悪しは分かります、これはというものに肩入れして……まあ、趣味のようなものなんですが、あ、ちょうど出番だ。わたしのイチオシです、観てやってください!」


 ステージは満州を思わせるような平原のホログラムを俯瞰している。


 徐々にカメラが下りてくると、二組の鉄路が見えてくる。


 アップになって来ると、上りと下りから列車が走って来る。


 アジア号だ。


 シュッシュッシュッシュッシュッシュッ……


 長距離ランナーの息遣いを思わせる音がし始め、列車が交差したところで最大になる。


 ポオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!


 二編成の列車が汽笛を鳴らしてすれ違う!


 満鉄の列車は編成が長い。


 二十秒ほどたっぷりと、アジア号の豪快さを堪能させてくれて、すれ違った瞬間、踊り子が現れた。


 踊り子は蹲っていて、遠のく列車の音に反比例して身を起こしていく。


 その姿は、蒸気機関車をモチーフにした黒い意匠で、要所要所に金筋や赤線が走っている。


 まるで、アジア号がすれ違うことで産み出した蒸気機関車の妖精のようだ。


 列車の遠のく音は、しだいにドラムのトレモロのように大きく忙しくなってくる。


 それに合わせて、踊り子は、ステップを踏み、旋回し、大地を寿ぐような笑顔を振りまきながら、フリの大きいダンスパフォーマンスに昇華していく。


「見事ですね……」


 お世辞でなく、コスモスが感嘆する。



 これは……見た事がある……



 いや、見た事があるどころではない。


 身体の奥の方からこみ上げてくるものがあって、体が踊り子と同じリズムを刻んでしまう。


 タン タタタン タン タタタン タタタタタン……タン タタタン タン タタタン タタタタタン……


 これは、このわたしのボディーがJQであったころの。


 いかん、よほど抑制しなければ、自分がステージに上がって踊り出しそうだぞ(;゚Д゚)!


 


※ この章の主な登場人物


大石 一 (おおいし いち)    扶桑第三高校二年、一をダッシュと呼ばれることが多い

穴山 彦 (あなやま ひこ)    扶桑第三高校二年、 扶桑政府若年寄穴山新右衛門の息子

緒方 未来(おがた みく)     扶桑第三高校二年、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた

平賀 照 (ひらが てる)     扶桑第三高校二年、 飛び級で高二になった十歳の天才少女

姉崎すみれ(あねざきすみれ)    扶桑第三高校の教師、四人の担任

扶桑 道隆             扶桑幕府将軍

本多 兵二(ほんだ へいじ)    将軍付小姓、彦と中学同窓

胡蝶                小姓頭

児玉元帥

森ノ宮親王

ヨイチ               児玉元帥の副官

マーク               ファルコンZ船長 他に乗員(コスモス バルス ミナホ ポチ)

アルルカン             太陽系一の賞金首


 ※ 事項


扶桑政府     火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる

カサギ      扶桑の辺境にあるアルルカンのアジトの一つ

グノーシス侵略  百年前に起こった正体不明の敵、グノーシスによる侵略

扶桑通信     修学旅行期間後、ヒコが始めたブログ通信

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る