第68話『孫大人』

銀河太平記・056


『孫大人』 児玉元帥   






 連合国人は自国の事をUSと呼ぶ。


 United States(連合国)のイニシャルだからなのだが、地球のアメリカ合衆国USAをフランクに言うとUSであるので、アメリカと呼んでいることと変わりない。


 USとは「我々」という意味でもある。


 実に親しみやすい名称でありながら、色濃く元宗主国のアメリカ的精神を残している。




 そのアメリカ的なものが、ラスベガスのクルーザーには満載だ。


 全長900メートルの船体には三つもシアターがあって、日替わりのショーを見せてくれる。


 さすがに、アクターやダンサーの大半はロボットだが、1/3ほどは人間で、連合国で一流のアクターやダンサーになるためには、このクルーザーで成功することが条件になっていると言われるほどだ。


 ちなみに、船の名前は『ドナルド・トランプ』だ。




 やっぱり、シアターって言うと、このくらいの規模ね




 言わずもがなの独り言をこぼしてテーブルに着く。


 このシアターは第二デッキの端っこで、規模的には三つのシアターの中で一番小さい。


 小さいが、カジノに直結していて、お楽しみにはちょうどいい。


 テーブルごとにレプリケーターが付いていて、好みのメニューが選べる。


 唐揚げとげその塩焼きに生ビールを並べてお目当てのショーを待つ。


「演舞集団『北大街』ってなんだろ?」


 コスモスがディスプレーを繰る。


「え、オフBじゃないの?」


 ドナルド・トランプのショーはオフB(オフブロードウェイ)が、一括請け負っているはずだ。


「特別企画だって、マス漢系? まさかね」


「北大街……」


 懐かしい名前だ、満州戦争が起こるまでは奉天一の歓楽街で息抜きによく訪れた。


 カルチェタラン……ふざけた名前だったが、面白い店だった。


 もちろん、カルチェラタンのもじりなんだろうが、ラタンをタランとしているところが良かった。


 カルチェ(文化)に足らん、あるいはカルチェたらん(文化でありたい)という意味でもあり、カルチェのタランチュラ(毒蜘蛛)にもひっかけている。


 オーナーはグランマ。食えない人だった。


 戦争勃発の直前まで店を開いて、最終便で日本に戻ろうとしたが、開戦と同時に漢明のアンチパルスミサイルで撃墜された。


 まあ、北大街には、大きな店やらライブハウスがひしめいていた。その生き残りが居ても不思議ではない。


 がらにも無く昔を思っていると、ウェイトレスが横に立った。


「五番テーブルのお客様からでございます」


 差し出されたカクテルはレプリケーターのものではなかった。


 五番テーブルに首を向けると、酒や肴が載ってはいるが人の姿が無い。


「フフ、美人姉妹だからかな」


「だったら大したものね、その人も、わたしたちも」


 視界を戻すと、もうウェイトレスの姿は無くて、ヒゲもじゃのオッサンがグラスを手に立っている


「シマイルカンパニーの設立をお祝いしたいのですが、よろしいでしょうか?」


 こいつは……0.5秒の間があって思い出した。




 ……孫大人。





※ この章の主な登場人物


大石 一 (おおいし いち)    扶桑第三高校二年、一をダッシュと呼ばれることが多い

穴山 彦 (あなやま ひこ)    扶桑第三高校二年、 扶桑政府若年寄穴山新右衛門の息子

緒方 未来(おがた みく)     扶桑第三高校二年、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた

平賀 照 (ひらが てる)     扶桑第三高校二年、 飛び級で高二になった十歳の天才少女

姉崎すみれ(あねざきすみれ)    扶桑第三高校の教師、四人の担任

扶桑 道隆             扶桑幕府将軍

本多 兵二(ほんだ へいじ)    将軍付小姓、彦と中学同窓

胡蝶                小姓頭

児玉元帥

森ノ宮親王

ヨイチ               児玉元帥の副官

マーク               ファルコンZ船長 他に乗員(コスモス バルス ミナホ ポチ)

アルルカン             太陽系一の賞金首


 ※ 事項


扶桑政府     火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる

カサギ      扶桑の辺境にあるアルルカンのアジトの一つ

グノーシス侵略  百年前に起こった正体不明の敵、グノーシスによる侵略

扶桑通信     修学旅行期間後、ヒコが始めたブログ通信


 



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