第2話:飛ぶムササビ亭

お前さん、この「飛ぶムササビ亭」は初めてかい?

何? この浮遊大陸に来たのも初めてだって?

それで、良くこの"第一階層"アンダーグラウンドにやって来たな。


何? 故郷に置いて来た恋人への贈り物を探しに?

何が入り用なのかい?


天然物の綿で編んだハンカチだって?

おいおい、天然物なんて、この浮遊大陸でもそんなに……


だから、ここに来た?


……なるほどな、アンタも闇に生きる"流れ者"ロマンティストって訳かい。


で、その贈り物にお前さんは幾ら出すんだぃ?

ほう?


なるほど、なるほど。

じゃあ、闇市の女王に掛け合ってやるよ。

そこのカウンターにでも座って待ってな。


……。


ああ、物のついでだ、"着香酒精"フレーバード・エチルなら一杯奢るぜ、何が良い?

ストロング・アイランド・アイスティ?

中々刺激の強い物を頼むね、お前さん。


……。


ついでだから、色々と教えておいてやるよ。


ここは浮遊大陸の最下層、"第一階層"アンダーグラウンド

クレイジーなクソッタレの暮らす場所さ。

この店、「飛ぶムササビ亭」のある暗闇坂の辺りは特にそうだがな。


ちなみに、"直結"ジャック・イン用の公衆回線ボックスは、右奥の部屋だ。

レンタル用の"電子計算機"デックも置いてある。

お前さんが使うには、かなり刺激の強いチューンかもしれんがな。


"埋込義体"サイバネの世話をしてくれる"闇医者"ドクは、坂を登って二軒先の地下だ。

"闇医者"ドクだからな、かなり刺激の強い"埋込義体"サイバネ"埋込"インプラントしてくれる上に、"総背番号制"システムに乗せないでいてくれる。

ハーフエルフの変わり者だがな、腕は確かだ。


武器が欲しいなら、"闇市"ブラック・マーケットがお勧めだ。

あそこなら、単分子ナイフからRPGまで手に入る。


"白魔術師"ウィザード"回復魔法"ヒーリングが必要なら、銀杏並木公園に住んでいる"魔女"ウィッチに力になってもらうと良い。


ん? 何処へ行く?

"電子薬物"エレドラを切らしたから買いに行くって?

もう夜だからな、やめておいた方が良いぜ。


この"第一階層"アンダーグラウンドはただでさえ、日が射し辛くて夜が長い。

ましてや、この暗闇坂ってのは、日の当たらない坂道だから暗闇坂なのさ。

暗闇坂の夜は"不死者"アンデッドどもの時間さ。

迂闊に外に出ると、"食死鬼"グールやら"下級吸血鬼"レッサー・ヴァンパイアやらの餌食だぜ。


ん? 他の階層はどんな所か?

そっか、お前さん、浮遊大陸は本当に初めてなんだな。


上に行くには、"中央線"センター・ラインって言う電車を使って行く。

"第二階層"ダウンタウンはまあ、何つーか、"埋込競走馬"サイバネ・ホース"培養麦酒"バイオ・ホッピーにしか興味無さそうな灰色のオッサンどもが暮らしているエリアさ。

"企業戦士"サラリマンどもが暮らす"巨大循環型施設"アーコロジーが立ち並ぶのが"第三階層"ヤマノテ

そして、政治の中心である議事堂があるのが"第四階層"キャッスルさ。


……おや、闇市の女王から連絡があったみたいだ。

それじゃあ、そろそろ奥のVIPルームに移って貰おうか。

くれぐれも変な気は起こさない様にな。

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