浮遊大陸、その土地の名は……

@yookis

第1話:おじいちゃんの話

おお、サイバースペースでも会うのは久々じゃの。

受験勉強が忙しいと聞いておるが、たまには息抜きも必要じゃぞ。


何? 夏休みの自由研究で、近代史について調べておるとな。

では、おじいちゃんがとっておきの話をしてあげような。


あれはそう……お前は人間社会の方で暮らして長いしの。

人間の暦の方が分かりやすいかの。

んー、人間の暦で言う令和時代の末頃の話じゃったな。


儂は、魔王様の国に住んでおった。

魔王様は我々魔族に実に良くしてくれる名君だったのじゃ。


我々の国では、当時疫病や飢饉が流行っておってな。

それに対して魔王様は、白魔術師隊を派遣しておった。

食料になる魔獣を狩るべく自ら山野を駆け回ったりしておったりもしたのじゃ。


疫病や飢饉が収まった後にも、国は混乱していてのう。

そこで、魔王様は大きな塔を建てる事に決めたのじゃ。


人間の概念で言う所の公共事業と言う奴じゃな。


塔の建設には、様々な種族が協力したものじゃ。

魔王様のカリスマ性と言うのは本当に素晴らしい物じゃった。

どれだけの物だったかと言うと、そうじゃの分かりやすい例としてはの。

あの仲の悪いエルフとドワーフが一緒に働く程だったのじゃよ。

信じられるかの?


その塔は魔力によって星々の世界へと転移する為の装置じゃった。

魔王様は子供の頃から、星々に興味があったそうでな。

星々の世界がどうなっているのかと言う事を検証したかった様なのじゃ。


そして、星々の世界に最初に送られたのは一匹の猫だったのじゃ。

ある魔術師の使い魔で、その眼と耳で星々の世界の事を調べ上げたと言う。


星々の世界は、魔族の世界とは違う所も多いが、決して危険な場所ではない。

それが、王立魔術院の研究結果だったのじゃよ。


そして、魔王節の日に……ああ、魔王節が通じないかの。

魔王様の誕生された日を我々は魔王節と呼んでいたのじゃ。


その日、2人の魔族の者が星々の世界に送られる事になった。

オークの男研究者の名はラント、エルフの女研究者の名はラヴィと言ったかの。


結論から言えば、我々魔族は星々の世界に到達する事は無かったんじゃよ。


儂も、魔術遠眼鏡で見ていたから、良く覚えているよ。

犬の時……ああ、人間の暦の19時じゃな。

その時を知らす鐘が鳴り終わった頃にのう。


突然塔が炎上して、ブラックホール様の虚数空間が発生したのじゃ。


原因は明らかにはなっていないらしいがの。

とある魔術技師の記録が残っているのだそうじゃ。


魔王節に間に合わせるべく突貫工事をしたのが原因だったと言う話での。

魔力防御壁が何度もの転移に耐えられる構造になっていなかったらしいのじゃ。

今ではそれが歴史上の定説となっているらしいのう。


ところで、メリサ族と言う言葉を聞いた事があるかの。

ああ、そうじゃ、この浮遊大陸の地上部、砂漠のオアシスに住む蜂人族じゃ。

実はな、メリサ族はあの事故のラントとラヴィの子孫と言う説があるのじゃよ。


あの時に人間の世界と魔族の世界は統合されて今の世界になったのじゃがな。

それは生半可な事では無かったのじゃ。

虚数空間は人間の世界と魔族の世界を無理矢理統合してしまったらしくてのう。

ラントとラヴィは丁度同じ座標に居た蜂と合成されてしまったと伝えられておる。


そうじゃ、この土地が浮遊大陸になったのも、その時じゃったらしい。

この土地はあの時、炎と煙を巻き上げて浮き上がった……らしい。

らしい、のじゃ。

そこまでは、儂は見ていなかったからのう。


メリサ族は、浮遊大陸の動力を、塔にあると信じておるらしくての。

確かに塔はこの浮遊大陸の中心じゃし、祖先の故郷と言えば故郷じゃしの。

メリサ族達がそう信じるのも分からん事は無い。


どうじゃ、ためになったかの。

それじゃあ、自由研究頑張るんじゃぞ。

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