第3話 邂逅 その三

バシャン! と音を立てて川面に落ちた小さな姿を捉えながら

若者は背負っていた荷物をかなぐり捨てて、対岸から迷わず

激流の中に飛び込んだ。

「若ぁー、左門様!」

 後に駆けつけた源平は、束の間逡巡すると、川の下流に向かって

走り出した。やがて流れが幾分緩やかになった岩場の多い場所に

差しかかると、身軽に岩を飛び移り、反対側の川岸にヒラリと

降り立った。

「左門様!こちらですぞー」

 源平は腰の下まで水に浸かりながら、川の中程で大きく腕を振って

上流から流されて来る白い人影に向かって大声を張り上げた。

 やがて、左門と呼ばれた白装束の若者が一人の少女を抱えながら

巧みな泳ぎで源平の元にたどり着いた。

「源平、乾いた布を。水はそれ程飲んでいないと思うが、落ちた衝撃

で気を失っておるようじゃ」

 左門は少女を横抱きにして岸に上がると、源平の用意した敷物に

そっと彼女を横たえ、その口元に頬を近づけ呼吸を確認する。

「やはり水を吐かせた方が良いのでは」

すかさず源平が少女の胸を強く押す。

「おい、お前の馬鹿力でこの子を殺めるなよ」

 不安げに左門が見守る中、少女の口から僅かながら

水が吐き出された。

「う、うぅ」微かに少女が呻き声を漏らし、二人の顔に

安堵が広がる。

「おい、しっかりしろ。儂の声が聞こえるか?」

左門が少女の頬を軽く叩き、呼びかける。

 やがて少女が薄く目蓋を開けてぼんやりとした眼差しを

左門に向ける。

「天狗さま‥‥」

「は?」

「天狗さまが‥梅を、お助けくださった‥‥」

 少女は微笑むと再び目蓋を閉じた。

「天狗様って‥‥」

 面食らった様子で少女を見つめる左門を見て、源平が

思わず吹き出した。

「お梅様ぁ」

「お梅様ぁ〜」

やがて上流の方から、子供達の少女を呼ぶ声が近づいて

来た。

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