第39話 新旧対決?

 グズる子供に対し冷徹な態度を取る子供。


 それを見て俺も楓夕ふゆも同じ反応になったと言うことは、やはり昔の自分を重ね合わせたのだろう。


 一つ違いがあるとすれば、二人共女の子であることだが。


「……あれ? でも二人共ランドセルを背負ってないな」

「一旦家に帰ったのではないか? とはいえ、見る限り大事ではないだろう」

「うーん――……いや、でも」

「え? あ、おい、安昼やすひる!」


 どうにもその様子を放っておけなかった俺は、楓夕が静止するのも聞かずに彼女達に近づくと声をかけた。


「大丈夫? 怪我とかしてないか?」

「え……あ、え、ええと」

「不審者」

「へっ?」

「今防犯ブザーを鳴らすのでかくごして下さい、このげすが」

「いや! ちょ、ちょっと待って!」


 身なりはどう見ても高校生なので大丈夫だと思っていたのだが、まさかの楓夕っぽい子の方が脅しをかけてくる。


 おかっぱヘアに容赦のない言動は実に楓夕に似ていると思っていたが、まさか無差別な所まで似ているとは――!


 このままでは不味いと止めに入ろうとしたが、それを遮るかのように今度は楓夕が割って入ってくる。


「ふ、楓夕」

「おい、善意と悪意の違いも分からんのか、この小娘が」

「あれ?」


 てっきり場を落ち着かせるのかと思いきや、まさかの小学生に対し敵意むき出しの楓夕さんがそこにはいた。


「あの、楓夕それは――」

「怪しい人について行かないという精神は素晴らしいが、制服を着ている時点でどう考えてもただの高校生だろう。それを不審者呼ばわりするなど、お嬢さんはもう少し分別をつけれるようになった方がいいかもしれないな」


「はぁ、よくしゃべる不審者ですね」


「んな――!」

「と言いますか、仮に学生だとしても不審者でない証明にはならないと思いますが、もっと広いしやで物事をとらえた方がいいと思いますよ、不審者さん」

「ぐ、ぐぬぬ……」


 よもや過去の楓夕(ではないが)に今の楓夕が押されようとは……。

 正直楓夕には申し訳ないが、笑いそうになってしまう。


 とはいえ致し方ない話ではある。何せ数ヶ月前までの楓夕なら違ったかもしれないが、今の彼女は毒針を持ち合わせていないのだから。


 現役の毒針使いに、良い意味で毒気が抜けた楓夕ではどうしようもない。


「……ん? あれでも待てよ」

「どうしましたか、捕まるかくごが出来たのですか」

「そうじゃなくて、この制服を知らないってことは君達近所じゃないのか?」


 もし近所の子供であれば、当然俺達の高校の制服ぐらい知っている筈。


 まあそれでも尚変装しているだけだと言われれば返す言葉もないが……ここまでの警戒心を近所の子供が持っているとは考え難い。


 のだが。


「なるほど……そうやって住所をきこうとする算段ですか」

「いや違うんだけど……ホントこの子昔の楓夕並だな」

「おい待て、流石の私もここまでではなかったぞ」

「いやでも昔――」


「ううう……!」


 と、そんな攻防を繰り広げてしまっていると、地面に座り込んでいたショートカットのボーイッシュな子が瞳を潤ませ始めてしまう。


 いかん。ただでさえ楓夕が一人いるだけでも怖いのに、二人もいたら幼い小学生には地獄のようなものではないか。


 故に俺は慌ててしゃがみ込むと「いや~怖いねえ」と言いながら少しでも雰囲気を中和させようとしていると、また楓夕っぽい子が口を開いた。


「どうでもいいですが、不審者でないと言うのであれば名前ぐらい名乗ったらどうですか? もちろん学生証付きで。それなら少しは信用します」


「フン、あるに決まっているだろう。ほらその目でよく見ろ、私は雨夜楓夕あまやふゆだ」

「俺は湯朝安昼ゆあさやすひるね」


「え?」

「え……?」


 言われるがまま俺達は自己紹介をしただけなのだが、何故か名前を聞いた途端二人が驚いた顔を見せる。


 一体どうしたのだろうと思っていると、彼女達はこう言うのだった。


「わたし……雨夜琴葉あまやことは

「あ……ぼ、ぼくは湯朝詩音ゆあさしおん


       ○


「今度話をするつもりだったんだけど、まさか先に会っちゃうなんてね~、やっぱり血は引き合うものなのかしら?」


 それから時間が進み、俺と楓夕は楓夕の実家にいた。

 いや正確には琴葉ちゃんと詩音ちゃんもいる状態なのだが――


「よく分かりませんが、取り敢えず話を聞きましょうか、母」


「いやねえ、実はあの子達違う県に住んでいた両家の子なのだけど、両親が離婚することになっちゃって」


「それは――ん? ということはあの子達姉妹なんですか?」

「いえ、姉弟よ?」

「んん??」

「詩音くんは女の子っぽく見えるけど男の子だから」

「え、あ、そうだったんですね……」


 確かにボーイッシュではあるものの、非常に可愛らしい顔だったので、てっきり女の子なのかと……。


「まあそれはいいのだけれど。それであの子達とお母さんがこっちに引っ越すことになったから、大変だろうしフォローしようって話になった訳」


「成程……色々あったんですねあの子達」

「そうねえ、子供に罪はないから可哀想よね」

「もう学校には通い始めているんですか?」

「いえ、確か週明けからだったと思うわよ」


「? では何故あの子達は二人で外に出ていたんだ?」

「楓夕、それに関しては私も訊こうと思って――」


「あなた達にそれを話すぎりはありません」


 すると聞き耳を立てていたのか、奥のテーブルで弟とシュークリームを食べていた琴葉ちゃんが澄ました表情でそんなこと言う。


 まあ、口にはべっとりとクリームがついていたが。


「小娘、いくらこの辺が安全な地域とはいえ、右も左も分からない場所でふらふらと歩いて言い訳ないだろう、何かあったらどうする」


「ですがじっさい何も起こっていませんので」

「そういう話をしているのではなくてだな――」


「あらあら! もう楓夕と琴葉ちゃんは仲良しさんなのね~!」


 どう足掻いても仲良しでないどころか、楓夕は思いっきり同族嫌悪をしているのだが、何故か美紀さんは珍妙なことを言い始める。


 当然ながら、楓夕は不愉快そうな視線を美紀さんに向けていた。


「いや母よ……これが何処からどう見たら――」


「あー良かったわぁ、丁度やっくんと楓夕で二人の面倒を見て貰おうって話になっていたから、この調子なら安心してお願い出来そう!」


「……はい?」


 さらりととんでもないことを言われ、俺は変な声を上げてしまったのだが、美紀さんは全く同じ表情とテンションのまま、こう断言したのだった。


「といことで、やっくんと楓夕で暫く二人のお世話をお願いするわね!」

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