第25話 俺の許嫁は今日も可愛い
「まあ、分かりきった結果だわな」
雨夜先生はそう呟くと依存している相棒を口につけ煙を吐いた。
因みに今俺は学校ではなく自宅にいるのだが、雨夜先生が煙草を吸うと言うのでベランダに出て貰ったら何故か俺も出る羽目になり、今に至っている。
「まさか最初から
「逆に何故分からなかったのか疑問でしかないんだがなぁ……まあ取り分け湯朝には本心を隠していたから仕方がない気もするが」
「ですけど
「お前、
「? ええまあ……ですがそれは――」
だが雨夜先生は小さく溜息をつくとこう言うのだった。
「あそこまで優しいのはお前に対してだけだ。はっきり言って自分の親に対しても
「え? そ、そんな……最高過ぎるにも程があるでしょう」
「いらん前置きはせんでいい」
俺は
しかも自分だけに――それが
寧ろそれに気づいていなかった自分が情けないくらいだ。
「ま――何にせよ、テストは合格と言っていいんじゃないか」
「
「ま、審査はお前らが自覚さえすれば最初から済んでいた話だがな」
「導いてくれたのは雨夜先生ですから。そこは本当に感謝してます」
「……私は何もしてないよ、ただまどろっこしいのは嫌いなだけでね」
「いつまでも二人の審査しているのは面倒だったと?」
「――……さて、何の話やら」
雨夜先生はそう言うと吸い殻を携帯灰皿に捨て部屋の中へと戻る。
もしかしたら――雨夜家って優しい人しかいないんじゃないだろうか、何だか湯朝家がずっと関係を続けているのも分からなくもない気がした。
そんな事を思いながら俺も部屋に戻るが――ふと疑問に思ったことを伝えてみた。
「そういえば――なんですけど」
「ん? どうした?」
「
「ああ……確かに旅行に行っているのは事実なんだが、実はな――」
○
「この度、湯朝安昼とお付き合いをさせて頂くことになりました」
「まあ!」
私は長期出張という体から帰宅した母にそう報告すると、母はぱあっと明るい笑顔を見せてパタパタと近づいてきた。
「あらあら! まあまあ! あらまあまあ!」
「何ですかその反応は……」
知っている癖に随分な反応だと思わざるを得ないが、だがそれを口にした所で意味はないので黙っておく。
「念の為確認しておくけれど――それは許嫁だから、じゃないわよね?」
「勿論安昼が好きだからです。あんなに好きになった人はいません」
それこそ金輪際安昼以外の人間を好きになることはないと断言出来る程度には好きだと言える、でなければ付き合う筈がない。
「う~ん素晴らしい! やっぱり愛っていいわねえ……――私もね、パパとは大恋愛の末に結婚したものだったわ~」
「……? 母は許嫁として結婚をしたのではないのですか?」
「何言ってるのよ? 私は雨夜とも湯朝とも全く関係ない元お嬢様よ」
「……なんですと?」
全く予期せぬ流れで放たれた爆弾発言に、私はその場で固まってしまう。
いや待て……だが考えてもみれば、母が湯朝家の人間であれば苗字は雨夜ではなく湯朝になっている筈、ということは――
「パパとは大学で出会ってねー、当時はとっても格好良かったのよ? 今はちょっとおじさんになっちゃったけど」
「そ、そうですか……なら元お嬢様というのは」
「実は私にも許嫁ではないけど縁談があったのよー、でもパパが好きだったから絶縁して今に至るワケ。ふふ、ロマンチックでしょ?」
「はあ……」
中々ハードな過去をこうも楽しそうに語る親がいるのかと言いたいが、確かに母方の実家に行った記憶がないので恐らく嘘ではない。
「ですが……そのような経験をしておきながら、何故許嫁というしきたりに肯定的なのですか? 普通なら反対しそうな気がしますが――」
「何言っているのよ~、そんなの簡単じゃない」
何故か嬉々とする母の態度が理解出来ず、私は訝しげな顔になるが、母は私の頭をぽんと叩くとこう言うのであった。
「両想いな癖にもどかしい関係を続けているからよ」
「……なるほど」
見透かされた物言いが少し腹立たしくもあるが――しかしそんなに私達の関係というのは傍から見ると分かりやすいのだろうか……?
「ま、でもそういうことなら一安心一安心。もしかしたら結婚もそう遠くない未来かもね~――……さて……と」
「? 何処かに出掛けられるのですか?」
「そうなのよ~。パパが今凄く立て込んでて、またすぐ行かなきゃいけないの」
「そうでしたか、それなら――」
…………ん? いや、ちょっと待て。
「あの……まさかとは思いますが、それは――」
○
「おはよう、
「おはよう、安昼」
俺は目を覚まし一つあくびをすると、ベッドを降りてリビングへと向かう。
そしてまずは
とはいえ――本音を言えば夏休みだしダラダラ寝たい気持ちもあるけども、
「今日はいつもより寝癖が酷いな」
「暑いとドライヤーで乾かすのが億劫でさ、扇風機で乾かして寝たからかも」
「お前は気を抜くとすぐズボラに……後で直してやるから洗面所に来い」
「お、ありがとう。でもまずは――いただきます」
「いただきます」
まあ本当は寝癖のまま
相変わらず豪勢な朝食に幸福感を覚えながらテレビの音を耳に挟んでいると、どうやら予報では今日も猛暑日とのことらしい。
「――なんかさ」
「なんだ?」
「こう同居期間が長いと、カップルというより夫婦って感じだよな」
その言葉に
「まあ……許嫁なのだから、それでもいいだろう」
「だなぁ。でも、やっぱり恋人らしくデートもしたいかなーって……」
中々自分でもわざとらしい誘い文句であったが――楓夕は俺の言葉に耳が赤いまま思案するとこう言ってくれた。
「ふむ――な、ならば、花火を一緒に観に行こう」
「お、てことは――
「安昼は――それで喜ぶのか?」
「喜ばない男なんていませんよ、それが
「そうか……なら楽しみにしておけ」
外に広がる雲ひとつない青空は、予報通りうだる暑さを予見させていたが、俺はそれを鬱陶しく思うことはない。
何故かって? そんなの言うまでもないだろう。
「うん、今日も楽しい日になりそうだ」
「当然です、安昼がいるのですから」
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