第21話 楓夕がはしゃぐだけのお話
「貴様、何をグズグズしている、早く来い」
「焦らなくても猫は何処にも行かないって」
「ならば全世界の猫を触れる保証があるとでも」
「全部触るつもりでいたのか……」
電車を乗り継ぎイベントホールまで1時間は掛かったとはいえ、まだ朝の十時くらいなのだが、どうやら
正直俺は初デートと意識すればする程緊張しまくり、やはり今回もまた眠れなかったので、まだ少し眠気があるのだが――
「ん? ――……いやそうだな、全力で猫を愛でるとしよう」
「さっきからそう言っているのです、さあ早く」
○
「はわわぁー……」
そうして。
支払いを済ませた俺達は会場へと入り、早速ケージで仕切られたと1つ目のエリアに足を踏み入れると、
「にゃ、にゃんにゃんしかいない……」
「にゃんにゃん……?」
「あっ、わっ、はっ……ど、どれから触ればいいんだ……」
最早俺など見えていないのか、尻尾を追いかけ回す犬みたくぐるぐる回転しながら周囲の猫に翻弄される
可愛いけど、このままじゃ何も触れずに終わるんじゃないのか……と危惧した俺は、すぐ側のキャットタワーでくつろぐ猫に近づいてみることに。
「ほう、お前はちっちゃくて丸っこい奴だな、てろてろの耳で――お、意外と大人しいな、撫でても全然逃げない」
「む――? おふ……マンチカンだな、貴様中々お目が高いぞ」
「そういうのがあるのか……?」
「いや猫は全て可愛いのですが、この子は比較的人懐っこくて優し――はわー!」
まずい、完全に
「よしよし……お前はとてもお利口さんですね、お菓子か? お菓子が食べたいのですか? はいどうぞ」
そんな
「美味しいか? 美味しいのですか? あーペロペロなんかしちゃって」
「流石に猫に嫉妬はせんけども、凄いな……ん?」
すると
「わ、三毛ちゃん! おにゃんちゃんもお菓子が欲しいのか?」
おにゃんちゃん……?
「白、茶色に黒……ああ成程、三毛猫か」
「三毛猫は殆どがメスなせいか、中々ワガママで気分屋なんだが、こういうイベントに連れてくる猫はやはり人懐っこいな、はぁん……」
妙に艶かしい吐息を漏らす
「こういう
興奮気味の
「なんだお前、あそこの丸っこい奴とは違ってスレンダーだな。何だか雰囲気も
俺はしゃがんでお菓子を与えると、その猫は手から食べてくれる――のだが何故か食べ終えると俺の身体に自分の身体を擦りつけてきたではないか。
「お、おいおい……可愛い奴だな……」
「それはロシアンブルーですね。飼い主に忠実な反面、ボイスレスキャットと呼ばれるくらい物静かで臆病な性格だったりします」
「うおっ! ふ、
「故に飼い主にしか懐かない性格なのですが、その子は随分と貴様に懐いているのですね、羨ま――珍しいことです」
「ふうん、そういうことならもっとお菓子を――おっと」
そんな解説を聞いていると、今度はロシアンブルーが俺の膝の上に乗ってきて、何やら両前足で俺の膝をぐいぐいと押し始める。
なんだなんだと思っていると、目を見開いた楓夕が俺を指差しこう言い出した。
「ふみふみ!」
「はっ? ふ、ふみふみ……?」
「猫の愛情表現の一種です……き、貴様一体その猫に何をした……まさかちゅ~るか、ちゅ~るをやったのではないのですか」
「い、いやお菓子だけだって――って、何か喉まで鳴らして……」
「ご、ゴロゴロまで!」
「いや何なのその擬音の嵐は……」
「完全にちゅ~るで籠絡させたとしか……この卑怯者め……」
「ええ……」
正直ここまで
でも、確かにそれぐらいの魅力を秘めている動物ではある。まあ
「今度はどうした」
「ま、マンチカンの赤ちゃん触れ合いゾーンだと……?」
「へ? ああ、赤ちゃん猫とも触れ合えることが出来るんだな」
「く……ここを離れるのは非常に惜しいですが……あんな短足の赤ちゃん猫に触れる機会など二度とないかもしれません、行きますよ」
「あ、おい
最早暴走状態の
それにしても、まさかここまではしゃぐとは……。
だが終始口角が上がっている所を見ると、
しかしこのまま
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