第14話 雨夜楓夕のモーニングルーティン
「――――――ん……」
許嫁の朝は早い。
大体いつも朝4時くらいか、学生という身分には少々辛い時間帯ではあるが、寝起きが良い私はいつも目覚まし無しで瞳が開く。
「ふぁ……」
一つ欠伸をしてから身体を起こすと、まずは紅茶に砂糖を多め入れ、脳に糖分を行き渡らせる。こうすると私は即座にいつもの調子になる。
そして付けたテレビで天気予報だけを確認。今日は晴れの予報なので私は洗面所へ向かうと黒物だけネット入れて洗濯機を回す。
「さて……」
掃除云々は夕方からなので、私はさっと制服に着替えると鞄背負った。
向かう場所は、学校ではなく安昼の家。
階段を一つ降り真下にある部屋に辿り着くと、私は合鍵を使い『湯朝』の表札が掲げられた家へと入る。
そして玄関を入ってすぐ左手の部屋を開けると――安昼が大の字になって今にもベッドから落ちそうになっている姿を発見した。
「ふう……相変わらずみっともない寝相だな貴様は」
「んん……
「おっと、起こしてしまいましたか」
「ぐー……」
いびきをかいている所を見ると今のはどうやらどうやら寝言らしい。――しかし、私のことを夢に見ているのか……?
「……憎い男だ、私の主は」
「んん……」
私は安昼の頬を突くと、少し唸って寝相が落ち着く。それを確認すると掛け布団を身体に被せ、部屋を後にした。
「今朝の献立は――洋食にするか」
リビングに入りキッチンの冷蔵庫を空けると、食材を見て私はそう呟く。
許嫁たるもの主の舌を飽きさせないことは必須。1週間毎日、全く違うメニューを作れと母から随分教え込まれた。
「パン、ベーコンエッグ、サラダ、スープと……後はハッシュドポテトか」
メニューを決めたら早速調理に取り掛かる、料理が冷めることのないよう全て同時並行で進めていき、その間に洗濯物も洗っておく。
「おや」
そうこうしている内にあっという間に時刻は6時を過ぎる。そろそろ安昼を起こさなければと思っていると、リビングに繋がる扉がゆっくりと開いた。
「
「おはようございます。やす――貴様にしては珍しく自分で起きたのですね」
「最近急に寒くなったからつい二度寝しちゃうんだが……
「まさか……起きていたのか?」
「? いや俺は寝相が悪いのに布団が掛かっていたから……多分
寝起きの安昼は、いつも以上に感謝を告げたりする回数が多い。
ただ、あまり言いたくはないが、こうも毎日言われ続けると偶に胡散臭いというか、許嫁である私に気を使っているのではと思う時がある。
「……そうですね。いつかは寝相も直して貰わないと」
「難しいなぁ……でも頑張るよ」
――だが、私は昔から安昼は嘘をつくのが下手なのも知っている。たとえ嘘をつけたとしても寝起きの悪い安昼がそこまで頭が回るとは思えない。
故に私は朝の安昼が一番安心する、相変わらず寝癖は酷いが。
「お……今朝は洋食かぁ、うまそうだなぁ……」
「食後は髪を梳かすように、あと家を出る前にちゃんと忘れ物がないか確認をすることを怠らないで下さい」
「はーい……なんか
「そう思われたら絶望なので、もっと言わなくていいようにして下さい」
「そりゃそうだ……
「――! ……つべこべ言わずにさっさと食べろ。私を冷めた飯を食わせるような甲斐性なしにする気か」
「おっと……じゃあ手を合わせて――いただきます」
相も変わらず瞼は重そうだが、安昼は行儀よく挨拶をするとベーコンエッグから箸をつけていく。
「全く、この男は……」
「うん、美味しい」
安昼はそう呟くと、満足そうな笑みを浮かべてどんどん食べ進め始めた。
「…………」
「ん? もしかして顔に何か付いてる?」
「いや――別に」
……安昼は私の作ったものはいつも美味しそうに食べる。そんな姿を見ていると――私は不思議とこの時間は悪くないと思える。
――いや違う、もしかしたら心が満たされているのかもしれない。二人で過ごしている、この取り留めもない時間が。
だから最近私はふと思うのだ――この時間が続いて欲しいと。
ならば、そうする為の方法は――ああそうだ、言うまでもない。
「
「当然です。一番手を掛けて作ったのですから」
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