第12話 第三者から見た二人
「ねえ湯朝くん、ちょっといい?」
数学の授業が終わり、今日もまた圧倒的敗北を喫した事実に嘆息しながら移動教室の準備をしていると、一人の女子生徒が声を掛けてくる。
「ん――? ああ、二宮さん、どうしたの」
彼女は同じ2年生のクラスメイトであり、茶髪のミドルヘアにウェーブがかかった髪型が特徴的の、男子の中で一際可愛いと名高い女の子。
――なのだが、今は部活の先輩の彼氏がいるとかで、男子諸君はショックを受けているらしい、まあ俺には至極どうでもいい話ではある。
「あのさ、ちょっと聞きたいことがあるんだけど――」
そう言うと二宮さんはすっと顔を近づけ耳打ちをする態勢になる。
何だ……? 俺に聞きたいことなどあるとは思えないのだが。
「湯朝くんってさ――雨夜さんと付き合ってるの?」
「え? いや付き合ってないけど」
「へ、付き合ってないの!?」
彼女としては最大限抑え込んだつもりなのだろうが、それなりに驚いた声を上げてしまったことに気づきハッと口を抑える。
「あ、ご、ごめん」
「いや別に……」
「って、いや、それマジなの? 一切そういう関係はないの?」
「うん? うーん……」
別に隠す事でもないんだが、許嫁の話は人によってはややこしくなりそうだからなぁ……どう説明したらいいものか。
しかし然程面識もない俺にわざわざそんなことを訊くということは、俺の
流石モテる女は察しがいいと言うべきか。
「まあそうだな――前から彼女のことは気になってはいるよ」
「まさかそれで通ると思って?」
「へ?」
決して嘘はついていないというのに、何故か二宮さんは俺を胡散臭いものでも見るかのような目でジロリと見つめて来るので思わずたじろぐ。
「というか……はっきり言うけど、結婚を前提レベルに付き合ってない?」
「いやいや、結婚したいとは思ってるけど、付き合ってはないって」
「は? え? ――…………はぁ?」
何言っているんだこいつはと言わんばかりの表情から、それはまずいと思ったのか、彼女は再考するが、やはり意味が分からなかったご様子。
まあ俺も何を言っているのか分からんが、嘘ではないしなぁ。
「えーと……じゃあつまり、仲はいいけど、湯朝くんは雨夜さんに好意があって、でも想いは伝えられずにいるのが現状?」
「分かったのか……、まあ仲が良いのかはイマイチ分からんけど」
「それで仲悪かったらこの世の人間関係に不信を覚えるわ」
「ええ……そうか……?」
昔からの付き合いと仲が良いのは比例するとは思えないけどな……第三者の視点だとそう見えるのだろうか。
「というか……何を悩んでるのか知らないけど、告白したら絶対いけるでしょ、雨夜さん君のことしか見てないじゃん」
「えー……? いやーそんな単純な話ではないだろ」
第一いけると思ってるならとっくの昔にいっている。いけないから何とか
しかしモテを知る二宮さんが言うならあながち間違ってもいないのだろうか、ならば案外教えを請うのもアリか――?
と思っていたら、突如俺の右半身を黒いオーラがふわりとなで上げた。
「おい……貴様……」
「へ」
え? あれ?
「移動教室だというのに随分と呑気なものだな……」
「あ……悪い、すぐに準備を――って、あれ? おかしいな……」
「貴様が探しているのはこれだろう」
次の授業で使用する教科書が見当たらず慌てて探していると、
「家の机に放り出されていました。宿題をしているのは感心ですが、終わったらちゃんと鞄に戻す癖を付けておかないといけませんね」
「あー……言われてみれば完全にやりっ放しになってたな……いつもありがとう
「全く……貴様は私がいなかったら完全に駄目人間だな」
そう呟くと
「いやはや、ぐうの音も出ないよ」
「私からすれば当たり前のことをしたまでの話です。まあ常人では少し難しいかもしれませんが――さて、授業に行きましょう」
「ああそうだな――あ、二宮さんごめん、じゃあまた今度」
「え…………あ、はい」
半ば楓夕に押される形で急かされた俺は、二宮さんとの話を打ち切ってしまうと、椅子から立ち上がり歩き出す。
ふむ……しかし二宮さんはああ言っていたが、やはりどこからどう見てもいつも通りの
これで告白なんてしたらリスクしかないと思うのだが……二宮さんには一体何が見えているのだろうか。
ただ――
「いやー……やっぱりどう見ても良いカップルだなぁ……私も見習わないと」
(※二宮さんは第三者視点としての登場なのでヒロインではありません)
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