第9話 楓夕の単語の覚え方
「…………」
今現在、警戒心MAXの
それにしてもあの耳が赤くなるのは警戒色だったりするのだろうか、いやまあそんなこと訊いたらぶっ飛ばされるから絶対に言わないけども。
「えーとじゃあまずは――」
「脱出する為に英単語を覚えるのだな」
「いやそういう要素はないんですけど」
というかそこに警戒するなら来なければ良かったのではと思うが、
「因みに
「28点ですね、貴様は確か29点などと舐め腐った点数を取っていたが」
「それを高いという意味で舐め腐っていると思われてるのが怖えよ」
「それで私の数学の点数に勝ったと思うなよ」
いや言ってねえわ。と言いかけるがこのままでは間違いなく不毛な争いでしかないのでさっさと話を戻してしまおう、今重要なのはそれではない。
「取り敢えず直近の目標は赤点回避だな、となると小テストは殆ど単語問題だからそこを攻めよう、今回だと出題範囲は100単語くらいか」
「その中からキーワードとなる単語を見つけ出し並べ替えるのですね」
「アナグラムの話はしてないんですよ」
いかん、完全に脱出ゲーム思考から脱出出来ていない、何とか楓夕の勘違いを正してやらねば。
故に俺は話も早々に単語帳を開くと前回出題の単語に目を通す。
「ええと……あーuglyかぁ、前回覚えたのに分からなかったんだよなこれ」
「はあ。醜い、不快な、という意味だったと思いますが」
「え?
「? ええまあ、貴様が人様から奪った金品を醜悪な顔しながら『ugly』と言っている姿を思い浮かべて覚えました」
「そこが俺である必要とは……」
そんな犯罪者面した覚えはねえわ。
ふむ……しかし成程、場面をイメージして覚える方法なのか。
「じゃあmiserableはどうだ?」
「悲惨な、哀れな。――貴様が奪った金品が警察に見つかり、逮捕された時に悲愴な顔をして『miserable』と言っているイメージですね」
「話が繋がってやがる……」
つまり一つの物語を作ってそこに当てはまる単語を付け加えていると、要領が良いのか怪しいがこうなると他の話も聞いてみたくなってくる。
「cowardだと何をイメージして覚えたとかはあるのか?」
「臆病者ですか。貴様がゴキブリを見つけた時に逃げ回っている姿ですかね」
「ノンフィクションじゃねえか」
事実俺は昔から虫の類はあまり得意ではない、中でもゴキブリとの相性は最悪。
確か一度だけ
まさかこんな所で黒歴史が役に立つとは……嬉しいやら悲しいやら。
「しかしその覚え方で忘れてないなら、小テストの結果はもっといい筈だと思うんだけどな、少なくとも半分は取れている筈だろ」
「何でも繋げられる訳ではないので、そんな甘い話ではありません」
「なら俺をベースにしてもいいから、今作って覚えてみようぜ。そうだなぁ……じゃあfavorとかどうだ『好意』って意味だが何か繋げられないか?」
「好意……そうですね、貴様に好意があるとか…………は?」
「なるほど、それはベターな覚え方――――え?」
決してそんなつもりで言った訳じゃなかったのだが、
「え、えっと、それは……」
「い、ifの話に決まっているだろう! は、早く次の単語をだせ!」
「あ、そ、そうだよな! え、ええとじゃあaffectionならどうだ?」
「あ、affection……? な!? あ、愛情だと!?」
「えっ!? あ、こ、これは駄目だよな……」
「い、いやそういうことは……く、くうう……」
ただ単語を覚えるだけの筈なのに、何故か
ま、まあね、正直ifだとしても俺は超嬉しいんだけども……しかし今はそれどころではない、何とか軌道修正をしないと作戦どころの話では――
「え、ええと……わ、分かった! じゃあこれだ! triumphなら大丈夫だろう!」
「triumph……? ……貴様に……小テストで大勝利する……」
「そ、そうだな……その気持ちで明日のテストも頑張るとしようぜ……」
「で、ですね……貴様にしては……いい事を言いました……」
燃えに燃え盛っていた空気がtriumphのお陰でようやく鎮火され、二人して息を吐いて俯き加減になる。
いや、何で単語を覚えるだけでここまで疲れ果てているんだ俺達は……。
しかしこれ以上続けるのは危険でしかない――お互いそう思っていたのか、自然とそのまま勉強会は打ち切りとなったのだった。
結局作戦は大失敗、どころかこれで変な悪影響が出なければいいけど――
と思っていたのだが。
翌日
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