第8話 馬鹿が揃うと阿呆になる
「…………まずい」
俺は手元にある小テストの点数を見て軽く硬直していた。
というのも俺は基本的に数学が苦手なのである。
高校1年の時までは苦手、という程でもなかったのだが、ベクトルへの理解が及ばず脳みそが崩壊、以後数学そのものに苦手意識が生まれたのだった。
「しかし24点は良くないなぁ……何せ赤点だしな……」
このままでは期末考査も非常に芳しくない成績になるだろう。流石にどうにかせねばならんが、自慢じゃないが俺は塾講師も匙を投げる次元の理解力なのだ。
「いや他教科まで赤点とかじゃないんだけどな、でもこれは……」
「おい貴様」
そうやってブツブツと悩みのタネを吐き出していると、そんな俺の前をふわりと黒い影が覆いかぶさる。
これが悪魔なら俺は天才と引き換えに毎食苦手な生野菜を混入される契約を結んでもいいのだが、無論そんな筈はない。
「おう
「今回の小テストの結果は如何でしたでしょうか。まあ当然ながら許婿として恥のない点数を取っていることかと思いますが――――ふっ」
あいも変わらず無表情を極める彼女であったが、何かに気づいたのか突如ふっと小さく広角を上げる。
「よくそんな点数を机の上に広げられますね」
「そうだろうと思ったよ」
「せめてその2を弄って8にしたらどうですか、見栄えだけは良くなるかと」
「そんな小学生みたいなことするか」
恥を上塗りすることで体裁は整うんだから奇妙な話ではあるけども、この歳でそれをしたら可愛い奴だ、では済まねえから……。
「というかそこまで言うなら
「26ですが何か」
「そう言うと思っていたよ」
この見た目からすると
ただ頭の回転だけは恐ろしく早いので、仮に俺が26で
「それにしても24点とは……呆れてしまいますね、一度脳みそを解剖して遺伝子レベルから改革をすることを推奨致します」
「26相手にそこまで言われることある?」
「2点差というのは絶対に超えることの出来ない大きな壁なのです。98点と100点なら称賛されるのは後者、違いますか?」
「どっちも赤点という壁を超えてないんですけど」
しかし
でもご機嫌な
そう思っていると、彼女は得意げな表情のままこう口を開いた。
「だが――私とて悪魔ではない。この絶望的な2点差を埋めることは許嫁として急務――故に勉強会をしなければいけません」
「まあ勉強はな……って、ん? 『会』? 俺と、
「それ以外誰がいるのですか」
……え? いや……それは……馬鹿が二人寄り合っているだけでは……?
俺と
どう足掻いてもその先にあるのは馬鹿が阿呆になるだけな気がするのだが……ん? でも待てよ――
「……いや、それは名案だな」
「だろう、貴様の哀れな勉強能力を私がこの目でしかと見守って――」
「そういえば丁度明日英語の小テストだったよな、なら早速今日俺の家で勉強会を開くとしよう、目指せ100点って奴だ」
「――……なに?」
今まで俺と
つまり『
――なのだが、あれだけご機嫌だった
「……どうした
「き……貴様の家で……するのか……?」
「え、まあそりゃ、それ以外の選択肢はないというか」
それに俺の家の方が作戦を実行する上で都合が良いと思ったのだが……徐々に
「貴様と……二人きり……密室で……?」
「いや別に変な意味は――あの、嫌なら他に方法を――」
「――いや、いいだろう……やってやろうではないか! その脱出ゲームとやらをな!」
「そんなこと一言もいってないんですけど」
どう考えてもあらぬ方向に向かっているのだが、大丈夫だろうか……。
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