第4話 好きと言ってみよう
「さて……今日は好きと伝えてみるとしよう」
といっても直球ストレートの愛の告白ではない、そんなことを現段階で言えば『反吐が出る』と返されるのが目に見えているしな。
故に残念ながらライク寄りの好きという奴である。お前のそういうとこ好きだわーとか自然に言うことで俺といる時間を少しでも気分良くして貰う算段だ。
まあまだ何一つ進歩はしていないのだけども……徐々に強度は上げなければ、ジャブばかりでは駄目だと自分に言い聞かせると、俺は靴を履き玄関扉を開けた。
「いってきまーす」
「……貴様如きが遅刻とは関心しませんね」
「お、
「限りある人生の中で20秒も無駄にされたのだから当然です」
「意識高い系の実業家みたいなこと言うんですね」
絶対そんな上司の下でやっていける気がせんわ……まあそんなことを言っている人が上司どころか嫁になろうとしているんですけども。
とはいえ、
つまるところ彼女は頻繁に毒針は刺しては来るが、それは同時に自分にも厳しい裏返しでもあるのだ。
それに朝から迎えに来てくれるようになって俺は遅刻なんて言葉とは無縁になったので、寧ろ感謝すべき点は多いというべきだろう。
なので俺は特に反論もせず玄関を出ると、
「無駄話をしている時間が無駄なのでさっさと行きましょう」
「あいよ――
「貴様が愚鈍なだけです、普通なら誰でも出来ます」
「そんなことはないだろ。でも
「……いつまでも口煩くしていても敵いませんから、いつか自分で出来るようになって下さい、子供じゃあるまいので」
「
「私は毎日が色褪せて枯れているのですが」
「でもそう言いつつ見捨てないでくれる所が好きだよ」
さあどうだ! 今のは自然に
中々上手く本音の中に好きを混ぜ込めたことに心の中でガッツポーズした俺は、反応を見ようと視線をチラリと彼女の方へと送る――
が。
「……………………」
ええ……滅茶苦茶眉間に皺が寄っているんですけど……?
何なら次にでるワードは「ミキサーにかけて挽肉にするぞワレ」であってもおかしくない程度に苦い顔を見せつけられてしまっている。
せめて澄まし顔なら良かったものを、睨み上げるような表情をされては流石に圧倒されてうまく言葉が出てこなくなる。
「おい貴様」
「はい……なんでしょうか……」
「のぼせ上がるなよ」
「のぼせ」
「私はあくまで許嫁としての責務を粛々とこなしているだけです。決して貴様を甘やかす為ものではないことは努々お忘れにならぬよう」
いやワードセンスの癖が凄いな……ぐうの音も出ませんけども。
思わず幼少期に知らない言葉を使われては論破され号泣した記憶がフラッシュバックしかける、今は違う意味で泣きそうだが。
ふ――だがな
ラブの前ではその程度の言葉、屁でもないことを教えてしんぜよう!
「でもさ、そうは言っても
「それは貴様が無知なだけです。よく聞くでしょう、男が思っている以上に主婦は沢山の仕事があると、私はそれこなしているに過ぎません」
「最終的には全部自分でやって貰った方が助かると……と?」
「そう言っているのです。寧ろこのまま行けば貴様が社会人としてまともにやっていけるのか不安でしかないというのに」
「やっぱり気にかけてくれてるじゃないか、それが嬉しいのに」
「嬉しいのは結構ですが、気にかけずとも済む努力はして下さい」
うむ……そりゃ至極真っ当な意見だ。当然ながら俺だって
ただいくら許嫁だからだとしても、それを全うしようとしてくれる
「……いや、まてよ」
よくよく考えてもみれば、やりたくもないことをしていて、それを褒められた所で嬉しいと思う人間などいるのだろうか……。
ううむ……そう思うと、失言だったかもしれない。
「ごめん
「分かればいいのです。全く、もう少し主としての――」
「本当はやりたくないのに、無責任なこと言って……」
「いえ、私は好きでやっていますが」
「へ?」
「? ――――――――!?」
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