第2話 楓夕を褒めてみよう
「――ということでご教授願えませんでしょうか」
「はあ?」
雨夜先生は片手に持っていた電子タバコを落としそうになりながら、俺の言った言葉に素っ頓狂な声を上げた。
「
「ですが
「そりゃ今でも普通に話はするが……」
雨夜先生こと
面倒見が良く姉御肌な彼女には、幼少期の頃から二人揃って懐いていたもので、よく遊んで貰ったものだった。
しかし、今は学校で会う以外では殆ど接点がない、何故かと言うと――
「私は勘当された身だからなぁ、しかもよりにもよってあの前時代的な風習に首を突っ込むのはちょっとな……」
「そ、それはそうですが……」
そう、実は雨夜先生はその許嫁の風習に反発をした人なのである。
特に相手がいたという話でもないらしいのだが、風習そのものに納得が行かなかったらしく、大学卒業と同時に家を飛び出し今に至っているのだ。
ただ
「……というか、湯朝は
「え? 好きですよ、普通に」
「……マゾだな」
「なんてこと言うんですか」
まあ確かにそう思われる印象を
とはいえ、それは長い間
「ふむ……しかしそうか、それは意外だったな」
「俺が
「まあなぁ……昔は
「あの毒に敵うだけの語彙を持ち合わせる小学生がいたら驚きですよ」
何ならあの毒針に打ち勝った小学生がいたのなら教えて欲しいくらいだ、俺に限らず一体何人の小学生が泣かされてきたことか……。
「だが――あの牙城を崩すのは難しいぞ?」
「ですけどこのまま結婚となったら
「それはなぁ……そういえば湯朝は彼女はいたことないのか?」
「いたらもう少し自分の頭で行動しますって、何なら
「それもそうか――……なら『格好いい』所を見せるが一番だろうな、高校生の恋愛において女が一目置く比重はこれが一番大きい」
「ふむ……格好いいですか」
成程、言われてみれば俺は常に
「でも格好いい所を見せる機会って中々ないですよね……」
「スポーツが出来れば一番手っ取り早い話ではあるんだがな」
「帰宅部のゴミには無理のある話だなぁ……」
「はい?」
悲しい話だが敗者というのは単に口喧嘩に負けるだけでなく、スポーツにおいてもそれは適応されているのだ。
「……そうだ。なら楓夕を褒めてあげるというのはどうだ」
「褒める……ですか?」
「感謝を告げる、とも言うべきか。あいつは何でも器用にこなす所があるだろ? そういうって当たり前になると中々褒められたり感謝をされなくなるもんだ」
確かに……言われてみればそうかもしれない。
俺自身がそう思うのだから、周囲は意識すらしていないかもしれない。
「細かな所に気づいてくれるのは誰だって嬉しいもんだ。教師ですら中々出来る奴はいない、効果はあると思うぞ」
「……言われてみればあまり自分の口から言ったことは無かったですね……よーし、そうとなれば早速
「私がどうかしましたか」
「イイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイッ!!!?!!??」
そう意気込んだ瞬間、背後から楓夕の声が聞こえたものだから、俺は思わずその場から飛び上がってしまいそうになる。
「ふ、
「何でって、予鈴が鳴っているのにも関わらず貴様がそこら辺の阿呆宜しく教室に戻らないから探しに来てやったのでしょう。あ、紗希さんこんにちは」
え? しまった……もう昼休みも終わりだったのか。つい話し込んでうっかり時間を忘れてしまっていた。
「ん――――いや、でも待てよ」
あくまで雨夜家のしきたりに則った行動とはいえ、わざわざ授業に遅れてはいけないと探しに来てくれたのは感謝すべき以外の何物でもない……。
普段なら「悪い悪い」で済ませてしまいがちだが、今こそ伝えなければ!
「
「……? はい」
「そ、その、わざわざ探しに来てくれてありがとうな。本来なら俺が気づかなかったのが悪いのに気を利かせてくれて……」
「…………は?」
「え」
「中々どうして気持ち悪いので皮膚呼吸も止めて貰っていいでしょうか」
「皮膚も」
ええ……それ程でもないと思っていたものが、実際はその通りではなく、それどころか、思っていた以上で気持ち悪いってことなの……。
決して冗談で言ったつもりではないだけに、その返答に軽くメンタルが逝く。
いや……でもそれもそうか……今までそんなの微塵も言わなかった癖に、急に言い出したらそりゃ気持ち悪いと思われても仕方がない。
これは大いなる反省点と捉えよう――だからこそ、これを第一歩として
「楓夕に幸せになって貰う為にも……!」
「何をブツブツ言っているんですか、死ね――じゃなくて行きますよ」
「そんな間違え方ある……?」
「ん? ……
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