俺の許嫁がクールで毒舌が過ぎるので本気でデレさせてみた
本田セカイ
両片想い期
第1話 許嫁は今日も毒針を刺す
「おい貴様」
突然だが俺には許嫁というものがいる。
今の時代許嫁など何を言っているんだと思うかも知れないが、いるものはいるのだからどうしようもない話ではあるのだ。
「
「おい貴様」
「一言一句直ってないなんてことある?」
というのも、
ただ――それこそ当時は地主だったからとか、そういう理由であり今は裕福でもない至って普遍的な両家なのにも関わらず、何故かこの奇妙なしきたりだけが脈々と受け継がれているのである。
「貴様如きにもう学校に用はない筈です、帰りますよ」
「いや、まあ放課後だからね」
「普遍的な学生というものはここから部活動に興じるものですが、貴様はゴミ同然の帰宅部ですから下校以外の選択肢はない筈です」
「ゴミは言い過ぎだろう、勉学に励む帰宅部もいるというのに」
「では貴様が勉学に励んでいるとでも」
「い、いえ……」
「ゴミが」
「ええ……」
そして今更言うまでもないが、その許嫁というのが
だが彼女、この通り中々に口が悪いのだ。
口調そのものは一歩身を引いた感じはあるのだが、いかんせん放たれるワードには一々険のあるものだから相殺どころかマイナスもいい所。
とはいえ――彼女のこの毒は今に始まったことではなく、幼少期の頃からこんな感じなので今更だったりもする。
寧ろこの毒舌もとい毒針を俺以外に刺さなくなっただけマシとさえ言えよう。
「……まあ、予定がないのは事実だからな、じゃあ帰るか」
「はい、ゴミ――貴様」
「ゴミに引っ張られるのはあんまり過ぎんか」
なんて言った所で
それを見て、彼女はすっと俺の横に並んで歩き始めた。
さて、これを見て奇妙に思った奴も多いだろう、「彼女はお前のことが嫌いそうなのに随分と距離が近いな」と。
そう思うのは無理もない。だがこの行動はあくまで許嫁としてあるべき振る舞いを、言いつけを守っているに過ぎないのだ。
故に残念ながら行動よりも言葉の方に真意があるのが悲しい現実……。
「…………」
「……? どうした貴様」
「いや、なんでも」
しかし、そうなれば彼女は不本意な結婚を強いられているということに。しかもそれを忠実に守っているとなれば気の毒とすら思う。
だが不思議なことに――彼女は高校に入ってすぐ許嫁の話をされた際、特に反対する様子は見せなかったそうな。
過去にはこの許嫁に憤慨して絶縁した雨夜家の人間もいたそうなので、
「そういえば――そろそろ貴様との同居の話が出ておりましたが」
「ん? あーそういえばそんなことも言ってたな……でも早いだろ、俺達まだ高校生だぜ、しかも実家も近いのに、何を同居するんだって話だよ」
「貴様と同意見なのは癪ですが――いつの時代の話をしているのやら」
まあ許嫁とかいう古いしきたりを守っている時点でな……という気はするが、未成年が同棲などいくら何でも気が早過ぎる。
第一俺と
「そもそもあんな馬鹿げた話を真に受ける必要もないしな」
「……ゴミと結婚してなんの生産性があるという話ですしね」
「せめて貴様と言ってくれませんかね」
スっと黒のショートボブを靡かせ真顔で答える彼女に俺は思わず突っ込み。
相変わらず愛想のないすました表情からスラスラ毒が出るなあと感心せずにはいられないが――それを許せるのは彼女の美貌があってこそだろう。
そう。だから、という訳でもないが俺も許嫁に関しては反対はしていないのだ。寧ろ反対する理由などあるのかというまでに。
こんな美人と添い遂げられるチャンスなど世界中見渡しても滅多にない、そう考えれば毒舌など愛嬌であるとすら思えてくる。
まあ、そもそも俺は
「ただなぁ……問題が山積みというか……」
「……? 何をブツブツ言っているんですか、おどろおどろしいですね」
「気持ち悪いで良くない?」
結局の所、やはり
渋々許嫁でいるのならそれは良くないし、何よりその状況で一つ屋根の下に入れば無用なトラブルを招くだけ。それは俺にとっても本意ではない。
しかしそう簡単にこの状況を白紙に戻すのも難しい――
だから俺はこう考えたのだ「好きになって貰えば万事解決なんじゃね?」と。
明らかに無謀なことを言っているが、無理やりより何百倍も良いし、何よりそれでも駄目なら俺から結婚の辞退を申し出れば穏便に話が済む筈。
つまりやれるだけのことはやってみようという事だ。
それに……もし上手く行けば
だから俺は決意したのだ――――彼女をデレさせてみせると!
「ふっふっふっ……
「吐き気のする表情を浮かべて歩くので文字通りドン引きしたまでです」
「吐き気て」
う、ううむ……この俺と彼女の距離感を見る限り、現状は前途多難としか言いようが無さそうだ……。
だがこの程度で挫けるほど楓夕との付き合いは短くはないのだ! さあいざ行かん! と俺は改めて意気込むと、
「あ、近づかないでくれますか、同類と思われたくないので」
「あ、はい」
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