第17話 アパレルショップ~道の駅 ミンションポッシブル

「熱中症で殺す気か!?」

「ソーリー。普通に忘れてたわ」

「ははっ、ははははっ!」

「そんなに面白いかハヤブサ」


「おいやめろ! 羽をいじるなっておい!」



 しまった。遊んでいる場合ではない。


 タカだから安心できるが、一応二人がどうするのかを見ておきたい。



「二人はパークを回るそうだ。俺は尾行するが二人はどうする?」

「あの二人で!? それじゃぁ上から見張っておくわね! ハヤブサはお留守番しててくれない?」

「良いだろう」



 ハクトウワシに地面に下ろしてもらい、俺は二人の後を追った。二人一緒に遠くに飛んでいたらどうしようもないが、バスを使うなら時間的に余裕で追いつく。


 俺は速攻で草木を引き抜いて体に纏い、ギリースーツを作った。二人はタカなので視覚さえ騙せればなんとかなるはず。


 見事に草の妖精となった俺は、すぐに二人に追いつくことができた。



「セントラルのアーケードまで乗せて頂戴」

「ワカッタヨ。フレンズ二人ダネ」



 どうしよう。バスに乗らなければ引き離されるが、乗ったら確実にバレる。俺だとバレなくても、怪しさ100点満点の草の妖精を見つけたスズは襲ってくるだろう。ハクトウワシも見えないし、自転車もない。


 俺は考えた。


 バスに乗らずに、移動する方法。



 テレレレレレレレレレレレレレッッッッッッ テレレッ↑


 デーンデーンデンデン デーンデーンデンデン


 テレレー テレレー テレレー



 某スパイ映画のBGMが脳内に流れ、緊張が最大になる。


 バスが発車した、今だ!


 全速力で走り、バスに追いついた。手すりの位置、バンパーの出っ張りをよく確認し、狙いを定めていく。


 段々とスピードが上がっていき、全速力でも少しづつ距離が離されていくようになった。狙うならギアの変わる瞬間しかない。


 ガシャン!


 俺はその瞬間渾身の力で地面を蹴り、なんとかバスの後部の手すりにつかまることに成功した。すごい勢いで張り付いたがギアチェンジの音でかき消されてタカもスズも気づいていない。



 その後バスは森の道路からバイパスへ入り、パークの高速道路に乗った。スリップストリームの負圧のおかげで疲れることはないが、後続の車両が居るので一瞬でも気を抜いたら無事では済まない。


 しかも横を走っているバスの客に写真を撮られまくっている。



「モウスグパークセントラル、パークセントラルダヨ。荷物ヲワスレナイデネ」



 20分ほどバスに張り付いたままで居ると、段々と人の気配がしてきた。もうセントラルが近い。


 バス停で一緒に降りても駄目なので、俺は直前で減速した瞬間に道路脇の植え込みに飛び込んだ。


 通販で買った結構良い双眼鏡を構え、ギリースーツのまま尾行を開始した。



「良い? 私達は私のコスプレをしてる人間よ。堂々としてればフレンズとは思われないわ」

「ふん……」

「もう。それじゃ、最初はアスレチック行きましょ? ヒト用に作られてるけど加減すれば楽しいわ」



 二人はアスレチック施設に向かった。子供用から大人用までレベルがあり、フレンズもここでよく遊んでいる。屋外にはプールもあり、イカダを飛び移ったり水に落ちないよう飛んで遊べる遊具も設置されている。


 俺は部屋の中の作り物の観葉植物に紛れ、尾行を続けた。



 筋肉質の男の客が本気でやっても失敗した所をタカが涼しい顔でクリアし、物足りないのかバク転を混ぜたりして目立ちまくっている。羽を畳んでジャージに上手く隠しているので見た目は人だが、あの動きではごまかせない。



「スズも来なさいよ」

「こんな子供みたいなことしたくない」


「あ、鳥のおねーちゃ」

「あなたはっ!」

「どしたの? アスレチック怖いの?」



 あの子、スズに助けられた子だ。ミジンコのせいで怖い思いをしたはずなのにまた来てくれたのか。


 女の子は目の前のトランポリンに元気よく飛び込んだが、バランスを取れずに転倒し他の客が飛んだ衝撃でスズに向かって飛んでいった。



「っと」

「受け止めてくれてありがと。一緒に遊ぼーよ」

「私は……」



 タカもじっと見つめている。お? 遊ぶか? 一緒に遊ぶか?


 しかし結局スズは心を開かず、最後まで仏頂面で同じ場所に立ったままだった。




「んもー。遊んであげればいいじゃない? クールじゃないわ」

「別にクールとかいい。私帰る」

「あー待ちなさいよ、もうちょっと付き合って」




 次に二人はアパレルショップに向かった。パーク限定のシャツなどが置いてあるだけで、本土にある店と変わらない本格的なショップだ。


 俺はまた店内の観葉植物に紛れ、二人の様子を観察した。



「この子に似合う服ってあるかしら?」

「服なんか要らないわよ」

「はい! 今お選びいたしますってうわっ、二人共顔ちっさ……足なっが……可愛すぎるでしょ……いくらなんでも……」


「今なにか言った?」


「いえ! 少々お待ち下さい」



 その後店員がいくつか服を持ってきて、タカが半ば強引に試着室に押し込んでそれを着させた。


 ヒラヒラのワンピースや、ああ何だあれ名前が分からん……なんかおしゃれなズボンなど、全てが似合いまくってモデルのように見える。最高に可愛い。



「おでかけ服ですかね?」

「おでかかなんて……」

「デート用の服を選んであげて。ね? 靴とかもお願いするわ」

「ね? じゃないわよ何言ってるの!」


「承知いたしました」



 今度は他の店員も手伝い出し、帽子や小物やら色々持ってきてスズをデコレーションし始めた。スズも何故か文句を言いながらも律儀に持ってきたものを全て着てくれている。


 数分後、何回着替えたかわからないが店員とタカの吟味の末にスズの服が決まった。


 なんてことはない、シャツとスカートと帽子と、靴。髪はタカのコスプレという設定でいつもの綺麗な白髪ではないが、度肝を抜かれた。

 物事は極めて初めて一般人がすごいと思えるものだが、ファッションに無頓着で詳しくない俺が引くほどには可愛かった。美しいと言うべきか。


 服を選んでいた店員達が黙り込み、買い物をしていた客すら試着室の前に集まって見物している。ある人は鼻血を出して倒れ、またある人は開いた口が塞がらないという状態で口を抑えてただ佇んでいた。



「もう十分? なんで皆して私のこと見てるの」

「わぁ……」

「すごいことになったわね……」



 俺が見とれている間にタカは会計を終え、二人は店を出ていた。俺も慌ててついていき尾行に戻る。


 しかし良いものを見た。おかげでまだふわふわとした気分から抜け出せず、尾行に気が乗らない。



「タカ」

「ん?」

「あの丸くてフワフワの食べ物、どこにあるの」

「ジャパリまんのこと? もしかしてお腹減ったの? なら一緒に食べましょ、美味しい場所知ってるわ」


「なんで私に優しくするの? さっき暴れてやろうと思ったけどできなかった」

「ええ? あのお店は色んな人が使うのよ。あそこに限らず、迷惑はかけるべきじゃないわ。それに優しくしてるつもりはなくて、お友達として接してるだけよ」


「優しくしてどうするの」

「ど、どうする? 私そんな事考えたことないわ。それにお話はお店でしましょ。ね? さすがに空腹よ」



 二人がバスに乗ったので俺はまた張り付いて移動した。バスはナカベちほーまで移動し、道路の途中の道の駅のような場所で止まった。



「お蕎麦食べましょ。私よく風にのってここに来るんだけど、バスで来るのもいいものね……ん? スズ、何見てるの?」

「何も見てない……」


「フフフ、じゃああそこにある松茸の土瓶蒸しってやつも食べましょ? ねっ」

「……うん」



 あいつらは何を見て話しているんだ? まさかこの場所からあの恐ろしく遠い露店のメニューの文字を読んでる……? 俺の持っている双眼鏡の倍率を最大にしてもメニューの書いてある看板がやっと見えるくらいなのに、タカ達は視力が良すぎて見ている世界が違いすぎる。


 感心していると、一人のスーツ姿の男が近づいてきた。



「お客様!」

「ん? 俺のことか?」

「そうです。お体に付いている葉っぱは取っていただきたいのですが」

「これ、ギリースーツなんですよ。ちょっと事情があってですね」



 店長を呼ばれそうになったので俺は仕方なくギリースーツを脱いで、タカ達の後を追った。


 全く、道の駅なのにドレスコードの厳しい店だ。アスレチック施設とアパレルショップの店員は死ぬほど嫌な顔をしながらも無視してくれたのに。


 しょうがないので俺はサングラスとマスクを購入し、研究所に入るときの白衣を身にまとって尾行を続けた。



「お客様……あの……」

「どうされました?」

「……なんでもございません」



 No problem.


 その後俺はなんとかタカの近くの席を取ることに成功した。タカとスズがお盆に乗った蕎麦を持ってきたのだが、タカが異常な量の天ぷらを盛っている。



「お蕎麦もクールなのが一番ね!」

「全然クールじゃないでしょ。山みたいに天ぷら盛ってるくせに」

「何よ、言うようになったじゃない」



 見てたら腹が減ってきた。ということで、俺も天丼を頼んだ。パークではフレンズに配慮して動物性の食事が少ないので、クソでかい海老が乗っているやつを選んでおいたが正解だった。


 松茸だの伊勢海老だの、サンドスターのおかげで環境が整えられているおかげでこういう高級品が安く食べれるのは本当に素晴らしい。しかも今の俺は研究助手のおかげでパーク内の施設を割引利用できる特権もある。

 ……後で母さんに高そうなやつを適当にまとめて送りつけておこう。



 しばらく二人に動きがなかったので先に天丼を完食し、双眼鏡で観察していると珍しくスズが喋りだした。



「タカ、話がある」

「私に話?」



 話……?

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